64 アンリエッタがヤバい!
キンタローが、村長に就任して、1週間が経ったある日、ドワンゴ村の村長とナギ村の村長がキンタローの家にやって来た。
「お久しぶりです、キンタローさん。まさかあなたがキタ村の村長になるとは思いもしませんでしたよ。改めましてドワンゴ村の村長をしているグリムです。」
ドワンゴ村長の爽やかな青年グリムとキンタローは、久しぶりの再開も兼ねて握手をする。
「はじめまして、キンタロー村長。私はナギ村の村長をしております、トッポと申します」
ナギ村の村長トッポは、猿顔の獣人で喋り口調からまだ若い感じがする。トッポとも握手をしたキンタローに、ゴルザが耳元でトッポの事を教えた。
「あのトッポは、キンタローも知ってる獣人の弟だ」
「猿って、1人しか思いつかないのだけど。アンの母親に告白したアレか?」
「アレだ」
トッポの兄は、アンちゃん親衛隊のグツワらしい。同じ親衛隊のメリは兄嫁ということになる。
「兄夫婦がご迷惑おかけしているみたいで申し訳ありません」
「なんか、オレに時々ちょっかいかけてるみたいだけど、大概クマゴローに排除されてるから問題ないよ」
トッポは、非常に申し訳なさそうな顔をしているのを見ると、毎度毎度迷惑かけられてるのが見てとれる。元々キンタローは歯牙にもかけていないのだが。
キンタローを含む3つの村の村長が、テーブルに着くと、キンタローが自分とニナが奴隷となった経緯、ノイルのこの村の襲撃、オンドリーが殺害、これらに全てエルフが関わっている事を話す。
グリムとトッポは、驚きを隠せなかった。
「それでは、これからはエルフに注意する、関わらないようにするように村人に伝えましょう」
トッポの提案に、キンタローもグリムも了承した。
その後、キンタローからいくつか3つの村で連携出来る案を提示する。
1つ、定時連絡を他の村へ送る。この事で、密に連携を計り、且つ連絡が来なければ何かあったかもわかる。
1つ、各村との防衛についての話し合い。今まで、閉鎖的で凝り固まった考えになっていたが、良案が出やすくなり自分の村に利用出来る。
1つ、村への移住と行き来の活発化。これにより、何かの作成にわざわざドワンゴ村に行ったり、注文された品を送る手間も省ける。
一見、行き来は減りそうに感じるが、先々には、ドワーフと獣人の交流が積極的になり、結婚したり子供が出来たりすると、親類縁者も増えお互いに行き来するように見越してだった。そうなれば、ナギ村も宿場として、栄える。
他にも、細かい取り決めなどをして、キンタローが考えたより、早々とお開きとなった。
◇◇◇
キンタローがトッポとグリムを見送ると、入れ替わりにジャンが訪ねてくる。
「ジャン、遅ぇよ。もう会談終わったよ」
「失礼な事言わないでください。頼まれた仕事をしていたのですよ」
「何か、頼んだっけ? ん……その子は?」
ジャンの陰に隠れる様に猫顔の女の子の獣人がこちらを見ている。
以前、ジャンの御者をしていたリリだ。
「以前、頼まれた料理人ですよ。遅くなりましたが、彼女は料理自体は上手いのですが、どうも田舎料理と言うか、キンタローさんの口に合わないかと思いまして、特訓しておりましたので。さ、リリ」
「は、はんじめまじで、キンタロー様、リリだす。よろじぐだ」
リリは、言葉はともかく丁寧にお辞儀をしてみせる────ゴルザに。
「しまりず亭のゴルザさんにそっくりだ。ご兄弟がなにがで?」
「…………お前、ジャンの商会のリリだろ。俺はゴルザ本人だ。キンタローは、そっち」
ゴルザは、そう言って隣のキンタローを指差すがキンタローのコメカミがピクッと動くのを見逃さなかった。
「こぢらのちびっこがか? まだぁまだぁ。キンタロー様ば、村長だ。こんなちびっこなはずね」
リリが言うとおり、リリに比べてキンタローは背が低い。もちろん、年齢もあるが栗鼠の獣人のアンリエッタはともかく、他の獣人の子供と比べても低く少し気にしていた。
ピクッピクッと、更にコメカミが動くキンタローを見たジャンは、慌てて訂正しようとする。しかし、その前にスパン! と空気の乾いた音が響く。
その音を聞いて、またかと思いキンタローが振り向くとそこにはプギー────ではなく、ムチを持ったアンリエッタが立っていた。
「はわ! キンタローに失礼な事言うな!」
再びスパン! ムチを振るうのを見て、キンタローとゴルザは、体から力が抜け、その場にへたりこむ。
「おっちゃん、なんかごめん……」
「いや。どちらかと言うと母親に似てきた……」
アンリエッタの母親は、美人だったがその自己防衛の為にゴルザと共に猿顔の獣人グツワをボコボコにするほど、過激な人と以前に言われていた。
「アンもプギーみたいになるのかな……おっちゃん」
「キンタロー、なんかすまん……」
今ならまだ引き返せるとアンリエッタを説得しようと誓う2人だった。




