56 プギーの愛蔵本と黒き竜の襲来
ソフト編もあるよってお話。
キンタローが、ぐったりしている様子にフラムが気付き慌てて、クマゴローにキンタローをよく見るように身振りで知らせた。
『き、キンタローーー!!!?』
クマゴローは、今まで見たことないくらい目と口を開き驚く。周りをキョロキョロと見ると皆は静まりかえって自分を見ている。
そっとキンタローを床に置き、フラムをその横に立たせると、自分はリビングの端へ移動して何事も無かったように寝てるふりをした。
「私そこまで、力強くないわよ!!」
クマゴローの体がビクッと動いた。
◇◇◇
キンタローが目を覚ました後、クマゴローは怒られたが寂しい想いをさせた事もあってかすぐに許して、皆と一緒に晩ごはんを食べ、その晩、キンタローはベッドでは寝ないでクマゴローの側で寄り添うように眠りについた。
翌朝、キンタローが目を覚ました時、既にフラムとハンスは工房へ行っており、キンタロー達も朝ごはんを、食べ終えると出かける準備をする。
「キンタロー、ちょっといいか?」
朝ごはんの片付けをしていたゴルザが、呼び止め一冊の本を渡す。
その本のタイトルは《意中の人の落とし方 ハード編》と書かれてある。
恐る恐る1ページ目をめくると。
──簡単! 相手の背後から首を──
バン! キンタローは、本を床に叩きつける。
「おっちゃん、何でこれをオレに渡した?」
「いや、プギーから取り上げたんだが、どうしよ──」
「燃やせよ! 即だよ! 首をどうするんだよ!? 締めるの? 締めるのか!? 落とし方って物理的かよ!! 本当にハードだよ!!」
キンタローは、クマゴロー達やアンリエッタを連れて家を出ていった。
そのまま、ジャンの店により鷲顔の獣人タカさん一家に会いにいき、日中の見張りをお願いすると、あっさりと引き受けてくれる。どうやら、ジャンが昨日キンタロー達と別れた後、話を通しておいてくれたらしい。キンタローとタカが握手を交わそうとした時。
「あー! キンタローだー!」
家の中から、子供が出てきた。
「こら! クロウ! キンタローさんは、顔役だぞ。さんをつけろ! さんを」
クロウと呼ばれた少年は、タカの息子で以前の決闘裁判を見てキンタローに憧れているとの事だった。
(いやいや、何で子供に決闘裁判見せてんの?)
「はじめまして、キンタローさん。自分は、クロウって言うっす」
「お、おう!」
クロウは、如何に自分がキンタローに憧れているかを説明しながら、グイグイ迫ってくる。
「だから、だからキンタローさんの決闘の時の堂々とした──いたー!」
「顔が近い! あと鼻が痛いわ!!」
さっきからクロウの鼻、というより嘴がキンタローにちょいちょい刺さるため、思わず殴ってしまった。
「それじゃ、キンタローさん。今から見張りに行ってきます」
タカは、そう言いキンタローに改めて握手を求め、丘へと向かった。
◇◇◇
「で、キミはどうしてオレの後に付いて来るのかな?」
タカの家を出たキンタロー達を、クロウが付いてきていた。
「自分、キンタローさんの弟子になることに決めたっすから!」
「うん、何の説明にもなってないよね?」
クロウに限らず、慕ってくれるのに悪い気はしない。キンタローはこれ以上、何も言わなかった。
付いてきていたクロウも含めて、キンタロー達は村の門にやって来た。
「ふわあぁ、近くで見ると大きいっすねぇ」
クロウが見上げて見ているのは、巨人族の血をひくドワーフのミネアである。今朝着いたばかりだという。
「あの……キンタローさん……お久し……ぶりです。あ……スカート引っ張……らないで」
クロウもミネアを見上げていたが、アンリエッタとニナも同じで、ニナはクマゴローから降りるとミネアのスカートを引っ張りながらよじ登ろうとしている。
「はわ! ニナちゃん、降りて! それと、フラム姉さんのお義母さんですね。はじめまして、アンリエッタと言います」
「よろ……しく……アンリエッタ……ちゃん」
いつもの様におどおどした喋り方のミネアだが、その表情は初めに会った頃と違い、フラムとの関係が良好なのが見て取れる。
ミネアとアンリエッタは挨拶が終わっても、腰が低いからかお互いにペコペコ頭を下げている。そして、門の修理をしていた周りの村人達がずっと2人を見ていた。
2人が頭を下げる度に揺れる胸を。
キン! キンタローは、剣を1回鳴らし睨み付けると、慌てて村人達が散っていった。
◇◇◇
「────さぁぁぁぁん!!」
村の奥から、馬を走らせ大声でキンタローを呼びながらジャンが慌てた様子でやってくる。
「ジャン、どうした?」
「緊急事態です! 急いでキンタローさんの家へ!!」
いつも飄々としているジャンに余裕が全く感じられず、キンタローはクマゴローに乗って、ジャンと家へと急いで戻っていく。
「ジャン! 一体何があった!?」
「タカさんが、知らせてくれました。竜が……黒い竜がこちらに向かって来ているみたいです」
「な──!? 本当か!?」
「私も文献でしか、読んだ事しかありません。ですが、空を飛ぶ巨大な体躯、竜としか思えません」
キンタロー達が急いで家を目指している頃、アンリエッタとミネアはお互い何があったのかわからずにいた。
「なにが……あったの……?」
「ミネアさん、取り敢えず私達もキンタローの家に行きませんか?」
アンリエッタに促されたミネアは、足元にいたニナを抱え上げると、肩車をする。
しかし、いつもと違い上の空のニナはポツリと呟いた。
「とと……きてる」
アンリエッタは、ニナの呟きが気になりながらもキンタローの家へとミネアに抱えられながら、向かい始める。
(なんだろう? とと……きてる? きてるは多分来てるだよね? じゃあ、“とと”は何?)
アンリエッタが、ニナの呟きを聞いたのは二度目だ。一度目は丘で。何を言ったかはわからなかったが、今度は聞きとれた。
二度目だからこそ、アンリエッタは気になっていた。
(ニナちゃんは、キンタローの事を“キン”、クマゴローちゃんは“くま”って呼んでる……じゃあ、“とと”何とかさん? “とと”さん………………アーッ!!)
「ミネアさん、ちょっと止まって!」
ミネアが足を止めると、アンリエッタを一先ず降ろした。
「ニナちゃん! もしかして、お父さんが来てるの!?」
それを聞いたニナは頷いて、ゆっくりとある方向を指差した。
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