70 銀と金
「はじめまして。キタ村の村長ですね? 僕はトーレスと言います」
トーレスと名乗った銀髪の魔人族は、キンタローに向かって右手を出し握手を求める。キンタローは、躊躇いなく、その手を取り握手を交わした。
「キタ村の村長のキンタローだ。キンタローで構わない、オレもトーレスって呼ぶし」
トーレスは、微笑み、握手を終えると懐から紙を出しキンタローに手渡す。
「こちらは、魔王様からの親書になります」
キンタローは、トーレスから親書を受けとると、見ずにすぐにクロウへと渡した。
「な!?」
トーレスの部下の1人が、キンタローの態度に腹を立て武器を抜こうとする。しかし、トーレスは、手でそれを制止した。
「トーレス様! 何故止めるのですか!?」
「落ち着きなさい。キンタローさんの配慮を無下にする気ですか?」
キンタローは、目を見開き驚きを見せる。まさか、自分の考えを読み解くとは思ってもみなかった。
キンタローにとって、親書など後からいつでも見れる。それよりまずは、遠くから来た客人をおもてなしする事が大事だと考え、親書をあっさりクロウへと渡した。
「おっちゃん、悪いけど今日はしまりす亭を休んでくれ。リリ達と一緒に料理を頼む。人手が足りないなら、アンリエッタやプギー達も使ってくれればいい」
ゴルザは、先にキンタローの家へと戻って行く。
「キンコ達も食べていけばいい。ジャンも来てもらって悪かったな。トーレス達はオレの家に泊まればいい。部屋はまだあるしな。あ、忘れてた。キンコは、しまりす亭に泊まればいい。別に他意はないけどな」
ゴルザに惚れているキンコは、顔を真っ赤にして照れながら焦る。もしかして近々キンコとゴルザが……などと思いキンタローは嬉しくなった。
トーレス達を観光がてら、キタ村を案内する。
魔人族は、特に農作業や狩りが得意ではなく、職人もドワーフ程ではない。トーレス達は、自分達の村との違いに驚きを隠せなかった。
キンタローの家と戻ってくると、フラム達が出迎え歓迎する。流石にクマゴローを見た時は、トーレスも驚いたが、キンタローの兄弟だと言うと、納得した。
食事の用意が出来るまで、トーレスを自室に呼び、キンタローは2人きりで話をした。
「さてと、トーレス。今回来たのは魔王の挨拶を持ってきただけか?」
キンタローは、トーレスをソファーに座るよう促しながら、質問をする。
「僕の態度に不審な点でも?」
「いや、魔王ってのは、一番偉いのだろう? トーレス、お前が挨拶程度で来るってのが、不可解なんだよ。お前、相当頭キレるだろう? 若いが、それだけ信頼されているって事だ。そんなお前が挨拶だけです。なんて事あるわけないだろう?」
トーレスは、目を瞑り考え込む。これは、トーレスが考える時の癖だった。
(ここは、正直に言うべきか……)
トーレスは、考えをまとめると目を開ける。
「そうですね。まずは、このキタ村の発展具合の確認と、持ち帰れる所を探る事ですね。それとキンタローさんに、魔王様と面会してもらう事ですか」
「おいおい。この村の良い所を持ち帰るのは、構わないが、なんだよ、魔王に面会ってのは!?」
「いえいえ、単に魔王様がキンタローさんの剣に興味があるだけです」
キンタローは、ソファーに立てかけていた剣を取りトーレスに渡す。
「いい剣だけど、特段変わった所はないぞ」
「拝見しても?」
「どうぞ」
トーレスが、剣を抜き確認する。トーレス自身に剣の良し悪しはわからない。しかし、以前魔王からライザ=ラウザの剣を見せて貰っている。キンタローの剣は、それに遜色無いことは、わかった。
「確か、これは先ほどの奥様が?」
「奥……! まあ、そうだな。フラムとその父リベルが作ってくれた物だ」
トーレスは、剣を仕舞いキンタローに返す。剣をソファーに置くとキンタローの腰のナイフに目をやった。
「その、ナイフは?」
「ん? ああ、ライザのナイフだよ。見るか?」
しかし、トーレスはすぐに返事をせずに目を瞑り、また目を開けた。
「トーレス?」
「ああ、すいません。拝見します」
ナイフを受けとったトーレスは、目を見開きしばらく動かなくなる。
それもすぐに戻り、改めてナイフの装飾部分を確認した。
「キンタローさん、このナイフは、どこで?」
「なんで、このナイフ見たら入手先をみんな知りたがるんだよ!? 盗ってないぞ。恐らくは実の母親の形見だ」
トーレスが固まる。
「も、もしかしてキンタローさんの母親と言うのは、魔人族では?」
「そういや、父さんがそんな事言ってた気が」
トーレスは顔を伏せ、震えが来るのを必死で堪えていた。
「キンタローさん……トイレをお借りしたいの……ですか
」
キンタローが場所を教えるとそそくさと出ていく。トイレに入ったトーレスは、我慢出来ずに身体が震え、ボロボロと泣き出した。
「ああ!!…………父上! 兄上! …………死んだと思っていた弟に……弟に会えるなんて…………」
トーレスは、ナイフの装飾に見覚えがあった。それは、幼い頃に見せてくれた母親の宝物。母親が、父親のタイナから結婚の時に貰ったという唯一無二のナイフだった。
トーレスは、キンタローが自分の弟であることを確信した。
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