84 死竜
サンボールが口から、火の玉の魔法放った。
避けるために上空に上がろうとすると、火の玉は爆発して、細かい火の玉となり襲いかかってくる。
「なっ!?」
細かい火の玉から、キンタロー達を守るべく羽根を大きく広げノイル自らが盾となる。
「親父さん、無理するなよ!」
「ぐううっ!! なんのこれくらい!」
再び上昇し始めるノイルに向かって大きく口を開けている。
「親父さん! 今だ!」
「おう!」
ノイルは準備をしていた水流を口から吐く。が、寸での処で躱される。放った水流は、燃えている森に命中する事となった。
「くっ! すまぬ、婿どの」
「気にするな、親父さん。クロウ! どんな状況になってもサンボールを見逃すなよ!」
「わかったっす!」
その後も、サンボールの攻撃を躱しながら水流をキンタローの指示の下、放つがこちらの攻撃も避けられる。水流は、次々と燃えている森を消火するだけであった。
「くそ! 意外に素早いな。すまぬ、婿どの」
「だから、気にするなって。クロウ! そろそろ、サンボールの動きが止まる、見にくいだろうが見逃すなよ!」
「わ、わかったっす!」
ノイルの水流によって森は消火され辺り一面、白い煙を上げていた。
「見にくいな」
ノイルは、辛うじてサンボールの姿から目を離さないでいるが、煙が邪魔でそのシルエットを追うのがやっとだった。
「ん! キンタローさん、止まったっす」
「ああ。親父さん、恨むならオレを恨んでいいからな」
キンタローは、腰の剣に手をかける。それを視界の端で捉えたノイルは、キンタローの意思を汲み取り大きな口の端を釣り上げた。
「婿どのを恨みやしないさ。ま、そうだな。ニナを嫁に貰ってくれるならな」
「ああ、わかったよ。親父さん、サンボールが動いたら尻尾で地面に叩き落としてくれ」
「キンタローさん、動いたっす!」
クロウの声でキンタローもサンボールの動きを確認する。煙から脱出するようにこちらを無視して飛んでいく。
キンタローは、周囲一帯を確認する。
「クロウ! あの山の中腹辺りを確認しろ!」
「えっ!? わ、わかったっす」
キンタローの指す方向にある、かなり遠くにある山。クロウは、飛び回るノイルの上で見逃さない様に見ていく。
「──!! いたっす、エルフっす。三人いるっす!」
「親父さん、あの方向に火の玉を放て!」
「おう!」
ノイルは、出来るだけ大きな火の玉を放つべく溜めをつくる。そして、火の玉をエルフがいるという山に向けて放った。
しかし、火の玉と山の間に盾になるようにサンボールが飛び込んで来て、大きな火の玉はサンボールに命中する。
「突っ込め! 親父さん!」
キンタローの言われた通り、サンボールに一気に近づいていく。そして、そのまま身体を縦に一回転させるとその勢いで、尻尾をサンボールの頭上へと叩きつけた。
「親父さん、クロウは、エルフを頼む! こっちはオレがやる!」
そう言いながら、落ちていくサンボールを追いかけノイルの背中から飛び降りた。
「ぬう! キンタロー、妻を、妻を頼む!」
ノイルもそう言いながら、直ぐ様山に向かっていく。
◇◇◇
キンタローは落ちながら、腰の剣を抜く。そして、サンボールが先に地面へと轟音と共に落ちる。動く気配はない。キンタローは、サンボールの上へと降り立った。
スキルのお陰で衝撃によるダメージはない。痛みを我慢しながら、キンタローはサンボールの背中の上を走る。
狙いは羽。普段なら硬い竜鱗で覆われているのだろうが、鱗は無い。キンタローは横薙ぎで羽の付け根に剣を入れると走りながら羽を斬っていく。続けて、もう一枚の羽も。
恐らく自分達に迫ってくるノイルを何とかしたかったのだろう。サンボールが急に立ち上がって飛び上がろうとするが、羽は既に無い。
このまま暴れられても、厄介なので立ち上がる際に地面へと落とされたキンタローは、足首の辺りを斬っていく。
サンボールは、まるで大木が倒れるかの様に背中から地面へと倒れこむ。サンボールの首もとにゆっくり剣を構え近づいてくるキンタロー。
「サンボール。ニナは、必ずオレが幸せにする。ノイルは……確か喧嘩中だったか? まぁ、ノイルがそっちに行ったら続けてくれ」
キンタローは、そう言うと太い首に向かって剣を振り下ろした。
血は吹き出ることは無く、ただ垂れ流れるのみ。それがサンボールが既に死竜となっていた証拠だ。
しかし、キンタローはやりきれない。既に死んでいるとは言え、ニナの母親を奪った事には違いない。
胸を押さえて、過呼吸気味になる。
キンタローの『不運』は、自分より自分の周りに振り撒かれる。その事実がキンタローを更に苦しめていた。
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