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8 職務質問されても名前が無いので困ります


「名前」を説明せよ。難しいね。ってお話。


 話は少し遡り、八雲達がお互いに抱きあい泣いていた頃、川の上空を飛んでいるオレンジ髪の妖精がいた。


『う~、酷い目にあったの~』


 先ほどまで、川に流されていた妖精は、空を飛んでいく鳥が目に入り、自分が飛べる事を思い出すと、川からようやく脱出する。

 すっかり夕暮れになっており、妖精は上空から森の中を進む人影を見つけた。


『うへ~、エルフなの~。珍しく人数が多いの~』


 妖精は、20人近いエルフが何かを複数の台車に載せ運んでいるのに気付く。よく見ると台車には、かなり大きい灰色の生物の遺体が載せられていた。


 妖精は驚く。

 この辺りで、灰色の大きな生物など一つしか思い当たらない。

 慌てて、近くに確認しに行った。


『うぅ~、やっぱりサイレントベアーなの~。大きいのは多分親なの~』


 妖精は、エルフに見つからないように隠れながら確認する。

 大きいサイレントベアーが2頭、少し小さいサイレントベアーが2頭、更に最後に複数のエルフの遺体が積み重なり載せられていた。


『確か、小さいのは3頭いたはずなの~。もしかしたら別の家族なの~?あの子(八雲)は無事なの~?』


 妖精は、八雲があのエルフの遺体の山の中にいないかパタパタと森の木々を行ったり来たりしてる。

 なの~、なの~言いながらパタパタ羽音を立ててると、耳のいいエルフに気付かれて矢を放たれた。


『て、撤退なの~~~!』


 慌てて森の奥へ消えていく。

 

 そして────迷子になった。




◇◇◇

 八雲は、現在洞穴を後にし、兄弟といつもの川に来ていた。


 昨日置いてきたリュックを回収するためだ。

 誰かに持って行かれたかと思っていたが、リュックも昨日採った果物も無事だった。


 あれから何も食べていなかった八雲は、何か食べようかとリュックを探ると、昨日慌てて置いたからか、少し潰れた木苺があった。


 木苺を八雲は手に取りジッと見るとどうしても思い出してしまう。


──お土産は木苺がいいなぁ──

──気が向いたら──


 それは、いつも眠そうな兄弟と最後の会話。


 八雲は、グスッと鼻をすすり木苺を半分食べ、残りを隣で川の水を飲んでいた兄弟に差し出す。

 兄弟は、差し出された木苺を見て八雲の心情を汲み取り、パクっと残った木苺を亡くなった兄弟の代わりに食べた。




◇◇◇

  八雲は昨日から泣いてばかりいたため、川で顔を洗っていた。


『これから、どうするんだ?』


 兄弟が八雲に尋ねると、八雲は一旦洗うのを止め顔を上げる。


『この森で生き抜くには、力も知恵もまだまだ足りないと考えてる。だからこそ、一旦この森を出よう。オレ達はまだ、何も知らない』


 八雲は、口調を前の人生に戻す事にした。


 それは自分は見た目はまだまだ子供で、これから会うだろう他の人に子供だと舐められないように。

 八雲はまた、顔を洗いだし、さっぱりとした顔をあげる。


『だから、まずは───』

『──見つけたの~~~~~~~~~~!!』


 八雲が声のした方向に振り向こうとすると、オレンジ色の何かが八雲の頬にカウンター気味にぶつかった。


『良かったの~、良かったの~。』


 涙と鼻水を頬に擦り付けながら妖精はいつまでたっても離れない。


『いい加減』


 八雲は妖精の頭を片手で掴む。


『離れ』


 八雲は強引に妖精をひっぺがす。


『ろ!!!』


 八雲はそのまま妖精ごと川へ手を突っ込んだ。

 

『がぼっぶふっぶくぶくぶく』




◇◇◇

『酷いの~酷いの~~、心配してたのにあんまりなの~』


 八雲は顔を再び川で洗ってたが、言葉に引っ掛かり手を止める。


『ん? 心配? 何で?』


 八雲は何故この妖精が自分を心配してたのかわからない。

 妖精は、川を流された後、エルフがサイレントベアーを運んでいるのを見て、八雲達に何かあったのか、無事なのか心配したと話した。

 八雲は『心配かけたね』と、妖精の頭を撫でてやった。


 だけど、八雲と兄弟は別の事を考えている。


((昨日、流されてたのはやっぱりコイツか………))


 八雲達は、昨日あった出来事を妖精に話してやると、また泣き出した。




◇◇◇

 兄弟は、ポンッと手を叩く。


『そう言えば、さっき何か言いかけたよな。何だ? いったい?』

『ん? あ、ああ。いや、これからもっと他の人とも関わるようになるから、名前が要るかなって』

『………名前って何だ?』


 当たり前の質問だった。


 魔獣とはいえ、家族以外に交流を持たないサイレントベアーにとって、名前は意味が無い。

 八雲は兄弟に名前を付ける意味を説明したが、なかなか難しく、とりあえず他の人と間違えないように個別に呼ぶための物でという所で落ち着いた。


『うーん、何となくわかった……。じゃあオレの名前付けてくれ』


 兄弟は八雲にそう言うと、八雲は悩みだす。

 名前など付けたことがない。


 クイックイッと、妖精がマントを引っ張る。


『ワタシの名前もお願いなの』




 この場にいる全員、名前がなかった……

  

いつも、読んでくださりありがとうございます。

今回で2章開始です。


感想や、レビューは上から送れるよ。やってみ?


※誤字脱字などもご報告ください。 

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