コーマの始まり
「異世界を…旅…?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「そうだ!コーマ、君は異世界を旅してお母さんを探す必要がある。今すぐにでも出発しよーー!」
まるでジェット機にさらにターボを付けたような話の進みよう。全く理解が追いつかなかった。
目を瞑り、暗闇を凝視しながら思考する
(異世界…?旅…?お母さん…?そもそも僕にお母さんなんていたのか、顔も名前も思い出せない。)
もどかしさの波に飲まれ、混乱も最高潮に達したとき、とりあえず質問を一つしてみようという結論に帰結した。
「異世界ってどうやって行くんだい?」
腕時計は少し間を置いて話し始めた
「今、俺たちがいるこの部屋はいわば君の世界。ここが君の居場所であり、君が唯一“普通の状態”で生活できる場所でもある。」
「異世界は君の世界以外の世界だ。それぞれ一つの特徴をもっている。例えば、[嬉しさの世界]や[精神の世界]、それに[滅亡の世界]なんてものもあってな!どうだ?面白そうだろう?」
全然興味が湧かない。[滅亡の世界]なんて行ったらお母さんを探す前に死んでしまいそうだ。
僕は一つの質問を腕時計に投げかける
「僕はそれら全ての世界の中からお母さんを見つけ出すってこと?」
「それはないよ!そんな事してたら時間が間に合わない…いや、何でもない。…心配いらないよ、君は俺が選んだ世界を巡ればいいんだ」
「え、でもそれだったら…」
僕の言いかけた言葉は腕時計の声にかき消された。目覚まし時計にも負けないような大きな大きな声。
「もうずっと話してても埒があかないし、最初の世界に行ってみようか!!旅の中で少しずつわかってくるはずだよ!」
腕時計が光始める。光はだんだん強くなり、目が潰れるのではないかと思うほどだった。
「ちょっとまってよ!まだ心の準備が…」
「レッツファイア〜〜っ!!」
…
……
………
強く瞑った目を恐る恐る開いてみると、そこには顔色も姿勢も悪い人々が、薄暗い商店街を無気力に歩いている景色があった。
「ここはネガティブの世界。さあ、始めようか!異世界の旅を!コーマの旅を!」
決して美味しくはない空気、どんより涼しい風に撫でられて、僕の旅が始まった。