第五都市アーニュル『2』
私は声の聞こえた方に顔を向ける。
そこにはあの老人と、数人の騎士がいた。
「今日こそは土地代をきっちり払ってもらうからな!」
「すみません、でもこの土地は代々家が受け継いでいまして
土地代も何も払う物はないはずなのですが………」
「そんなもん関係ねぇんだよ!!」
「なめてっとぶち殺すぞ!!」
ドンッ
一人の騎士が老人を突き飛ばした。
老人は尻餅をついて後ろに倒れ込み、”ウッ”と呻き声を上げた
私はいてもたってもいられなくなって老人の元へ駆け寄る。
「大丈夫ですか!!」
「あ、あぁ」
私は老人の両肩を支えつつ上体を起こした。
それを見た騎士達が突っかかってくる。
「んだぁてめぇ!」
「女がしゃしゃり出てくんじゃねぇ!!」
「なめてっとぶち殺すぞ!」
一人さっきと同じ事を言っているが今はどうでもいい。
彼らが騎士だからとか関係ない。
人を突き飛ばすような人をどうしても私は許せなかった。
遠くからも聞こえたきたが、この騎士達が老人に理不尽な要求をしているのは聞いていた。
都市を守る騎士ともあろうものが、老人から金を巻き上げるなんて。
ふつふつと怒りが込み上げてきた。
老人の様子を見ると、大袈裟に倒れたものの、
怪我はないようで一安心する。
この老人にはお金を変えてもらった恩もある。
まぁ強引に交換したわけだが、あの時はかなり助かった。
あれがなければ野宿が確定していたわけだからね!
ふかふかなベットで気持ちよく寝れなかった。
だから恩人でいいのだ。
私やゆっくりと立ち上がる。
沢山読んだ魔術の教本を思い出す。
私の属性は兄と同じ水属性
詠唱方法も覚えているいる。
兄が使用していた時は詠唱を省略していたらしいが、
ちゃんとやれば私にもできるはずだ。
きっとできると、私は自分に言い聞かせる。
「水の門よ開け
零土の水は全てを貫く槍となる」
私が詠唱を始めると、騎士達が見るからに狼狽え始めた。
「こいつ魔術を使えんのかよ!」
「やべぇよ逃げようぜ!」
「な、なめてっと……ぶぶ、ぶち殺すぞ!!」
騎士達の言葉を無視して詠唱を続ける。
例え完璧に魔術が使えなくたってかまわない。
多少の脅しになれば彼らも逃げてくれるだろう。
それでこの場はやり過ごせるはずだ。
「願いは氷!
直線にて穿ち!
槍を模して形成せよ!
貫け!アイスランス!!」
「ぎゃーーー」
「助けてくれーー」
「お母ぁさーーーんんん!!」
………
え?
あれ?
何も起きないぞ?
詠唱は間違ってないはず、だけど私の頭上には
あの時見て氷の槍も、普通の人には見えないが私とガリルには見えるあの文字が出現していない
も、もう一度!
「貫け!アイスランス!!
アイスランス!!
アイスランスーーー!!!」
おかしいな。
教本通りにやっているんだけどな。
まずいぞ、非常にまずい。
ほら、騎士達がニヤニヤ笑いながらこちらに向かってくるではないか。
もしかして……私には魔術の才能が……ない?
「んだよ、はったりかよ!」
「驚いて損したぜ」
「マジでぶち殺すぞ」
もう騎士達は怯えていなかった。
もしろ、こけにされたと怒っている。
このままでは、私も老人もどうなるか分からない。
しょうがい、できればこの技は使いたくなかったのだが。
この技は母直伝であり身を守る最終手段としてお教えられたものである。
まさかこの技を使用する日がこようとは!
そこの近づいてくる騎士達よ!!
ニヤニヤするんじゃない!
大きく息を吸って、食らえ!!
「きゃーー!!
誰か助けてーー!!!」
私は思いっきり叫んだ。
母直伝の技というのはそう、助けを呼ぶこと。
本当に助けが来るなんて考えていない。
叫ぶ事に意味があるのだ。
これをやるとほら、
家の窓から人が顔を出したり、
繁華街のほうから人が見に来たりする。
それを見せる事が重要なのだ。
相手が騎士と言っても、倒れている老人に、か弱い少女
それに詰め寄る騎士が数人。
絵図ら的には騎士が悪者に見える事だってある。
騎士達もその事に気づいたらしく。
「チッ、興が醒めちまった」
「次はねぇからな!」
「ぜってぇぶち殺してやる」
そう吐き捨てるろ騎士達はどこかへ行ってしまった。
「ふぅー」
やってやりましたよ。
無事に騎士達を追い払う事ができました。
最初は魔術が発動しなくて焦ったけど………
「ふぅー
っじゃねぇよ
目立ちすぎだ!」
「いて!」
急に誰かに頭を叩かれた。
見上げるとそこにはガリルがしかめっ面で立っていた。
ガリルは辺りを見回した。
先ほどの私の叫びが想像以上の騒ぎになっているらしい。
「人が集まる前に宿に戻るぞ」
そういって宿に向かって歩き出した。
だけどその時、老人が話しかけてきた。
「もしよかったら、うちの店で休んで行くと言い」
立ち上がりつつそう言うと、老人が目の前の建物を指差した。
今から宿に戻るとなるとどうしても人目についてしまう。
それなら目の前の老人の店を隠れ蓑にした方が得策かもしれない。
ガリルも同じ考えにいたったのか、老人の意見を了承して店に入ることにした。
「どうぞ、こちらの椅子にお座りください」
私たちは老人が勧める椅子に座る。
店の中は、なんと言いますか……ガラクタばかり?
壊れた家具や食器、古そうな壷などが雑多に置いてある。
「わしは骨董品の店をしておる
少し狭いが、落ち着くまでここにいるといい」
骨董品というか……半分くらいゴミなのでは?
とは口が裂けてもいえません。
宿でガリルの持っていた銀貨を交換してほしいと頼んだのは、
この店の商品にするためだったのかもしれないと思った。
宿の主人にとっては使えないお金でも、この老人に取ってはお宝なのだろう。
「おじいさん
あの騎士達は一体なんなのですか?
おじいさんにお金を払わせようとしてましたが」
特に話す事もないので先ほど店の前の起きた事を聞いてみることにした。
「それがのう
先週くらいじゃったか
急に土地代を払えだとか、
守ってやってんだから金だせだとか言ってきたんじゃ
聖騎士の団長様が王都に行っているだとかで
あいつらやりたい放題してるんじゃよ
副団長が指揮をとっているという噂もあるくらいじゃ」
老人のはなしによると、その副団長と今の団長は中がよくないらしい。
原因は単純で、団長が副団長よりも年下だから。
順調にいけば副団長が団長になっていたらしいが、
それを奪われたと逆恨みしているらしい。
そして団長が留守にしてからは、
自分が天下を取ったかのように振る舞っているそうだ。
最近はそれが酷くなり、住民に対しいて不要な金品の要求をしていて
誰もそれに逆らえず、言いなりになっているとのことだった。
なんて酷い人なのだろうか。
私は出されたお茶を飲みながらふつふつと込み上げてくる怒りを抑えつつ、
一つの仮説に行き着いた。
「ガリルさん
もしかしてその副団長…………」
もしかして勇者病では?
とまではこの老人の前では言えなかったが、
ガリルは私の顔をみて静かに頷いた。
いまこの都市に副団長よりも強い人間はいないのだろう。
だとすると自分の力に慢心している可能性が高い。
老人の話しでも、副団長が王都に向かってから、
人が変わったように振る舞っているとの話だ。
副団長は勇者病かもしれない。
「貴重な話をどうも、
でも俺たちはただの旅人だ
すまんがどうする事もできない
早く団長殿が返ってくるのを祈っていてくれ」
もしその副団長が勇者病ならガリルの標的になるかもしれないが、
この老人を巻き込む訳にはいかない。
ガリルの突き放した発言はそういった配慮なのだろう。
なんだ、意外に優しい人なんだな。
「すまんのぉ変な話を長々と
助けてもらったのにお茶しか出せなくて申し訳ない
外の騒ぎ、もう大丈夫だと思うが、行くかい?」
老人がそういうと立ち上がりお店のドアを開けた。
確かに外はもう静かになっている。
ガリルと私は”ありがとう”と言って老人の店をあとにした。
宿に向かって歩くガリルのあとを追う。
宿を出た時は買い物をする気満々だったのだが、
今は楽しく買い物する気分になれなかった。
歩くガリルに追いつき、チラッとガリルの顔を覗いて、
背筋に冷たい物が走った。
笑ってる……
覗いた瞬間ガリルの顔はいつも通りに戻った。
でも確かに一瞬笑っていた。
その笑みは、冷徹で冷酷で、少し勇者病にかかった人の笑みに似ていたがまた違う。
悲しげで、見てて怖いと、というよりは寂しく、
なぜだが私は泣きそうになった。
次回で第五都市を終わりにしたです。
(ってことはバトルかな?)