出会い
展開が早くなってしまった。
私が帰ると、母が既に料理の準備をしていた。
私の家はあまり裕福ではなく、町の住宅密集地から少しだけ離れている。
隣の家から距離が少し離れているからこそ、家の目の前で少しだけ畑を作り、
収入が少なくても多少は自給して生活ができる。
家の作りは良くある木造の一軒家だ。
少し小さいが兄がここで暮らしてない分小さくても大丈夫なのである。
国の中心にまで行くと頑丈なレンガ作りの家が目立つらしいが、
町から出た事がない私にとっては、想像がつかない。
正直木造の家でも十分だと私は思っている。少し雨漏りは気になるが•••
母は台所に立って料理を作っている。
もう一人リビングに居るのは、、、誰だ!
うちは私が生まれる前に父を亡くし、母が一人で私と兄を育ててくれた。
そのせいで兄がお金を稼ぐ目的で、騎士になりに都市へ行ってしまったわけだが
だからこの家にはいつも母と私しかいない。
隣の家の住人がたまに食べ物のお裾分けに来るが、
今はきっと聖騎士の凱旋で町の入り口に行っているはずだ。
私の目の前には小汚いフード付きのローブを着ている男が座っていた。
髪の毛はボサボサで、全体的に小汚い、そして少し、、、臭う。。。
年齢は、兄と同じ位だろうか。
とよく見るとその男はモグモグと口を動かしていた。
母が作った兄への料理をつまみ食いしているのだ。
あれは母の得意料理であるポテトパイだ。
兄の大好物でもあり、私も大好きである。
私は怒りが込み上げてきた。
見ず知らずの人間に、兄に準備した物を勝手に食べられるのは不愉快だ。
「ちょっとあなた!何しているの!それはお兄様の為の料理よ!」
私が怒るのを尻目に男はつまみ食いを続けようとしている。
私は男の手首を掴みそれを制止させた。
「だからあなた!」
「待ちなさいルカナ、この人はお腹を空かせて玄関先で倒れて居たのよ。
大丈夫よ、悪い人ではないわ」
母はこの男を信用しているようだった。
なぜこんな小汚い男を信用できるのか全く理解できないが、
母は優しく、困っている人を見捨てておけない性格だから、
私もしょうがなく納得する•••わけがない!
今回ばかりは許せない、というか許したくない!
私はドアを勢いよく開けて外に飛び出そうとした。
兄の為に用意したポテトパイを提供した母も、
それを躊躇無く食べたあの男も気に食わない。
私が外に出ようとした瞬間、目の前に大きな壁が現れた。
ぶつかった衝撃で私は後ろに倒れ、尻餅をつく。
なぜこんな所に壁が?と思ったが、よく見ると、いやよく見なくてもそれは人間だった。
壁のように大きく体格のいい男、先ほどまで町の入り口で大勢の人に囲まれていた聖騎士の一人。
「ザルジド、さん?」
「おー大きくなったなルカナちゃん、オレと会うのは何年ぶりだ?
7年ぶりくらいか?いやー可愛くなったなぁ」
倒れた私の脇を両手で軽々と持ち上げ、”悪い悪い”と言いながら立たせてくれた。
彼がここに居るという事はもしかして•••
「あんまり妹をいじめてくれるなよザルジド」
「お兄、様••• カイトお兄様!」
透き通った優しい声が私の耳から脳内を駆け巡った。
私がずっと聞きたかった声、私がずっと帰りを望んでいた人物
その兄が、いま目の前にいた。
「で、どうしたんだい、急に飛び出したりして
危ないじゃないか」
窘めるように言う兄。
「違うのですお兄様、あの変な男がお兄様の大好きなポテトパイをつまみ食いしていたから!
なにのお母様は問題ないと仰るし、私は、私は•••」
感情が高ぶって泣きたくないのに泣きそうになる。
必死で目に溜まる水を抑えて泣くのを防ごうとする。
15歳にもなってこんなことで泣いていてはダメだ。
兄にも幻滅されてしまうかもしれない。
出るな!出るな!止まれ!止まれ!
私は必死で泣かないように努力をする。
そのため、無言になってしまい次の言葉を紡ぐことができなくなっていた。
それを見たのか、母が台所からタオルで手を拭きつつこちらに来た。
「違うのよ、あれはカイト用に作ったポテトパイではなく、
ガリルさんがお腹空かせて倒れそうだったから少ないけど余る分の食材で作ったの
あなた達の分はちゃんと、熱々の状態で食べて貰いたいもの」
私はそれを聞き顔が真っ赤になるのを感じた。
それならそうと最初に言ってくれれば良かったのに
変に癇癪を起こして、バカみたいじゃない
でもあの男は気に食わない、だって臭いんだもの
あと私を無視するし
「母さんがそういうなら、でもご客人、次に妹を泣かせたら
僕は君を許さない」
いつも優しい声色が少しだけ冷たく感じた。
私が顔を上げて兄の顔を確認したが、特に変わった様子はなく、
いつもの笑顔だった。
「ああ、すまなかったな」
男がそういって立ち上がる、身長は兄と同じ位か少し高いくらいだった。
ザルジドと比べると、小さくも見えるが。
男が家から出て行くと、兄がザルジドに何かを言っていた。
私には彼等が何を話しているのか、上手く聞き取れなかった。
「いやーオレは挨拶に来ただけなんだ
早く実家に帰ってお袋と親父の顔を見てやらんとな!」
そういうとザルジドも出て行った。
ザルジドの家はここからそう遠くない、
兄とは同い年で子供の頃からよく遊んでいた。
やんちゃだが家族思いで、兄と一緒に騎士になるために家を出て行った。
まさか兄と同時に聖騎士になるとは思っていなかったが、
昔から正義感の強い人ではあったから、彼の家族も私たちも
いつかは聖騎士になるのだろうと思っていた。
「さぁ、折角カイトが帰ってきたんだし。
盛大にお祝いしないと!」
母がそう言って席に座らせる。
いつの間にか机の上には兄と私の大好物がならび、
パーティの準備は整えられていた。
私なこのパーティを今後一生忘れないであろう。
こんなに幸せな気分になったのは何年ぶりだろう。
家族がそろってのご飯は最高だ。
「あ!そうだ!
今朝裏の森に綺麗な花が咲いていたのよ!
あれをお兄様に見せたかったのだわ!」
私はそう言って家を飛び出した。
遠くから母の声で”暗いからすぐに帰ってくるのよー”と聞こえてきた。
森は暗いが今夜は満月だ、ちょっと不気味だけど、月明かりがあれば何とかなる。
それにここは町のはずれとはいえ魔物が出るような場所でもない
だから大丈夫だ。
ガキン!
その時、森の奥の方から金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえた。
こんなにすぐに出会う予定ではなかったのに。。。
次回!バトルです!!