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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第5章 栗鼠と赤い髪と黒き竜
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53 二人いる!


何かが二人いる!ってお話。


 真っ赤な髪の少女フラムは、ハンスからキンタローが奴隷にされて、キタ村に連れていかれたと知らせを受けて、大慌てで、アレンと共に馬を駆りドワンゴ村を出ていった。


 ほとんど飲まず食わずで馬を飛ばし、ナギ村の知り合いに新たに馬を借りて、キタ村へと到着する。

 まずは、知り合いでもお得意先でもある《しまりす亭》へと向かい、顔役のゴルザに話を聞くことにした。


 しまりす亭の食堂には、酒を飲み過ぎベロンベロンの状態でハンスがおり、ゴルザとハンスに話を聞く。

 ゴルザは、キンタローとフラムの関係を考え順序立てて話すが、酔ったハンスがアンリエッタの事を話してしまい、フラムは食堂で泣きながら暴れた。


 散々暴れたフラムは、ゴルザにキンタローの居場所を聞いてハンスを引きずるアレンと共に、服屋の店でキンタローを見つけた。





◇◇◇

「ふ、フラム……」


 フラムの顔は、怒ってはいる。

 しかし、その目は潤んでおり、頬には涙の流れた跡が見て取れた。


 キンタローが、側に寄っていくと、とうとう耐えきれずに泣き出してキンタローの胸をポカポカと殴りだす。


「うぅ……なんでよぅ……心配して飛んで来たのにぃ……」


 キンタローは黙ってポカポカと殴られる。


「ぐすっ……奴隷にされたと……思ったら……あんなかわいい子と……」


 キンタローは「ふぐっ!」とだけ発してボカボカと殴られる。


「うぅ~……キンタローの……キンタローの……バカあぁぁぁぁ!!!!」


 フラムは、両腕を前にたたみ、足を大きく開くと、重い金槌を振るい続けてきた後背筋から繰り出されるは、ソーラー・プレキサス・ブロー。つまりは鳩尾打ちである。


「──かはっ!!」


 肺の中の空気が押し出され呼吸が苦しくなり、そのままずるずると、地面へ倒れこむ。


 キンタローが倒れるのを見たクマゴローが目を見開き中の空気を一気に変える。しかし、アンリエッタがクマゴローより前に一歩踏み出す。


「はわ……フラムさん! ちょっと待って下さい! あの……アンとお話しませんか! その……2人で!!」


 キッと睨み付けるフラムに、怯えて尻尾を胸元で抱き締めるアンリエッタだが、顔は隠さずフラムを見続けていた。


「……いいわ。どこで、話すの?」

「はわ! アンの部屋なら誰も来ないので」

「わかったわ。行きましょう」


 フラムは、踵を返し歩きだし、アレンとアンリエッタも付いていく。その後に続くようにクマゴロー達も《しまりす亭》へ向かう。


「おーい……ハンスはともかくオレも置いてくなー」


 服屋の前には倒れたキンタローとハンスが残される。


 視界から見えなくなると、クマゴローが二足で走っ戻って来た。


『すまねぇ! 本気で忘れてた!』

『おい!!』


 クマゴローは、キンタローを脇に抱えて、来た道を戻っていった。


「やっぱり、そのままですか……」


 ハンスの頬に一筋の涙がこぼれた。





◇◇◇

 しまりす亭へと戻って来たキンタロー達は、食堂を見てギョッとする。

 テーブルやら椅子、食器類が散乱していた。


 ゴルザは、1人片付けていたが、フラムを見つけ、ビクッと身体を揺らす。しかし、フラムは食堂に目もくれず、アンリエッタと3階に上がっていった。


 キンタローは、ただ2人の背中を見るしかなかった。


 アンリエッタに連れられ、フラムは部屋へと入ると、そのまま、アンリエッタ用の小さめのベッドへ腰をかけた。


「それで? 話って何かしら?」


 アンリエッタは、その場で立ち尽くしていたが勇気を振り絞り話を切り出した。


「はわ! フラムさんは、その────」




◇◇◇

 食堂は、キンタロー達の手伝いもあって、だいぶ片付いて、全員座って話が終わるのを待っていた。


 フラムとアンリエッタの話は聞こえないが、いつの間にか戻って来ていたハンスを含め、全員が静かに見守っている。2人が部屋に入って1時間ほど経とうとしていた。


 あまりの静けさに耐えられず、ミカンが口を開きそうになると、キンタローが口を塞ぐ。

 同じく、ハンスが口を開きそうになると、アレンとゴルザが締め落とした。


 ガチャ


 静か過ぎて、3階の扉の開く音が聞こえた。


 気を失っているハンス以外全員が、階段を見守る。


 ゴクリ


 緊張のあまりキンタローが唾を飲み込む音まで聞こえる。


「あはははは」

「はわ! 笑わないで」


 2人の声が聞こえ、キンタローとハンス以外の全員がホッと胸をなで下ろす。

 キンタローだけは、勝手な話だが、2人を失うことを一番恐れていた。


 談笑しながら、食堂へ入ってきたフラムはキンタローを見つけると、話を止めて、腕組みをしながら近づく。

 キンタローも立ち上がり、お互い顔を見合わせる。

 フラムは、1つ大きく息を吐いて話始める。


「ふーっ……アンちゃんを、迎え入れるのを受け入れるわ。残念だけど……いえ、残念とは違うわね。今回はアンちゃんに負けたわ」


 フラムの話を聞いたゴルザとアレンは喜んだ。


「でも! 今回は特別よ! アンちゃんだから受け入れたの。他じゃそうはいかないんだから!」

「負けたって……何の話をしたんだよ?」

「ふふ……それは2人の秘密よ。ね、アンちゃん」

「はわ! そうです。秘密です。ね、フラム姉さん」

「ね、姉さん!?」


 キンタローは、想像以上に仲良くなっている2人に一体何があったのか気になってしかたなかった。


 フラムがキンタローの左腕に抱きつくと、アンリエッタも右腕に抱きつく。


「本当に今回だけだからね?」


 そう言ってフラムは、ニコッと微笑んだ背後には、あの般若がいる。


「はわ! フラム姉さん泣かしたら、アンも怒りますから」


 そう言ってアンリエッタも、ニコッと微笑んだ背後には、新しい般若がいた。


  

いつもありがとうございます。


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