59 親子喧嘩終結
娘に口臭いって言われたらしばらく起き上がれないってお話。
「ニナ! 接近して説得する! いけるか!?」
「ん……」
ニナは、黒い竜からの火の玉をスレスレに避けて迫って行く。キンタローは、ニナの鬣を腕にくくりつけ、自分の上スレスレを飛んでいく火の玉にあたふたしていた。
当たらない事にイラついたのか、黒い竜も迫ってくる。ニナは高度を下げて、黒い竜の下をくぐり抜けてお互いに交差する。
その際にキンタローが、声をかけようとする。
「おい! あんた、ニナの──」
「なんで、ニナに人なんぞが乗っておる!? 降りろ!!」
しかし、その声は黒い竜に遮られ、逆に怒鳴りつけてくる。
「くそっ! 聞く耳無しかよ! ニナ! あいつの背後に回れるか!?」
「ん……」
ニナは、急上昇し逆さまの状態で、黒い竜の方へ向かっていく。
黒い竜は、ニナとすれ違った後、急ストップをし振り返るがそこに既にニナは居らず視界から見失う。上からの風切り音で上を見上げた時には遅くニナと背後ですれ違った。
「捕まえった」
黒い竜は、自分のすぐ側から聞こえた声にギョッとする。黒い竜の背にキンタローがニナから飛び移っていた。
「降りろぉ! 人族の分際で、ワシの背に乗るなぁ!!」
「あんたも竜人族だろうがぁ! 分際とか、あんたも入るんですけどぉ? ばーか、ばーか」
「うるさい! バカって言う方がバカなんだ! ハゲ!!」
「ハゲてねぇ! というか、あんたの鬣全部抜いて本当にハゲにするぞ!」
ほとんど、子供の喧嘩である。
ギャーギャーと騒ぎながら、キンタローを振り落とそうと飛びまわる黒い竜に、キンタローも何とかしがみつく。
そんな騒ぎの中、黒い竜の目の前にニナが自分の鼻をつまみながら現れる。
「とと……口……臭い」
それだけ言うと、ニナは上空へと上がって行く。
黒い竜がショックのあまり固まって動きが止まる。もちろん、これはキンタローがニナに言わせている。父親にとって、かわいい娘に言われたらショックだろうとの判断だった。
全ては、黒い竜の意識をニナから逸らす為。
「貴様のせいかぁ!!」
黒い竜がショックから立ち直ると、手で背後にいたキンタローを掴むと自分の鬣ごと引っこ抜き、怒りに任せキンタローを地面へと投げつける。もの凄い勢いで落ちて行くキンタローを見て、ニヤリと笑った瞬間自分の後頭部に衝撃が走る。
それはニナが、上空からの急降下で勢いそのままに、自分の尻尾を黒い竜に叩きつけた為だった。
軽い脳震盪を起こし、地面へと落ちて行く黒い竜だが、すぐに頭振って意識を取り戻す。しかし、態勢を整える前に自分に向かって地面から飛んでくるキンタローに驚き身体が硬直する。
直後、顎先にキンタローの右膝がぶつかり黒い竜の顎が、かち上げられ、そのまま森へと落ちていった。
キンタローも一緒に落ちていくが、寸での所でニナに拾われる。ニナは、そのまま黒い竜が落ちた近くへと降りていくと、倒れている白髪の男とクマゴローとミカンがいた。
◇◇◇
キンタローを空へと放り投げたのは、もちろんクマゴローである。
クマゴローは、キンタローの言われた通りに、常にキンタローを視界と探知能力をフルに使い捉えていた。
流石に、空からキンタローが落ちてきた時は肝を冷やしたが、《衝撃耐性》で痛みはあるものの怪我はしていないキンタローを見てホッとする。
クマゴローは、キンタローに自分を放り投げる様に頼まれ、全力で体を一回転させて放り投げたのである。
キンタローが頼んだ通りニナは、落ちていく自分を置いておき、黒い竜の頭に強力な一撃をぶつけた。しかし、キンタローが地面へ投げつけられたのは、予想外で少し威力が落ちてしまった。
キンタローも、地面に叩きつけられたのは予想外だったが、クマゴローがすぐに来てくれた事で、追撃として自分をぶつける事を思い付く。何処かに当たればいいと思っており、顎に当たったのは偶然だった。
◇◇◇
「よし、ニナ。踏め!」
「ん……」
「ぐはぁぁぁ! ニナ! 何を!?」
キンタローの合図で、ニナは気を失っていた白髪の男を踏みつけると、男は目を覚ました。
「目、覚めたか? おっさん」
「ふんっ!」
「ニナ。もっと強くだってさ」
「ぐはぁぁぁ! わかった、わかったから!」
キンタローが声をかけても、そっぽを向く男にニナが踏む力を強めると、ようやく観念した為、足をどけて、ニナは元に戻った。
「おっさん、あんたニナの親父さんで間違いないんだな? 名前は?」
「……ノイルだ」
「そうか、ノイル。ひどい事して悪かったな」
キンタローが、倒れているノイルに手を差し出すと、ノイルはその手を取ろうとする。その瞬間、キンタローは手を引っ込めて、顎に蹴りを入れた。
ノイルは衝撃を受けて吹き飛び近くの木にぶつかって、また気を失う。
「結局、ハゲたのお前じゃねーか!!」
鬣が抜けて出来たノイルの小さなハゲを指差す、キンタロー。
子供の喧嘩は、続いていた────
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