73 トーレス
しばらく考えを頭の中でまとめる為に目を瞑っていたキンタローとトーレス。
ほぼ同時に目を開けると、まずはトーレスが口火を切る。何か考えついたのかと周囲にも緊張が走る。
「キンタローさん」
「トーレス」
ゴクリと、誰かの生唾を呑む音が聞こえる。
「朝ごはんにしませんか?」
「朝ごはんにしよう」
「お腹空いたの~」
『腹へったな』
2人と、ミカン、クマゴローはそう言うとリビングへと向かった。
キンタローは、リビングの手前で足を止め振り返る。
「リリ、ルルごはんの用意を頼む」
「「は、はいだす」」
リリとルルが台所へと向かったのを見て、キンタローはリビングへと入っていく。
フラムやアンリエッタ達は、すっかり毒気を抜かれ普段への日常の空気に戻っていった。
◇◇◇
「やっぱり、鍵はミカン……か」
「そうですね。話を聞いた限りでは、僕もそう思います」
朝食後、キンタローの書斎でトーレスと2人で話合っていた。
緊張や、重苦しい空気のままでは、焦りを生み出し良案も出ない。周囲もそれに飲み込まれ、このままでは愚策を取りかねない状況から、2人は朝ごはんを食べるという日常を取り戻す手段を使った。
しかし、まさかお互いが同じ事を考えるとは思っておらず、特にキンタローは、トーレスに一瞬でも先に言われて、驚嘆していた。
(あっさり、オレを村長だと見抜き、更にはオレと同じ考えをオレより先に思い付く……魔王が信頼しているわけだ……)
キンタローは、トーレスに自分がクマゴローの両親に拾われてからの出来事を全て話す。奇しくもエルフに警戒を抱きキンタローと手を組みにきたトーレスにとって、エルフが魔法を、それも自分達魔人族より優れたものを使うと知り、驚愕するしかなかった。
「魔法に関しては、ノイルが詳しい。後で聞いてみたらいいさ」
「はい。しかし、それよりも先ずは夢の回避が先でしょう。ミカンさんが出て来なかった理由に心当たりは?」
「やはり、名付けからのミカンの出産……出産と言っていいのかわからないけど、それだろうな。だとしたら、長老に話を聞くのが早い。しばらく、会ってないからなぁ。明日にでも行くよ」
それから2人は、夢の情報から問題点を洗い出していく。門が正面から破られていた事から、門の強度と衛兵の増加。魔法に対抗するための武器の開発。これに関しては、命中力は低いが相手の体勢を崩したり、威嚇に十分なり得るということで、トーレスが投石機を提案してきた。
2人は、早速準備に取りかかった。
「クロウ! 今すぐ主だった人を集めてくれ。ジャン、ゴルザ、それにキンコも」
「わかったっす」
書斎の横に控えていたクロウに頼むとキンタローは、フラムの元に向かう。
自室で、アンリエッタとニナとで本を読んでいたフラムに、キンタローはトーレスとの話を教えた。
「そう、妖精族の長老様に……私に出来る事は、無いかしら?」
「はわ! フラム姉さん、“私たち”ですよ」
アンリエッタが、フラムを抱きしめそう言うとニナもフラムに抱きついてくる。フラムは、いとおしそうに2人の頭を撫でてキンタローの顔を見た。
「もちろん、あるさ。フラムには手紙を書いて貰いたい。宛先はリベルだ。職人を何人か派遣して欲しいと、それにリベル達も警戒を強めるようにと。オレが言うより、オレの言葉を信じてくれたフラムの言葉の方が良いだろう」
キンタローは、アンリエッタとニナの肩に手を置く。
「アンは、忙しいぞ。まずは、職人達の炊き出しだ。これは、リリやルル、それにハンスの奥さんのワラビーにも手伝ってもらえ。あとは、連絡係だ。人手が足りないからな。村中走ってもらうぞ。ニナは、もっと重要だ。フラムから離れないようにな。いざとなったら、皆を頼む」
「はわ! たいへんだね。アン、頑張ります」
「ニナ……守る」
ニナが、胸を張って自分で叩いてみせる。任せろと言わんばかりに。そんな、三人をキンタローは強く抱きしめた。
◇◇◇
主だった人が集まり、キンタローとトーレスは、指示を出す。木材などの調達はジャンに、門の強化にはクロウとノイルが、衛兵の増員にはゴルザ、そして、猛獣の獣人が住むアニ村からいくらか連れてきてもらうようにキンコに頼む。
ハンスには、投石機の製作にトーレスと当たってもらった。
「それと、オレが妖精族の長老に会いに行く間、全権はトーレス、頼む」
「え!? 僕が……ですか? 僕は魔人族ですが……」
トーレスの答えを聞いたキンタローは、露骨に嫌な顔をする。
「何言ってんだよ。キタ村と魔人族は、手を取るのだろう? だったら、魔人族達も家族だ。オレは家族を守るようにと頼んでいるだけだ」
トーレスは、目を瞑っていつもの様に考えようとするが、すぐやめてキンタローに頭を下げた。
「わかりました。このトーレス全力で当たらせて頂きます」
(ふふ……おかしな感じですね。私達が捨ててしまった弟に家族を問われるなんて)
翌日、キンタローとクマゴロー、ミカンの3人は、皆に見送られ、妖精族の住む森へと向かった。
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