上に登れば落ちる距離も高くなる
この変な世界に滞在して約1時間が経とうとしていた。
「いやー、歩き回っても何もないなぁ」
建物や公園などはいたって普通であった。そのため余計に人々の異様さが際立っていたのだ。
公園からだいぶ長く歩いたため、目端に流れる風景が都会風になってきた。
バジはどこか落ち着かないようすだった。
「急にソワソワしだしてどうしたの?」
聞いてはみたものの、反応はない。
(無視されると、それはそれで寂しいな)
この暇な時間を使って、色々考えてみる。
僕の記憶はほぼないし、どこから来たのかもわからない。
(でも一般教養?はあるんだよな〜)
人がヒーローのような格好をしているのが変だということはわかるし、時計が話すことが変だというのもわかる。
元々はちゃんと僕が生きていた世界があったのかな?
しばらく考えても、謎は深まるばかりであった。
ゆっくり雲が太陽を覆い隠していく。黒とも言い難いそれは水を落とし始めた。
「傘もっていないな、どこかで買ってこようかな」
近くにコンビニを探すため、ビルが立ち並ぶところをまっすぐ進んでいると、一つの建物に人が沢山集まっているのが見えた。
ずっと下を向いていたのが嘘みたいに、人々は建物の屋上を見上げ、叫んでいる。
「やめろー!後悔するぞー!いやぁぁ!」
様々な怒号にも聞こえる声に僕たちは近づかざるを得なかった。
走って近づいていく。
「屋上の上に両手を広げて誰か立ってる!?もしかして飛び降り!?」
左胸の脈拍が徐々に早くなっていくのがわかる。
群がっている人々の声に雨音が混ざり、僕の身体に滴り落ちた。
現場に着くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「…え、なんで?」
顔は腫れていて、
服はボロボロ、
目は絶望に染まっている、
ヒーローのすがたがそこにあった。
「ピース…ライダー…!?」