78 アリエル
「お前……アリエルか?」
キンタローの呼び掛けに、首を傾げるアリエルに似た女の子。しかし、その子より反応したのは長老だった。
「キンタロー、何故ワタシの名前を知っておる?」
「は? いや、長老の話じゃ──え? 名前?」
「うむ。ワタシはアーガスタ=リード=エーシアタ=ルノーと言う。付けた本人が、長いからと略した名前が頭文字を取ってサフィエルはアリエルと呼んでたがの」
キンタローの頭がパニックになる。恐らくこの世界でその名前を知っているのは、自分1人だと思っていた。
サフィエル──
この名前を目の前のアリエルに似た女の子に言われるのならともかく長老の口から出るとは思いもしなかった。
「長老の名付けをしたのが、サフィエルだと……? ちょっと待て。おい! アリエル、どういうことだよ?」
「…………もしかして、八雲 恭二?」
「今は、キンタローという名前だ」
「ぷっ……キンタローて」
「うるさい!」
久しぶりに聞いた元の名前。キンタローは完全にこのアリエルが自分が前の人生を終えた時にあったアリエルと同一人物と認識した。
アリエルは、ここでのキンタローの生活を知らないし、何より前の人生の姿とは違うため、初めは誰かわからなかったが、自分のことを知っている人物の心当たりなど僅かしかない。このイズーリア大陸での知り合いなど、1人しかいないため、キンタローが八雲 恭二であることを認識した。
置いてきぼりを食らったのは、長老である。自分と同じ名前の女の子。そして、100年以上前に名付けてもらったサフィエルのことをキンタローが知っている様子に何から聞けばいいのか戸惑っていた。
キンタローは、疲れてしまったのか眠っているミカンを懐に入れてやる。キンタローの頭には質問がたくさん浮かぶ。しかし、余りにもたくさんありすぎて、何から質問すればいいのかわからずにいた。
口火を切ったのは長老だった。
「色々2人には聞きたいのだが、まずはキンタロー。サフィエルのことを知っておるのか?」
キンタローは頷き、自分がこの世界に転生してきたこと、そしてその転生を行ったのが、アリエルとサフィエル、そして女神のアルメイダであることを長老に話をした。
「そ、それではサフィエルは生きておるのか?」
キンタローは、アリエルを見ると首を横にふる。
「それは、オレにはわからない。けど、会ったのはオレが死んだのがきっかけだから、多分……」
長老は、ガックリと肩を落とす。アリエルは長老の横に座り慰める様に長老の手に自分の手を重ねる。
「大丈夫。必ず会える」
「そうかの……いや、そう言うことか……」
長老は、目の前にいるアリエルに殆どの魔力を与えた。それは、魔力の塊みたいなものである妖精にとっては致命的なもの。長老には、死が迫っていた。
キンタローが死んだあとに会ったのだから、いずれ自分も……会えるだろうと。
◇◇◇
「ごめんなさい」
アリエルが突然丁寧にキンタローに頭を下げながら謝る。アリエルの固い表情はそのままだが、自分の知っている限りこんなことをする子ではないと、キンタローは驚いた。
「急にどうした?」
「謝らせて欲しい。やく……キンタローは本来死ぬ予定じゃなかった」
アリエルは、かなりの覚悟で告白していた。殴られても、下手したら斬られてもいいくらいに。
しかし、キンタローは問い詰めるわけでもなく、特に関心がないようにすら見えた。
「怒らないの?」
「うーん、今度子供が生まれるし、幸せ噛みしめてる最中だし、今更って感じだな」
「そう……じゃあ、キンタローの《不運》。アルメイダが関わっていたとしても?」
キンタローの脳裏にアルメイダが──浮かばない。綺麗な人、というのは覚えているが、目の前にいる少女にボディブローを食らって倒れている印象しかない。
そして、同時にキンタローは思い出した。
キンタローは、ゆっくりアリエルの前に行く。キンタローが思い出したのは、アリエルに食らった何発ものボディブローだった。
「そう言えば、あの時アリエルから、何回もボディブロー貰ったよなぁ」
ニヤァと嗤ったキンタローは、アリエルのこめかみをグリグリと締め付ける。
「痛い痛い。あれもアルメイダの指示」
「なにぃ~?」
嘘である。キンタローにスロットのボタンを押させないようにはアルメイダは言ったが、ボディブローはアリエルの判断だ。アルメイダにサラッと責任を擦り付けるのは健在であった。
「それに、この世界にもアルメイダは関わってる」
キンタローが締め付けるのを止める。
「もしかして、エルフか?」
キンタローの質問にアリエルは首を横に振る。
「それは、わからない。だから、ここに来た」
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