76 長老の違和感
「それで、久々にワタシに顔を見せに来ただけでは、あるまい? まさか、元老婆の妖精に関して聞きに来たのか?」
「そんなわけないだろう」
キンタローは長老に夢の内容も含め、エルフに関して中心に話をする。エルフのフラムを襲った盗賊行為に始まり、自分やニナを拐い奴隷とした事、ノイルを騙し村を襲わせた事、魔人族領内での盗賊行為や殺人、そして夢の中での話を。
キンタローの話を聞き長老は、ゆっくり寝床から身体を起こす。
「あ、おい。無理は駄目だ」
「寝転びながらだと、頭が働かぬ。なに、無理はしないさ」
長老は、そのまま目を瞑り思慮にふける。キンタロー達はそれをずっと見守っていた。
「やはり、違うな」
長老は、目を開けるとそう呟いた。
「違う?」
「ああ、少なくともワタシの知っているエルフではないな。まずはキンタローの嫁を襲ったエルフの自殺だな。目的は情報を漏らさないためだろうが、あり得ぬ。エルフは少数で徒党を組みはするが、基本は個を大事にする種族だ」
長老の話を聞き、キンタローはフラムを襲ったエルフ達を思い出す。あのときのエルフは、確かに死をアッサリ受け入れていた。
「それと、奴隷や竜人族に関しての暗躍だの。かなり綿密に練っている節がある。狩りで罠などは張るが、罠を仕掛けて掛かるのを待つ、云わば“受けの罠”だな。しかし、話で聞いた限りだと“攻めの罠”だしのぉ」
長老は、話、話の合間に時折咳込む。キンタローは、長老の体調を気遣い話を終えようと勧めるが、長老は拒否した。
「体調の不良は前からだ、気にするな。あとは夢の内容を聞いてワタシなりの違和感を話させてもらおうか」
「違和感?」
キンタロー自身感じた違和感は、既に長老に話をした。つまりそれ以外にもあるという事になる。
「その前に、1つ聞きたい事があるのだが、夢の中でエルフの遺体はあったのか?」
長老の質問にキンタローは目を見開く。そこで、長老の違和感の正体に気づく。夢の中に遺体は出てこなかった。
それは、2つの可能性を示唆していた。
1つは、エルフがエルフの遺体を持ち去った可能性。それは、昔両親を襲った時エルフはエルフの遺体を持ち去っていた。可能性は高い。しかし、それ以上にもう1つの可能性の方が怖かった。
もう1つの可能性。それは、エルフの遺体が出なかった場合。つまりは、完全な奇襲。それと、村を全滅させるだけの人数。夢では門は正面から破壊されていた。そして、村人が逃げる暇もなくあっという間に破られ、村人への蹂躙が始まった事になる。
100や200ではない。
2つ目の可能性の場合は、他にも疑問点が出てくる。それは、エルフを森でほとんど見ない事。キンタローが実際に見たのは、両親が殺される時と、フラムが襲われた時だけ。今いる妖精の森で暮らした5年間も見ていないし、クマゴローの探知にも引っ掛かっていない。
そんな事あり得るのか?
一体エルフは、何処に住んでいるのか? 他に見た人は…………いた。
『ミカン。お前、昔オレ達の両親を運ぶエルフを見たって言ってたよな。あれは、何処だ?』
『覚えて無いの~』
アッサリと答えるミカンにキンタローは呆れる。
『まぁ、ミカンは下流に流されていってたから下流の方じゃないか?』
『そういやそうだったな、クマゴロー』
両親が殺される当日、ミカンが下流に流されていくのをキンタローとクマゴローは、目撃していた。
『そういえば、どうしてミカンが流されたの知ってるの~?』
『『見てたから』』
2人息を合わせて、答えるとミカンはどうして助けてくれなかったのか、抗議して頬を膨らませる。
『『いや、ミカン飛べるだろ』』
再び息を合わせて答えるとミカンは、明後日の方向に視線を反らす。
『あ~、そういう説もあるの』
誤魔化しながら、キンタローとクマゴローから少し離れた場所に座った。
(なんだよ、説って?)
3人のやり取りを見ていた長老が、優しく微笑んだ。
◇◇◇
「そういえば、本題を忘れていた。その……ミカンの子どもってどうなってます?」
キンタローは、少し照れながら長老に聞いてみる。長老は、ミカンを呼び寄せ頭に手をやると目を瞑った。
「ふむ。あと2、3日といったところだな。大きさで言えばキンタローがここに来た時くらいだろう」
「だったら先に……」
キンタローは、他のサイレントベアーの協力を得たことを話をして、妖精族に通訳として何人か貸して貰いたいと話す。
「連れていけば良い。キンタローも家族だしの。あ、ミカンは置いといてくれ」
早速、長老の許可を得て妖精族数人にお願いし他のサイレントベアーの元に、ミカンを残して向かった。




