暗黒の世界に一人の光を
僕たちはとりあえず商店街を出た。
「特に変わった様子はないなー、普通の商店街って感じだった」
「普通の商店街の記憶はあるんだね〜」
さっきからずっと煽り口調な腕時計は無視して、何気なく近くにあった洋服屋のショーウィンドウを見る。
「何これ!?なんかこの世界に来る前と格好違くないかい?」
そこには灰色のキャップ帽に透明なガスマスク、真っ白な死装束にも見える服を着ている僕がいた。
(頭が混乱していて、全然気づかなかった)
何度も驚きの声を上げている僕に腕時計が話しかける。
「君は異世界を旅するとき、その格好でいないといけないんだ。脱いだりしたら、身体がどんどん動かなくなるよ。特にそのガスマスク、それを外したら30分以内に確実に死んでしまう」
「この格好が、僕の生命線…?」
「そう!君にとって異世界の空気は毒だと思った方がいい。決してマスクだけは外しちゃダメだよ」
再び襲ってくる不安と恐怖。頭がパンクしそうだ。
(でも、今は立ち止まってる場合じゃない。なるべく早くお母さんを探さなきゃ)
色々重なって、重なりすぎて、脳が少しずつ麻痺してきたような気がしていた。
商店街を出て北の方をまっすぐ進むと、何メートルか先に公園が見えてきた。と共に愉快なリズムで聴いたこともないような歌が耳に入った。
「わたしは〜正義のみか〜た〜!世界を明るく〜シャイニング!!」
耳をつんざく歌声は身震いしてしまうほどだった。
「この歌は一体何だろう?」
恐る恐る公園を覗き込む。
「え…?」
公園の中心で、この世界の暗さとは正反対の金色のパワースーツ(?)を身に纏い、安っぽいゴーグルをつけた男が陽気に踊っている。
「ネガティブの世界に何でこんな人が…?」
僕の若干引いているオーラが届いたのか、金色の男がこちらに気づいたようだった。