メロトの苦悩
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王国の第一都市カルラ
ここは『王が住む都』と呼ばれている。
都市の中心には王宮があり、周りを城下町に囲まれている。
その王宮の一室に一人の男が座っていた。
ここは会議室であり、長机に椅子が五つある。
四つは長机に向かい合わせで置いてあり、もう一つは上座に置かれていた。
上座で男は項垂れている。
はぁ
深い溜め息をつく男
彼は聖騎士長メロト、この国の聖騎士を取りまとめる人物である。
先日にわかには信じがたい情報が入り、緊急の会議が行われることになった。
会議と言っても、召集に応じたのは第五都市の聖騎士団団長のみであるが。
この国には第一から第五までの都市がある。
基本的な政は王や大臣などが行うが、各都市の統括は聖騎士団団長に一任さられている。
一応都市の団長達はオレの部下なんだけどなぁ
最近は聖騎士が一般人や騎士達に危害を与える事件が起きているし、
それの後始末や揉み消しをするのも全部オレがやっている。
他の者に任せてもいいのだが、大臣への根回しや王への報告
あと”彼ら”への説明も行っている為、他の者に任せるのは流石に酷である。
はぁ
また溜め息が出てしまった。
これでも昔は聖騎士として魔物を多く打ち倒してきた実力もあり、
戦略家としても、大型魔物の討伐にはオレの作戦が必要とまで言われた実績を持つ。
だがいまはめんどくさいデスクワークばかり。
「失礼します!」
勢いよく会議室の扉を開けて入って来た男性はルーク•ラカリト
第五都市聖騎士団団長であり、この会議に唯一参加してくれた人物だ。
去年23歳という若さで団長となり、
最年少記録を大幅に塗り替えて一時期話題になった。
凛々しい顔立ちで女性ファンも多いと聞く。
性格は真面目そのもので、悪を絶対に許さず、正義のため、
民のために働くその姿は英雄になりうる素質がある。
もしこの世に勇者という存在がいなかったとしたら、
きっと彼が勇者となっていただろうと思うほどだ。
真面目すぎるのがたまに傷なのだが……
きっと聖騎士長にはなれないであろう。
不祥事のもみ消しなど、彼にはきっと耐えられない。
「遅れて申し訳ありませんメロト聖騎士長
あれ?他の団長さん達は?」
「今日はルーク、お前一人だ
ったく他の団長にも困ったものだ。
ルーク以外全員拒否しやがった
めんどくさいとか、興味ないとか
色々理由をつけやがる
オレの立場も少しは考えてほしものだ」
ルークは苦笑いをしながら下座に座る。
今日は他に誰も来ない為、どこに座っても問題ないのだが、、
ルークの真面目さが見て取れる。
「それじゃぁ、二人だけだが会議を始める」
議題はとある町で起きた事件についてだ。
まずルークには大事な事を伝えなくてはいけない。
「聖騎士が二人、何者かによって殺された」
「何ですって!!」
ルークは驚きで思わず立ち上がった、勢いで椅子が倒れる。
メロトは話を最後まで聞けというように手で座るよう指示する。
ルークは”失礼しました”といって椅子を直し座った。
メロトは話を続ける。
「この間、第五都市で聖騎士見習いが聖騎士になっただろう
お前んとこの管轄だから知っているだろうが、
カイト•シスルカスとザルジド•モーダルだ
彼らは聖騎士になった事を報告に里帰りしているはずだった
そこを誰かに襲われたのだろう
町のはずれの崖にザルジド、その近くの森でザルジドの両親
カイトの家には母親の死体があり、何故か頭だけ森の入り口で発見された
そしてカイトとその妹は行方不明
ザルジドが倒れていた近くで戦闘の形跡があり、
二人とも崖に突き落とされたのではと考えている
きっと二人はもう…………」
「そう、ですか。
カイトとザルジドが……
二人とも騎士の時からよく知っています。
僕が団長になった時は、一緒に祝ってくれました」
若くして聖騎士団団長となったルークには同世代の聖騎士があまりいない為、
カイトとザルジドはよき仲間だったのであろう。
「で、メロト聖騎士長、賊の行方はわかっていなのですか?
わかっているのなら、僕に賊の討伐をさせてください」
「そう慌てるな、取りあえずこれを見ろ」
コトッ
メトロが何かを机の上に置いた。
銀色に輝くそれは、細い金属の棒だった。
長さは15センチ程で、針のような印象を受ける。
「これは?」
「現場に残されていた物だ
これに魔術痕が残されていた」
「じゃぁ賊の正体もすぐに分かりますね」
ルークは嬉々として答えた。
魔術痕とは、魔術を使用した時に発生する力がその場に留まったり、
武器に残留したりするものだ。
一般的に使用される魔術は全て第一都市王国図書館に登録されている為、
魔術痕が分かればどんな魔術を使用したのかが分かる仕組みになっている。
そして魔術を使用するのは騎士以上の人間で、
全員どの属性の魔術を使用するか登録されているため、
魔術痕でどの人物が使用したのか推測できるのだ。
王国に仕えるものが今回の事件を犯した事はとても悲しいことだが、
他に犠牲も出さずに解決が可能なのであればカイトとザルジドも報われるだろう。
ルークはそう考えていた。
だがことはそう上手くはいかなかった。
「最初はオレもそう考えたんだが
違ったんだ
この魔術痕は一般魔術の検索に引っかからなかったんだ」
ルークの表情が段々と強張っていく。
「そ、それは、もしかして使用されたのは固有魔術ということですか?
だとしたら犯人は聖騎士の中にいるという事では!?」
王国には一般魔術とは他に固有魔術というものがある。
一般魔術は騎士や聖騎士見習いが使用する魔術であり、
固有魔術は聖騎士が自身で生み出したオリジナルの魔術だ。
聖騎士見習いの時に自身の戦い方を分析し、自分にあった魔術を作る。
どれも強力で、ザルジドが持っていた切断強化も固有魔術の一つだった。
大剣に乗せて放たれる一撃は、あらゆる魔物を真っ二つにできる魔術だ。
固有魔術は聖騎士になる上で必要不可欠なもので、
例外はあれど固有魔術の習得が聖騎士になる為の最後の試練といわれている。
オリジナルな魔術であるからこそ、魔術痕は一つ一つ違ったものにっている。
そして魔術の研究のために、固有魔術も全て図書館に登録されている。
ただ、一般魔術とは違い、一般公開はされていない。
使用する聖騎士の弱点や戦い方に関わってくる為である。
「それがな、今朝調査が終わったのだが、
固有魔術の検索にも引っかからなかった
これは未知の魔術だ
研究者も頭を抱えていたよ、こんな魔術痕は見た事がないだとさ」
「そんな!ありえません!
誰かがこの王国にバレずに固有魔術を作るなんて!」
「しかもそれだけじゃない、この金属の棒は現場に四本残されていた
その四本全てに魔術痕が残されていて
そのすべてが登録されていない魔術痕だった
登録されていない魔術が四つだぞ!
前代未聞だ
しかもその現場を鑑識した者によると、
争いの形跡から見て、この固有魔術の使用者は全て同一人物という話らしい
もうオレには何がなんだがさっぱりだ」
ルークは驚きのあまり声も出なかった。
固有魔術は基本的に一人一つしか作れない。
なぜなら一つ作成するのに長い年月と修行が必要であり、
できあがったとしても熟練度を上げなければ使い物にならない。
その昔、複数の固有魔術を所持していた聖騎士がいたが、
個々の固有魔術が実践レベルではなく、戦場において全く役に立たなかったという。
それほどまでに魔術とは繊細なものなのである。
「では、一体誰が」
言葉を捻り出し質問するルーク
メロトも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「オレにもわからない
だが、これは由々しき事態だ
隣国との戦争も控えているというのに」
はぁっと深い溜め息をつくメロト
隣国の戦争とは、ここ百年音沙汰がなかった小国どうしが同盟を結んで、
王国に攻め入るという情報が入っているのだ。
この短い期間で色々な事がおきている。
多くなった聖騎士の不祥事、隣国同盟との戦争、聖騎士二人の死、王国に登録のない魔術を持つ人間。
まるで謀ったように立て続けによくない事をおきている。
謀ったように……
何者かが意図してこの状況を作り上げていると?
もしようなら………少しずつ状況が見えてくる。
これは…”彼ら”に頼るしかないか……
「メロト聖騎士長?」
ルークの呼びかけに我にかえるメロト
周りの音が聞こえなくなるくらい深く思考していたらしい。
「ルーク、この会議の内容は誰にも話すな
他の団長にはオレが伝えておく
百年続いた平和が壊れるかもしれない
お前も、都市の守りを固めておけ
今日の会議はこれで終了とする」
「はい!」
はっきりとした声でルークは返事をし、会議室をでていった。
色々と不明点はあれど、メロトの力強い声を聞いて何かを納得したようだった。
彼ならきっと、自分の都市を守れるだろう。
他の団長達は……正直いまは考えてる余裕がない。
後ほど文書にて説明しておこう、それを読む読まないは団長らの自由だ。
問題は”彼ら”が動いてくれるかどうか。
一人になったメロトは腕を組み考え込む。
これからやる事が山ほどある。
ふと机の上に置かれた金属の棒を手に取り、
コツコツと机に当てる。
いままで真剣な表情をしていたが、それが嘘の用にだんだんと笑みを浮かべるメロト
「あーぁまぁ、こいつが
クソ雑子じゃなきゃいいんだがなぁ」
顔は笑っているものの、金属の棒を見つめる目は、とても冷徹だった。
次回も説明会かもしれません、バトルまでいけるかな……