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7  旅立ち


コメディ要素がない大丈夫か!?ってお話。


 八雲と兄弟は、お互い泣き疲れて眠り次の日の朝を迎えていた。


 まだ、太陽が昇り始めた早朝、兄弟の側に八雲の姿は無い。

 大木と茂みの間から出て、呆然と立ち尽くしながら兄弟を見つめていた。


 数日前に感じた悪寒。



──不運──



それがいつも付きまとい、昨日の件を引き起こしたと八雲は考えてしまう。

 このままでは近いうちに、兄弟も──八雲は兄弟から離れるつもりでいた。


 しかし、足が動かない。八雲は今まで、不運によってその手から理不尽に奪われる事はあっても、今度は自ら手放す事になる。

 怖い、失いたくない、しかしこのままでは──その葛藤が先ほどから立ち尽くす理由だった。


 八雲はギュッと目を瞑り、浮かぶ昨日の光景が決断をさせる。

兄弟に背を向け、出発しようとした時。


『何処に行くつもりだ?』


 後ろから声をかけられて、振り返ると兄弟が立っていた。



 兄弟は、目を瞑ってはいたが、ほとんど寝れないでいた。


 昨日、弟が自分に抱きつきながら『ごめんなさい……ごめんなさい……』と謝る理由をずっと探していた。


 結論が出ずに朝方を迎えた時、弟が自分から離れるの気が付く。

 初めは様子を伺っていたが何処かに黙って行こうとするので、流石に声をかけずにはいられなかった。


『で、何処に行くんだ? 何故オレに黙って行く?』


 八雲は黙ったまま、立ち尽くしている。

 黙っている理由は2つある。

 1つは、自分が転生者である事で、自分の不運のせいで両親を兄弟を失う事になったのかもしれないと、説明したところで信じてはもらえないだろうと。

 もう1つは転生者の部分を誤魔化して説明出来たとしても、兄弟に嫌われるかもしれない。

 八雲には後者の理由が何よりも大きかった。


 兄弟は、小さな肩を振るわし下を向いて動かない弟に近づいていく。

 目の前に来るとドカッと座り、弟の両頬を両手で挟み込み顔を自分に向けさせ、自分も顔を近づける。


『オレは、オマエが何で黙っているのか知らない。けど、オレはオマエを守ると決めた。オレ達は家族だ! 何があろうと、全て受け止めてやる! ずっと一緒だ! だから……だから……頼む…………話てくれ…………』


 最後には悲痛な顔で訴えてくる兄弟に八雲は重い口を開く。

 信じてもらえなくてもいい、嫌われたくはないが嘘や誤魔化しもしたくない、八雲は兄弟の言葉を信じて全てを話すことに決めた。


 自分は転生者で生前の記憶があること、前の人生で自分の不運が周りを巻き込むこと、その不運のせいで、両親や兄弟を死なせたかもしれないこと、何より今は目の前にいる兄弟を巻き込んで失いたくないこと、全てを話した。




◇◇◇

 兄弟は、フーッとため息を一つ吐き、八雲から一旦手を離すと、直ぐにバンッと、再び強く挟み込み八雲の顔を潰し、自分の顔に近づけると怒りに任せた声で捲し立てる。


『バカか、オマエは! 転生ってのはよくわからんが、家族をオレ達から奪ったのはエルフだ! オマエじゃない! 何よりオマエとずっと一緒にいたオレは、今、ここにいるだろ。オマエが言ってる事が本当なら何故オレは死んでいない?』


 最後は八雲の額に自分の額を当てて、優しく語りかける。


『あの時、母さんを見ろと言ったのはオマエだ。母さんが自分を懸けてオレ達を守った。その行動すら、オマエは不運のせいだと言うのか? 頼むから……そんな風に思わないでくれ……』


 そうだった! 母さんは ──生きて── そう言った。

 それは八雲だけでもなく、兄弟だけでもない。

 ──二人で生きて──ということ。


 八雲は兄弟の首に強く抱きついた。


『ごめん……危うく、危うく母さんの遺志を間違えるとこだった!』


 八雲には一緒に生きていく事こそが、不運に抗う事と等しく思うようになる。


 八雲の目に光が宿る。

 それは、断固たる決意の光だった。




◇◇◇

 それから八雲達は、最大限に警戒しながら洞穴へと戻っていった。


 八雲が皆を弔ってやりたいと言い出したからだ。

 兄弟には《弔う》の意味が分からなかったが《弔う》ことによって、皆が安らかに眠れると聞き、喜んで手伝うことにした。


 八雲達が洞穴に着いた時、皆の遺体などは無く、一見昨日の出来事が嘘のように思えた。


 しかし、今八雲の足元にある大量の血痕がそれを否定する。

 そこは母熊が倒れた場所。

 その血痕は、母熊の最期を直接見ていない八雲達の、微かな希望すら否定していた。


 そこに残っいた数本の毛を集め、洞穴の横に埋めて上に墓石の代わりの石を置いた。


 洞穴の中を見ると、そこには父熊がいて、母熊がいて、八雲と3兄弟が絡み合って遊んでいる姿が、浮かんで、そして───消えた。


 八雲達は墓石の前に立ち、手を合わせながら兄弟に問いかける。


『頑張ってさ……生きて生きて生き続けたらさ……母さん達は褒めてくれるかな?』

『きっと褒めてくれるさ』


 兄弟は、頭をそっと撫でてやった。

 



『皆、行ってきます!』


 八雲達は、暫しの別れを告げ、洞穴を後にした。


いつも読んでくださりありがとうございます。

これで第1章は終わりです。

次話はプロローグ直後の閑話になります。

八雲の事故原因とかも出てきます。

投稿は明日か明後日になります。


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