55 リアル熊式鯖折り
アンリエッタがちょっとヤバいってお話。
「いきなり、悲鳴とは酷いな」
フクロウのロクローという白髪の初老の男性が悲しい顔をする。見た目は、特に獣人らしくなくキンタローと変わりがない。そんな人の首が180度回れば誰だって驚く。
キンタロー達の悲鳴は、至極全うだった。
「はわ! ロクローおじさん、ごめんなさい」
「アン、知り合いか?」
「うん、何度かお客さんとして……あと、ロクローおじさん、お菓子屋なの。美味しいって有名なの」
「お菓子屋……チーズケーキ?」
「はわ? チー……何?」
そんな2人のやり取りを見ていたジャンが1つ咳払いをすると、キンタローは当初の目的を思い出し、ロクローに丘からの見張り役をお願いをする。
「なるほどねぇ、話はわかったし協力もしたいが如何せん店をほっとくわけにもいかねぇ。ウチは、夕方からお菓子を焼いて夜に販売するんだ。だいたい、お前ピッグを倒して新しい顔役なのは知っているが、この村の出身でもないだろう? 何でそこまで、真剣なんだ?」
「何言ってる? そんなのはこの村が大事だからに決まってるだろ」
ロクローの質問にあっさりと答えたキンタローにロクローは、少し驚きながらも目を瞑り考える。
「1つ条件いいか? 娘と妻は、夜だと危ないから1人で外出させてないんだ。自分と息子だけでいいか?」
「そんなの当たり前だろ。おじさん達も1人じゃなく衛兵を2人くらい回してもらうよ」
ロクローに了承をもらい、キンタローは手を差し出し握手を交わす。
キンタローのキタ村の顔役としての初仕事は、成功に終わった。
◇◇◇
「キンタローさん、お疲れ様でした。もう夜になります。タカさん一家には明日にでも」
「わかった、ジャン。でも、上手くいって良かった。正直子供の言うことなんて、信じてくれないと思ったからな」
「この村の大半の人は、決闘裁判の事を知っています。皆、キンタローさんの事を少なからず認めているのです。私もその1人です」
「全くウレシクナイナー」
珍しく、落ち込んだジャンを放って帰宅するキンタロー達だった。
◇◇◇
「「おかえりなさいませ、キンタロー様。ブヒ」」
プギーとチキンバードが玄関で出迎える。キンタローがプギーを手招きして呼び寄せると、嬉々として近づいていく。その右手にムチを持って。
「まず1つ。叩かないから。おい! こら! プギー! アンを睨むな! それとアン。何で『がんばります』って顔してるの? 叩かないからね」
プギーからムチを取り上げ、質問を続ける。
「あと1つ。チキンバードに何をした? なんで、あんな素直になっている?」
「決まっております。チキンには、キンタロー様の素晴らしさを密室で2時間みっちり教えました。そうしたら、あら、不思議。とても従順になりました。ブヒ」
キンタローは、聞きたい事が増えて頭を抱え込んでしまう。
「なんで、チキン? お前の母親だろうが。せめてチキンバードにしろよ。それと、オレの素晴らしさって何よ? 何を吹き込んだ? いや! やっぱり言わなくていい」
「私がチキンと呼ぶのは、私が女中長で、チキンが女中だからです。親子など関係ありません。ブヒ」
「いや、プギーも女中だからね。勝手に決めるなよ」
「確かにそうですね。これはお仕置きされる必要があります。ブヒ」
新たにムチを背中から取り出そうとするプギーを無視して、リビングへ、そそくさと入っていった。
「遅いぞ、キンタロー、アンリエッタ」
ゴルザが料理を並べながら、迎えるとアンリエッタは手伝いへとパタパタと走り出す。
寝ているニナを、後からリビングへと入ってきたチキンバードに渡し一息つこうとすると、クマゴローに抱きつかれる。
『キンタロー、キンタロー、キンタロ~~~!!』
『な、何? どうした、クマゴロー?』
クマゴローに抱きつかれながら困惑するキンタローに、フラムから事情を聞くと、何でも荷物持ちをしている間は、問題なかったが、その後ずっと寂しがっていたらしい。
「こんな、クマゴロー初めてなの~」
ミカンの言う通り、キンタローも見たことがない。
確かに大概キンタローは、クマゴローの探知範囲内にいる。しかし、今日はその探知範囲外にいた。
クマゴローも、いつかはこういう時が来る覚悟は出来ている。だから、初めは我慢していた。しかし、時間が経ちにつれ、その寂しさは積もりに積もり、リビングに入って来たキンタローを見ると、飛びかかりたくなるが、キンタローがニナを背負っているのに気付き更に我慢する。
そして、ニナをチキンバードに預けた瞬間、弾けた。
『キンタロー、キンタロー、キンタロ~~~!!!!』
『わ、わかった、わかったって。取り敢えず、離、はな、は……』
クマゴローは、キンタローを抱擁する。それも力いっぱい。全力で。
キンタローは、ぶくぶくと泡を吹いて白目を向く。
まさしく本物のベアハッグだった。
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