閑話4 サフィエル達は今 前編
サフィエル達は、気絶させられた後、どこかの部屋へと閉じ込められ、かなりの時が過ぎていた。
「くそっ、固い扉だな! 開かねぇ……」
サフィエルは、目の前にある扉に体当たりするも、その小さな体では、びくともせず苛立ちを覚える。どうにかならないかと、部屋を見渡すが灯りは常についてあるが、窓などは無い。あるのは、大量の媒体が並ぶこれまた大量の本棚と、恐らくそれを閲覧する為のパソコンみたいな物、そしてそれをずっと弄っているアリエルだけである。
サフィエル達は、女神候補だが何か特別な力があるわけではない。栄養など取らないでも平気だが、流石に疲れはやってくる。
「くそっ、大体なんで守備隊の奴らがアルメイダに肩入れしてんだ! くそ!」
「慌てても仕方ない」
「でもよぉ……ここに閉じ込められてどれくらいだ? そもそもここは何処なんだよ? 見た事ないぞ」
アリエルは、サフィエルに目を向けず、ずっとパソコンみたいな物に向き合っている。とうとう、アリエルの落ち着きっぷりに苛立ちだした。
「なんで、アリエルはそんなに落ち着いてんだよ! アルメイダが何かしようとしているのに、守備隊までアルメイダに味方して!」
「守備隊が味方してるなら、こんな所に閉じ込めない。サフィエルはプチュンされてる」
「プチュン言うな! それにオレだけかよ!」
アリエルは、未だにモニターから目を離す事はない。サフィエルは呆れ気味に、唯一ある扉を背に座り込んだ。
「そもそも主神様は、何でアルメイダを見逃している?」
しかし、やはり寂しいのか退屈なのかアリエルに話かけてしまう。
「我関せずが、モットー。だから表立っては動かない。守備隊は、主神様の管轄。だから助けはくる」
「助け……か。だったら守備隊の奴らが助けてくれりゃいいのに」
「守備隊が助けたら、主神様が動いたも同じ。ここに閉じ込めたのは、必ず意味がある。そんなのもわからない? サフィエル、バカ?」
「ぐっ…………」
モニターから目を離す事なく首を傾げるアリエルに、サフィエルは何も言えない。仕方なしに、他に何かないか探そうと立つ。
「サフィエル、サフィエル」
アリエルが、手招きしてモニターの所にサフィエルを呼ぶと、何かと思いモニターを覗きこんだ。
「な!? 何だ、これは!?」
「多分、これが守備隊が見つけて欲しかったもの」
サフィエル達は、モニターの内容を見て目を疑いたくなった。
──イズーリア計画──
各世界からの大量の魂が入って来た為、各世界の神々が困惑した上、システムがエラーを起こす。尚、原因は不明。
各世界の神々が、新しい世界を作り、そこを魂の仮置き場として魂を様々な種族に転生させる。
新しい世界はイズーリアと名付け、新システムの元、管理を行う。
以後、この計画をイズーリア計画と呼ぶ。
「な!? イズーリア? こんなの聞いたことないぞ?」
「まだ、続いてる」
サフィエルは、読みながら眉間にシワが寄っていく。アリエルも平然とした顔をしているが、纏う空気に怒気をはらんでいた。
種族として各世界に多い、人間、ドワーフ、獣人、魔人を主として、他に数十種類の種族に転生させる。
システムエラー発生。人間がシステムには無い力を持ち、ドワーフ、獣人、魔人、少数の種族を蹂躙し始める。
システムエラー発生。人間と他の種族との間に出来た子供は、全て人間である事が判明。人間が爆発的に増え、人間による蹂躙が止まらない。尚、原因不明の魂の流入は止まる。
システムエラー発生。システムに何者かの介入が発覚するも、既に掌握されている事が判明。システムエラーの原因である人間の排除を決定する。
人間以外の種族を一時保護。一部の土地に移動させ人間が介入出来ないようにする。尚、この計画の凍結が決定する。
人間だけを排除するシステムを導入。尚、この計画で人間の排除が済み次第、イズーリアの放棄が決定する。
人間の排除が完了。システムのエラーが無くなり、他の種族の生活に影響が無いのを確認。システムが掌握されている様子も無いのを確認。今後は、傍観者を1人置き、全神々が居なくなる。尚、傍観者はあくまでもイズーリアの最後を見届けるだけで、関知せず、見る事もさせない。
「どういう事だよ、これは……」
「サフィエル、ここ」
アリエルが指差すのは、この計画の関係者一覧。流石に全世界の神々の名前は書いていないが、そのなかに2人が唯一良く知っている名前があった。
──アルメイダ──
「く……ここでもアイツか……しかし、イズーリアは神々がいない世界だとは知っていたが、まさか放棄とはな」
「おかしい」
「何がだ? アリエル」
「どうして、アルメイダは八雲をイズーリアに、しかも人間として転生させた?」
サフィエルは大きく目を見開き、アリエルを見る。
「そうだ……そうだよ! 八雲の不運の事を思えば、種族を虫などにしない様にするだけで良いはずだ! だけど、イズーリアの事を知っているアルメイダは、イズーリアに人間として行かせる事を優先させた事になる」
「誘導された?」
サフィエルは、八雲を転生させる直前の事を思い出す。
(転生させると決まった時、イズーリア大陸を指定したのは…………アルメイダだ。そこから虫にさせない為にアリエルに八雲を止めさせ、オレが人間を押す事を指示したのも……アルメイダだ! くそっ、手のひらかよ!!)
サフィエルは、自分の不甲斐なさに激しく後悔する。転生の件だけではない。八雲が死んだ原因は、アルメイダだ。全てにおいて、踊らされていたのかと唇を噛むしかなかった。
「く……そぉ」
悔しくて情けなくて、部屋の扉を何度も叩く。
その時、扉の向こうから大きな音と振動がして、サフィエルは扉から離れる。更にまた大きな音と振動がして扉にヒビが入る。そして、遂に扉が粉々に吹き飛び、閉じ込められていた部屋の入り口が開いた。
壊れた扉の前には、2人の背の高い男女、そして、2人の子供が立っていた。




