理由
前のを読み返したら誤字が多い事に気づきました。
修正頑張ります。
あれから5日、私は大きなリュックを背負って山を登っていた。
リュックの中身は大量の本である。
魔術の教本とか、教本とか、教本とか!!
あとは彼が書いたノートとか。
それにしても重い。
なぜ私がこんな重い物を背負って山を登っているのか。
5日前、私は彼に渡された10冊の魔術教本を全力で読み終えた。
だがそれで終わりではなく、全てを読み終えたらまた次の本を渡された。
次から次へ渡される本を昼夜問わず読まされ続けた。
それが3日続いたある日、彼が”ここはもうダメだ、出るぞ”と言って
洞窟を出たのだ。
聞くところによると、町に騎士と聖騎士見習いが来ていたらしい。
ザルジドや母の死体が見つかれば事件になる。
そうなるとこの洞窟も危ないとのことだった。
「ガリルさーん、そろそろ休憩しませんかー」
私は少し前を歩く彼に声を掛けた。
洞窟でずっと本を読まされていたが、彼の名前だけは教えてもらった。
ついでに自己紹介もした。
ガリルはあまり興味がなさそうだったが……
彼の名前はガリル•ツァルト
本人はただの魔物だと言うのだが、人型の魔物は数が少ないと聞く。
ゴブリンのような小型の魔物はいまでも都市で奴隷として働かされているそうだが。
エルフやドワーフなんかは殆どがお伽噺の中で登場する魔物であり、
人間と見え分けが付かない魔物なんて、私は聞いた事がなかった。
大型な魔物や強力な魔物は現在では殆ど報告されておらず、
その殆どが勇者と魔王の大戦時に殺されており、残った魔物も聖騎士達が討伐し終えているそうだ。
だから人間と見分けも付かない魔物なんてそうそう存在しない。
ガリルは近くの岩に腰を下ろす。
私も太い木の根に腰を下ろした。
座った途端ガリルから視線を感じた。
はいはい、読めばいいんでしょ読めば
私はリュックから一つの教本を取り出し読み始める。
ここ数日間で魔術に関して色々分かった事がある。
まず魔術は人間にしか扱えないものだということ。
魔物は魔術を扱える素養?のようなものが欠落している為、
魔術を使用するのは不可能と記載されていた。
だがそのかわり、魔物は体に特殊な器官を備えていることで、
魔術と同等の力を得られるのだとか。
例えば炎を吐く魔物がいたとして、
体の中に炎を溜め込む器官があり、
そこから炎を吐き出しているらしい。
だからこそ、炎に耐えられる体を作る為に進化し、
おぞましい姿になったとも記載されていた。
魔物は人間に比べて長命らしく、
100年前に存在していた魔王は500歳近くだったらしい。
これがどの教本にも書かれてあった魔物の説明である。
魔術というのは属性があり、炎、水、電気、風、無の5属性ある。
人間には生まれもって決められた属性があるらしく、
その属性の魔術しか使えないと記載されていた。
兄がガリルに対して使用していた氷の魔術は水属性の応用らしい。
人間は魔術、魔物は特殊な力を持っているため、
相性のよしあしはあるものの、
力を持つもの同士が戦った場合、戦いは拮抗する。
そして勝敗は技の熟練度や修練度に依存するとも記載されてあった。
だが唯一それを覆す力を持っているのが、勇者と魔王である。
この二人の力は、勇者が特殊な力を持つ魔物1000体分、
魔王が聖騎士1000体分らしい。
実際に見た事がないからその凄さは分からないが、
勇者が人類を率い、魔王が魔物を統括していたというのだから、
相当な力の持ち主なのだろう。
魔術の知識を得るたびに、私はとある疑問にぶちあたる。
色々な教本を読んで、色々勉強したが、ガリルには質問してこなかった。
だけど教本を読み進めるたびにその疑問は大きくなっていく。
私は勇気を持ってガリルに質問した。
「ガリルさんは、本当に魔物なんですか?
この数日で色々読みました
そのどの本にも魔物が魔術を使用できるとは書いてなかったんです」
そう、私の疑問というのは彼が本当は人間なのではないかということ。
魔術は人間のものであるため、魔物であるガリルが使えるはずかないというのが、
数日間教本を読み漁り、私が至った結論である。
ガリルはゆっくりと話し始めた。
「魔術は人間にしか扱えない、それは間違っていない
でもな、教本は人間が作った物だろう?
実際にお前に渡した本は全て人間が書いた物だ
そして本を書いた人間は一人として
直接魔物に魔術が使えないと聞いた者はいない」
私はそんな理由でこの教本を書いた人たちが、
魔物は魔術が使えないと書いた訳ではないと感じた。
彼らも研究を重ねて教本を作ったのではないだろうか。
「もし、俺の使う力が気になるなら教えてやる
だが聞いたらもう後戻りはできないぞ」
ガリルの声が急に低くなり、その真剣さが伝わってくる。
きっと私が裏切った場合の事を考えているのだろう。
力の秘密を知る者は少ない方がいいからだ。
だけど私はもう後戻りはできない。
母の死体を供養せず見捨てた時点で、この国の人間は私の事を信じないだろう。
ガリルという魔物に拉致された、なら説明はつくかもしれないが、
私を助けてくれた恩人にそんな事はできない。
ガリルという魔物と一緒にいたら、逮捕されるか、最悪殺される可能性もある。
だけど本当はあの時、崖で死んでいた身
もういいんだ、この人について行くか、どこかで奴隷や娼婦として働くなら、
私は恩人に尽くす。それくらいの覚悟はできているつもりだ。
「大丈夫です
私の覚悟はきっと、
ガリルさんが思っている以上に覚悟ができています」
「そうか」
ガリルがそういうとゆっくり話し始めた。
まず人間が使用する魔術には一つの特徴があるとのこと。
彼らは人間や魔物の目には見えない精霊を使役している。
属性というのはその精霊の属性が関係しているのだとか。
人間が生まれた時点で精霊を使役するらしく、それが世界の理であるらしい。
その辺の話は正直聞いていてよく分からなかった。
結論としては”精霊から力を奪い魔術を使用する”ということである。
人間はまだ解明はできていないそうだがこれが魔術の本質らしい。
ではなぜ魔物が魔術を使えないのか。
それは魔物が半精霊だからである。
精霊は精霊を使役できない。
そのため、魔物が魔術を使用できないのだが、
ガリルは”半精霊なのだから練習すれば少しは使えるようになる”というよくわからない理由を言っていた。
正直、聞いた内容の少ししか理解できなかった。
それでもガリルは私に詳しく説明してくれた。
ガリルは人間が魔術を使用する時に精霊に命令する言葉とは逆の願いを込めて放つらしい。
兄に対して使用した場合は、
”もう氷は作らなくていいんだよ”のような言葉を精霊になげかけたらしい。
精霊は基本命令されて魔術を使う、精霊が使いたくない時も強制的に使用させられるため、
使わなくていい事を伝えると、数分間はその魔術を使わなくなるらしい。
もうね、さっぱりですよ。
覚悟はできていたし、勉強したから理解はできると思っていたが、
予想以上に難しい話で理解が及ばない。
私は全力で考え、話を整理する。
つまり、
”人間は魔術を使える精霊を使役している”
”精霊は好んで魔術を使わない”
”魔物も頑張れば魔術をちょっとだけ使える”
”ガリルはそのちょっとだけ使える魔術で聖騎士達の魔術を消せる”
ということだ……
ガリル、強くないですか?
魔術を消せるってやばくないですか?
あの金属の棒に無効化の魔術を乗せて放つだけで、魔術を消せるなんて、
以外と私、凄い人と一緒にいるのかも
人ではなく凄い魔物か。
「色々教えてくれてありがとうございます
それで、えっと……ガリルさんの目的ってなんなんですか?
いまも山を登ってますけど、どこにむかってるんですか?」
「ああ、そういえばその話しもしてなかったな
俺はな……勇者を………殺すんだ」
「え……」
一瞬ガリルがなんと言っているのか分からなかった。
魔術に関する難しい話しよりも、理解が追いつかない。
「で、でも勇者様ってもうこの世には………」
そうだ、勇者が魔王を倒したのが100年前のこと、
人間がそんな長く生きて行けるはずがない。
「お前は、勇者病って知っているか」
ガリルが私に質問してきた。
優者病?聞いた事もない病気だ。
というか急になんのことだ、それが勇者を殺すという発言になんか関係があるのだろうか。
私は小さく横に首を振る。
「そうか、勇者病ってのは簡単に言ってしまえば勇者のようになっちまう病気だ」
「え、意味がわかりません
それなら、世界は平和になるじゃないですが、勇者様が沢山いるなんて」
「いや、それが違うんだ
そもそも勇者という存在の認識が違う
確かに勇者はこの世界を守った
人類に平和をもたらした
でもな、勇者の性格は最低最悪だ
その証拠にお前も見ただろう、勇者病になった人間の末路を
崖で戦った大男と、お前の兄の姿を」
私は驚きで言葉が出なかった。
あのときガリルは”もう治らない”と言っていたがそういう意味だったのか。
だとすると……
私の目頭に熱いものが込み上げてくる。
「やはり…あれは……本当のお兄様ではなかったのですね」
抑えきれなくなった涙が溢れ出す。
あの冷たい目も冷徹な表情も、全て病気が原因なのであれば、
少しは気持ちが軽くなると感じた。
「でもあれは、本人が原因でもあると言える
勇者病の原因は自分の力への奢りだ
慢心があの病気を引き起こす
勇者病の症状として一番分かりやすいところを言うと
勇者の口癖をよく言ったりする、たとえば”クソ雑子”とかだ
そして、人間が持つ残虐性が増す
自分より弱い者の命令などが許せなくなり殴ったりする
末期になると気に入らないことがある度に人間を殺したりする」
私はガリルの説明を食い入るように聞く。
今後きっと、彼と行動を共にするうえで重要なことだと感じた。
「その病気は、治らないのですか?」
ガリルはゆっくり首を横に振る。
そうか、あのまま兄を助けても、元の兄には戻らなかったのか。
「でも、お前の兄の最後は、
勇者病の人間とは、少し違ったように感じた
この病気は、まだ何かあるのかもしれない」
私はまた泣きそうになったが我慢した。
シーンと重い空気が二人を包む。
私は話題を変えようと声を明るくして言った。
「そういえばガリルさんに質問なんですけど、
魔術を使用した時に見える変な文字はなんだんですか?
あれだけどの教本も書いてなくて……」
「ああ、やっぱり見えてのか
あれは精霊に命令した時に出現する文字だ
あれでどんな魔術を使うのかだいたい推測ができる」
なるほど、あの文字を頼りに相手の使用する魔術を予測したり、
無効化魔術を使用するのか。
ん?やっぱり見えてたのか?
「ちなみにあの文字、普通は見えないから」
「え?」
「だからこそ俺はお前を弟子にすると決めた」
「えぇぇぇ!?!?」
思わず大声がでた。
弟子?
私が?
ガリルの!?
てか、あの文字、普通は見えないの?
だから教本のどこにも書いてなかったの!?
「そろそろ行くぞ
この山を越えたら、第五都市だ」
ガリルが立ち上がり、歩き出す。
「ちょっちょっと待ってくださいよ
弟子ってどういうことですか!?」
ガリルは私の質問を無視して黙々と歩く。
私は彼のあとを追うしかなかった。
ルカナは年相応の女の子ですが、
本を読み続けて、頭がよくなった風を装っています。