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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第7章 金と銀と魔人族
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67 つい、出来心でやった。後悔はしていない。


「村長。もうすぐ、会議の時間……」


 クロウがキンタローに、(たしな)める様に言うが、全く動く気配はない。


「あ、蹴った! 今蹴ったよね!」


 キンタローは、フラムのお腹に顔をくっつけながら、喜ぶ。フラムも、(いと)おしそうに自分のお腹を撫でている。

 フラムのお腹には、今キンタローとの子供がいた。


「キンタロー、会議はいいの?」

「いいの、いいの」

「良くないっす! 村長!」


 ここの所、キンタローはいつもこんな感じでフラムの側を離れない。クロウの苦労は絶えなかった。


 初めはキンタローも、特にここまでフラムにべったりでは無い。しかし、フラムのお腹が顕著に膨らみだすと、一変した。フラムの妊娠は、8ヶ月目を過ぎて、いつ産まれてもいいように、ラウザ工房からアマンダも来ていた。


 アマンダは、ミネアの出産にも立ち会い、もっと前には手伝いとしてフラムが産まれた時も立ち会っている。そして、こういう時の男性側の扱いにも慣れていた。


「ほら、キンタローさん。子供の為にも働いてらっしゃいませ」


 キンタローの襟を掴みアマンダは、ズルズルと引っ張っていき、クロウも後をついて部屋を出ていった。


 部屋には、フラムと編み物をしているアンリエッタが残された。


「はわ、フラム姉さん。アマンダさん、凄いですね」

「私も頭上がらないのよね。母親代わりに育てて貰っていたから。だからこそ、来てくれて助かるわ。やっぱりちょっと不安だもの」


 お腹を撫でながら不安げな顔を見て、アンリエッタは編み物を置きフラムの側に行く。フラムの手を両手で包み安心させた。


「はわ。わたしもいますし、大丈夫です」

「アンちゃん、ありがとう。あ、今蹴ったわ」

「きっと子供も、大丈夫って言ったのです」


 フラムとアンリエッタは、お互いに顔を見合わせ笑った。


「次は、アンちゃんの番ね。キンタローも約束したでしょう?」

「はわわ! わたしはそっちの方が不安ですぅ。あの、フラム姉さんのきっかけは、どうだったのですか?」

「え、ええ? そんな事聞くの? う、うーん、聞きたい?」


 何度も首を縦に振るアンリエッタに、仕方なしにフラムは話始めた────




◇◇◇

 ミネアが出産をしてから、キンタロー達は頻繁にドワンゴ村とキタ村を行き来していた。


 フラムやアンリエッタの周りには、出産した事のある女性が少ない。今後の為にも子育ての様子などを頻繁に見に来る様にアマンダが、キンタローに頼んだ事だった。


 キンタローは、フラム達の子育てという言葉に、最初照れたが、自分の周りで出産した女性を見渡すとプギーの母親チキンバード位しか見当たらず、大惨事に成りかねないと嬉々として引き受けた。


 その後、何度かキンタローは、フラムやミネアを連れてドワンゴ村へと往来していたが、ある日出かける直前になり、ノイルがクマゴローとミカンとニナを借りたいと言ってくると、今度はアンリエッタがしまりす亭を手伝いに行くと言い出した。


 もちろん、これはフラムとキンタローを2人きりにする為のアンリエッタの配慮だった。


 2人は、フラムが御者をして出発する。普段クマゴローの上に乗って移動するキンタローには馬車を操る技術が無い。何となく気まずい2人は、ミネアの子供、つまりフラムの弟の話ばかりになる。

 初めは、ミネアによく似てるとか、リベルに似なくて良かったとか、ミネアの子供だからもっと大きいかと思ったとか、他愛もない話だったが、フラムが自分の子もあんなにかわいいのかな、という発言をして、再び2人は気まずい空気になった。


 朝早くに出発した2人は、夜にはナギ村に到着する。クマゴロー達がいる場合は、野宿も平気なのだが、今回は宿を取った。


 宿で夕食を食べ終える頃に、外は雷がなり激しい雨が降り注いだ。

 別々の部屋を取っていたが、宿の主人がやって来て急な雨でお客さんが増えた為、2人部屋に移ってもらえないか頼んできた。

 キンタローとフラムは、お互いに顔を見合わせた後、了承すると、主人の計らいで一番上の階にある一番広い部屋を用意してくれた。


 部屋に行くと2人は驚く。てっきりツインの部屋を用意されたと想像しており、ダブルのベッドが1つしかなく困惑する。今さら替えてとは言えず、とりあえずベッドに腰をかけた。


 2人、腰をかけたまま短くとも長くともとれる、沈黙の時間が続く。お互いに覚悟は決まっていた。


 なかなか今まで2人きりになることは無く、これからもいつなれるかわからない。キンタローが、不意にフラムを見ると、タイミング良くフラムもキンタローを見て、お互いに視線が合う。


 そして、どちらからともなく、キスを交わす。


 お互いの唇が離れると、長い時間していたのか、あっという間だったのか、2人は時間を全く感じられず、再びそれを確認するかのようにキスをする。


 お互いを確かめるように、どちらからともなく舌を絡め、時に優しく、時に激しいキスを交わし、そのまま2人はベッドへと倒れこんだ。



 この日、2人は結ばれる。

 

 疲れはて眠りについた時には、朝日は既に昇っていた。




 家に帰宅した後、フラムはアンリエッタに詳しくは言わなかったが、それとなく話をする。アンリエッタは、フラムに抱きつき、嬉しそうに祝福して、周囲も2人の距離がかなり近づいているのに気づき、それとなく察した。


 しばらくして、フラムが体調を崩し診察を受けると妊娠している事が発覚し、村中が沸いた。


 そして、現在に至る。 



 ────フラムが、アンリエッタに事細かに話してあげると、突然部屋の外から叫び声が聞こえた。


「やめてぇぇーーーっ! 恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!」


 まだ、部屋の扉の前にいた、キンタローの心からの叫びだった。 

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