65 「キンタロー、アンちゃん、後で私の部屋でお話しましょ」
アンリエッタからムチを取り上げた後、フラムに事情を話し、更正させるように頼んだ。
リリをゴルザに預けて、キンタローはジャンとリビングへと向かった。
「それで今日は、リリを連れてきただけか?」
「そんなことありませんよ。本当の仕事はこちらです」
そう言って、ジャンは鞄から箱を幾つか取り出すと、箱を1つ開け中身を見せる。
「お、おぉこれは凄いな。いや、本当に想像していた以上に」
「はい。もちろん、最高の仕事をするのがジャン=クラウド商会の経営理念ですから」
ジャンは、他の箱も次々開けてキンタローの前に並べる。それは、以前ニナ達の為に頼んだネックレスだった。
「「「うわぁ~~」」」
「うわぁ~なの~」
『キラキラしてるな』
いつの間にか、フラム、アンリエッタ、ニナ、ミカン、クマゴローの5人がキンタローとジャンを取り囲みネックレスを見ていた。
「うわぁ! いつの間に!?」
全く気付いていなかったキンタローは、驚き椅子から落ちそうになる。しかし、フラム達はネックレスに夢中でそれどころではなかった。
「え、えーと、それではキンタローさんから、お渡ししてあげればいかがでしょう?」
流石に動揺を隠せなかったジャンだったが、キンタローに話題を振ることで、フラム達の注目がキンタローへと向かった。
「「「キンタロー」」」「キン……」『キンタロー』
「わ、わかった。わかったから、そんなに迫ってくるな!」
全員に、顔を近づけられキンタローは、渋々了承した。
「それじゃ、私からお願いしますわ」
フラムが後ろを向き、赤い髪をかきあげ細い首を見せる。
「は? え? オレがつけるの?」
「ええ。当然でしょ」
フラムを見て目を輝せるアンリエッタ達に、キンタローは観念してネックレスを1つ箱から取り出すと、フラムの後ろから首にネックレスをつけてやった。
「綺麗……ありがとう、キンタロー」
自分の胸元に輝く真っ赤な石を見ると、キンタローに抱きつき頬にキスをする。その光景を見ていたアンリエッタ達も目を益々輝かせた。
「はわ! 次、アンね」
アンリエッタも後ろを向き、髪をかきあげて、かわいらしいうなじを見せる。
「アン、気持ちはわかるが、そんなに尻尾を振るな。つけにくいわ!」
「はわわ!」
アンリエッタは、尻尾を片手で押さえると自分の感情がバレて顔が赤くなる。キンタローは、黄色に輝く石が真ん中にあるネックレスを選びフラムと同じようにつけてやった。
「はわ~、綺麗~」
アンリエッタもキンタローに飛びつき、その大きな胸をギュッと押し付け、頬にキスをした。
「キン……ニナも……」
そう言うとキンタローの膝の上に座り、フラム達と同じように髪をかきあげる。キンタローは、透明だが薄く青みがかった石のネックレスを選び、つけてやる。
「キラキラ……キン……キラキラ……」
キンタローの膝の上で嬉しそうにネックレスとキンタローを何度も交互に見るニナは、そのまま膝の上で対面に座ると頬に頬擦りをし、そのままキスを兼ねて頭突きをした。
「いてぇ!」
「キン……いたい」
「オレの方が痛いわ!」
一先ず、ニナを降ろすとミカンがキンタローの前に行き後ろを向く。
「ミカン、テーブルに座れ。羽を動かすな」
ミカンをテーブルに座らせ、ミカン用の小さなネックレスを手に取る。真ん中には、ミカンと同じオレンジの石。しかも服と紛れない様、その周りには青い小さな小さな石で縁取られている。
「くそ! 小さ過ぎて上手くつけれねぇ。あ、こら! 動くな!」
「くすぐったいの~」
小さなネックレスの更に小さな止め金に苦戦しながらも何とかつけると、ミカンはキンタローにキスをする。
「これ、まさか毎回オレがつけるのか?」
フラム達が首を縦に振るのを見て、うんざりとするがどこか嬉しそうなキンタローだった。
『最後は、クマゴローだな』
キンタローは、最後のネックレスを手に取るとクマゴローがつけるには、少し小さいのに気づいた。
「ジャン、これは? ネックレスじゃないのか?」
「クマゴローさんは、肩にニナさんを乗せたりしますからね。手首につけて落ちにくいようにしてあります」
『なるほどね。クマゴロー、手を出せ』
クマゴローが右手を出すと、他の4人とは違い金具ではなく、革のベルトのようになっており、穴に通し落ちない様にキュッと引っ張り留め具で固定した。
クマゴローが右手をブンブン振っても、落ちない。それを見てパーッと明るい表情でキンタローに抱きつこうとする。
『ま、待て! クマゴロー! とりあえず座れ! な!』
クマゴローがその場に座ると、その懐にキンタローが座る。
『これで、いいか?』
キンタローがクマゴローの顔を見上げそう言うと、クマゴローは、後ろから抱き締めてキンタローの頭を頬擦りして満足そうにしていた。
「満足して頂けたようで、何よりです。それではまた、キンタローさんのお嫁さんが増えた際にはよろしくお願いします」
ジャンは、そそくさと出ていった。
部屋の中には、重苦しい空気だけを残して。




