54 キンタローの初仕事
ハンスは単純ってお話
「ゴルザさん、すいませんでした」
フラムは、しまりす亭の食堂を無茶苦茶にしたことを謝り、頭を下げる。しかし、ゴルザはすぐに顔を上げさせ、今度は自分が頭を下げた。
「いや、悪いのはこっちだ。勝手な事をして、フラム親方を泣かせてしまった。しかも、アンリエッタを受け入れてくれて。本当に申し訳ない」
「いえ、アンちゃんは、いい子ですわ。だから私も受け入れたのです。割ったお皿などは、私が作って弁償します。それにこれからは、家族になるのですからフラムでいいですわ」
「結論。ハンスが悪いってことで」
「なんでですかーー!?」
キンタローの結論に、気を失っていたはずのハンスが目を覚ましす。
「ハンスさん、あなたがもう少し丁寧に説明すれば、お嬢様はここまで暴れなかったのですよ」
アレンにまで、責任を問われハンスは食堂の隅でしゃがみこんでしまった。
「ハンス! 落ち込んでいる暇は無いわよ。家具作りは、あなたの得意分野でしょ。修理や、新しく作るのをあなたにお願いしたいのよ」
フラムは、ハンスの肩を叩いてお願いする。
「……そうですね! やります! やりますよぉ! お嬢に頼まれちゃあ頑張りますよぉ!!」
ハンス以外全員の気持ちは一緒だった。
単純だ……と。
◇◇◇
しまりす亭は、元々が食堂が売りであったため、キンタローの提案で休業にする。
ゴルザとアンリエッタは、しばらくキンタローの家で、プギーやチキンバードに料理を教える事となった。
フラムは、アレキサンダー村長の裏手にあるというラウザ工房の窯の整理や、材料の調達に向かう。クマゴローとミカンは、荷物持ちとクマゴローへの通訳として、フラムについていった。
「あれ? アレンは行かないのか?」
「はい。実は私はお嬢様が飛び出したのを後を追っただけでして、キンタローさんにも会えましたし、帰ろうかと」
「そうだったのか、心配かけたな。リベルとミネアさんとアマンダさんにも謝っといてくれないか?」
「わかりました。ただ、ミネア奥様は今頃こちらに向かわれているはずです。お嬢様が飛び出したのは、門の修理の依頼をドワンゴ村で受けた直後でした。ですので、ミネア奥様がこちらに来るはずです」
ミネアは、巨人族の血をひき力も強いし、体躯も大きい。来るならかなりの戦力になる。
「わかった。ミネアさんが来るならウチに泊まってもらう方がいいな。入口は狭いが、クマゴローも立てる位にデカいしな」
「わかりました。途中で会うでしょうから、私から伝えておきます」
アレンは、そう言って村を去っていった。
その後、ハンスも家具の修理や作成の為に出かけていき、ゴルザは晩ごはんを作る為に、キンタローの家に向かった。
この場に残ったキンタロー、ニナ、アンリエッタは、とある場所へと歩き出す。
それは、この村の一番奥、闘技場と山脈の間にあるかなり高い丘。
小さいニナや、あまり出歩かないアンリエッタにはキツい丘だったが2人のペースに合わせて頂上へと到着した。
少し休憩をした後、アンリエッタは家から持って来た画材を使い絵を書き出した。
その丘の頂上からは、キタ村が一望出来る。キンタローは、絵の上手いアンリエッタに村のスケッチを頼んでいた。
「キンタロー、この絵はどうするの?」
「ん? ああ、防犯だよ」
アンリエッタは、書き続けながらも首を傾げる。
「はわ、絵が何の役に立つの?」
「見たらわかるけど、キタ村は正面の街道の入口に門がある。ところが、正面以外には柵があるだけだろ? あれじゃ、意味がない。かといって全部を門みたいなもので囲うのは、時間もお金もかかる。
例えば、あそこ。田畑が見えるだろ? 朝や昼は人がいるが、夜になると人がいなくなる。だから、見張りは夜がメインでいい。
あっちは盛り場だ。夜に人が集まるが、昼間と違い、人の顔も見にくいあの辺りは要注意だ。外から入れないようにする必要がある。こういう事を把握するには、正確な地図が必要なんだよ、アン」
「はわわ! 頑張る」
「頼んだよ、アン……って、ニナ?」
ニナは、丘の上から遥か向こうをずっと見ている。
「キン……とと……かも」
「え? ニナ、何か言ったか?」
キンタローが聞き直すも、ニナは遥か向こうをずっと見ていた。
◇◇◇
日が傾き、キンタロー達は早めに丘から村へ降りていく。
寝てしまったニナを背負うキンタローとアンリエッタは、その足でジャンの店に向かった。
「え? 料理人と目のいい人と夜目が効く人を紹介ですか?」
ジャンの店についた早々キンタローは、用件を話した。
「はい、それは大丈夫ですが。料理人はキンタローの家で働くって事ですよね。今、ゴルザさんがプギーさん達に教えているのでは?」
「上手く出来るかわからないし、何か変な物盛られそうだし。というか、なんでもう知ってる? ストーカー?」
「スト……? よくわかりませんが、何か良からぬ事を言われたのはわかります」
ジャンの情報網の広さ故か、つい3時間前に決まった事を知っている事にキンタローはジト目でジャンをストーカー認定していた。
「料理人は、わかりました。後日で良いのであれば紹介出来ます。それで、後の2人は?」
「闘技場の奥に丘があるだろ? あそこに物見台か物見小屋を作ろうと思ってな。あそこからだと村が一望出来て丁度いい」
「なるほど、防犯にですね。それなら、鷹の獣人タカさん一家と、フクロウの獣人ロクローさん一家を紹介しましょう。ロクローさんの家は、近くですから会っていきますか?」
「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
ジャンに案内され、ロクロー一家に行ったキンタロー達は、首が180度回ったオジサンに驚かされる。
それは、最早ただのホラーだった。
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