83 開戦!
「親父さん。あれをどう見る?」
トーレスと別れた後、森の火事の原因をどうにかするべくキンタローは、ノイルに問いかける。
原因は、ノイルの妻であり、ニナの母親。しかし、見た目からして異様だった。
眼は黒く輝きがない。鬣も抜け落ちて、身体のあちこちが赤黒い斑点がある。クロウに詳しく確認させてみる。
「な、何っすか、あれ。ほとんど鱗がないっすよ。あの赤黒いの恐らく血っすね……」
クロウの話を聞いたキンタローとノイルは、ギリリと歯軋りをする。
「親父さん……竜人族ってのは、竜鱗を剥がれても無事なのか?」
聞きにくい事だが、確認しなくてはならなかった。
「そんなわけなかろう!」
ノイルは、思わず声を荒らげる。
「あ……いや、すまん……ワシ自身剥がれたことが無いからわからんが、岩場に引っかけただけでも激痛が走る。剥がされたとなると……」
ノイルは、キンタローの心中を察して謝るが、妻の事を思うとそれ以上何も言えなくなる。
ノイルの話から恐らく凄惨な最期を迎えたのだろう。キンタローは眉をひそめると、目付きが荒々しくなった。
「親父さん。だとしたら、どうして動いていると思う? 魔法にそういうのは、あるのか?」
「……わからぬ。ワシとて自分の魔法すら竜鱗の数だけあるのだ。あ! もしかしたらエルフの奴らの魔法は妻の竜鱗で?」
キンタローが、初めて魔法を目撃したのは約9年前。
「親父さんの妻が、居なくなったのは何時だ?」
「ニナが産まれて、すぐだったからな。10年近くなるか」
(時期的には、ギリギリだが……)
そう思った矢先、クロウが叫ぶ。
「キンタローさん! 来たっすよ!」
森を燃やしていたノイルの妻は、こちらに照準を定めたのか、向かってくる。
「親父さん。最後に名前を呼んでやるといい。聴こえるといいな……」
ノイルは、咆哮を放つように呼び掛けた。
「我が妻、サンボールよーー!! 勝負じゃあぁぁ!!」
キンタローは転けそうになる。
「さ、サンボールって言うのか? か、変わった名前だな?」
「む! そうか? ワシはいい名前だと、思ったが……」
(トイレ用洗剤と一字違いとは言えない……というか、洗剤無いしな、ここ)
ここで、つっこむのは野暮だと感じ敢えてキンタローは何も言わなかった。
「よし! 行くぞ、親父さん、クロウ! 親父さんは、魔法は火以外で頼む。出来ればさっきの水流がいい! クロウは、サンボールの背中に人影が無い以上どこかで操るエルフがいるはずだ! それを探してくれ!」
「えええ!? そ、それは難しいっすよ! エルフは見つけられるけど、操っているやつかはわからないっす!」
クロウは、キンタローの無茶ぶりに反論する。しかし、キンタローは笑みを浮かべる。
「大丈夫。探す方向はオレが指示するよ」
心配そうなクロウを励ますべく、背中を軽く叩いてやる。
指示する最中にも、サンボールが口を大きく開く。
「親父さん! サンボールの上を常に取るようにしてくれ!……来るぞ!!」
キンタロー達とノイルの妻サンボールは、今激突する。
◇◇◇
一方、トーレスは合流した父親タイナと共に、魔王と兄シーダの待つ陣地へと走っていた。
「なるほど。あの黒い竜の背中にいた少年が例の村長か」
「はい。父上」
(どうするべきでしょう? キンタローさんが僕の弟で父上の息子だと話すべきでしょうか?)
トーレスは、悩んでいた。まず、そんな話を信じて貰えるのだろうか……もし、タイナがキンタローの事を忌み嫌っていたなら……珍しく決断出来ずにいた。
「トーレス」
「……は!! はい、父上なんでしょうか」
「ふふ……随分とあの少年を気にいった……いや、違うな。もしかして惚れたか? あの少年に仕えたいと思うくらいに」
「い、いえ。僕には魔王様がおりますし」
タイナは、不敵な笑みを浮かべたままだ。
「くくく……トーレス。それでは、まるで魔王様がおられなければ、と言っているのと同じだぞ」
からかう様に笑うタイナに、トーレスは顔を青ざめる。
「ち、父上! 僕は、そんなつもりでは……」
頭のキレる息子に勝ったと、タイナは笑いを堪える。それと同時にこの息子が惚れたキンタローに興味を抱いた。
しばらくすると、目の前に陣地が見えてくるが、明らかに戦闘をしている様で2人は顔を見合せると、足を速めた。
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