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暗闇の夜明け
「君が…喋っているのかい?」
僕は腕時計をじっと見つめて言った。
「そうだよ!俺しか話せるやつなんか他にいないだろう!?どうして気づかなかったんだい!」
「いや、普通時計って喋らないでしょ」
「そう冷たいこといわないでおくれよ〜」
何の進展もない会話を続けていたら、突然腕時計が真面目な声色に変わった。
「俺は君のことなら何でも知ってるよ、君の名前も、ここが何のためにある部屋なのかも」
なぜ知っているんだろう、そんな疑問も浮かばないほど心に余裕が無かった。
「え!?知ってるなら教えてよ!僕は何もわからないんだ」
この胡散臭い腕時計を信じられるかはおいておいて、僕にはただ情報が足りなかった。だから、縋るしかない。
「君の名前はコーマ、それ以上でもそれ以下でもない。君には今日から異世界を旅してもらいたいんだ」
腕時計が少し笑ったような気がした。