53 二人いる!
何かが二人いる!ってお話。
真っ赤な髪の少女フラムは、ハンスからキンタローが奴隷にされて、キタ村に連れていかれたと知らせを受けて、大慌てで、アレンと共に馬を駆りドワンゴ村を出ていった。
ほとんど飲まず食わずで馬を飛ばし、ナギ村の知り合いに新たに馬を借りて、キタ村へと到着する。
まずは、知り合いでもお得意先でもある《しまりす亭》へと向かい、顔役のゴルザに話を聞くことにした。
しまりす亭の食堂には、酒を飲み過ぎベロンベロンの状態でハンスがおり、ゴルザとハンスに話を聞く。
ゴルザは、キンタローとフラムの関係を考え順序立てて話すが、酔ったハンスがアンリエッタの事を話してしまい、フラムは食堂で泣きながら暴れた。
散々暴れたフラムは、ゴルザにキンタローの居場所を聞いてハンスを引きずるアレンと共に、服屋の店でキンタローを見つけた。
◇◇◇
「ふ、フラム……」
フラムの顔は、怒ってはいる。
しかし、その目は潤んでおり、頬には涙の流れた跡が見て取れた。
キンタローが、側に寄っていくと、とうとう耐えきれずに泣き出してキンタローの胸をポカポカと殴りだす。
「うぅ……なんでよぅ……心配して飛んで来たのにぃ……」
キンタローは黙ってポカポカと殴られる。
「ぐすっ……奴隷にされたと……思ったら……あんなかわいい子と……」
キンタローは「ふぐっ!」とだけ発してボカボカと殴られる。
「うぅ~……キンタローの……キンタローの……バカあぁぁぁぁ!!!!」
フラムは、両腕を前にたたみ、足を大きく開くと、重い金槌を振るい続けてきた後背筋から繰り出されるは、ソーラー・プレキサス・ブロー。つまりは鳩尾打ちである。
「──かはっ!!」
肺の中の空気が押し出され呼吸が苦しくなり、そのままずるずると、地面へ倒れこむ。
キンタローが倒れるのを見たクマゴローが目を見開き中の空気を一気に変える。しかし、アンリエッタがクマゴローより前に一歩踏み出す。
「はわ……フラムさん! ちょっと待って下さい! あの……アンとお話しませんか! その……2人で!!」
キッと睨み付けるフラムに、怯えて尻尾を胸元で抱き締めるアンリエッタだが、顔は隠さずフラムを見続けていた。
「……いいわ。どこで、話すの?」
「はわ! アンの部屋なら誰も来ないので」
「わかったわ。行きましょう」
フラムは、踵を返し歩きだし、アレンとアンリエッタも付いていく。その後に続くようにクマゴロー達も《しまりす亭》へ向かう。
「おーい……ハンスはともかくオレも置いてくなー」
服屋の前には倒れたキンタローとハンスが残される。
視界から見えなくなると、クマゴローが二足で走っ戻って来た。
『すまねぇ! 本気で忘れてた!』
『おい!!』
クマゴローは、キンタローを脇に抱えて、来た道を戻っていった。
「やっぱり、そのままですか……」
ハンスの頬に一筋の涙がこぼれた。
◇◇◇
しまりす亭へと戻って来たキンタロー達は、食堂を見てギョッとする。
テーブルやら椅子、食器類が散乱していた。
ゴルザは、1人片付けていたが、フラムを見つけ、ビクッと身体を揺らす。しかし、フラムは食堂に目もくれず、アンリエッタと3階に上がっていった。
キンタローは、ただ2人の背中を見るしかなかった。
アンリエッタに連れられ、フラムは部屋へと入ると、そのまま、アンリエッタ用の小さめのベッドへ腰をかけた。
「それで? 話って何かしら?」
アンリエッタは、その場で立ち尽くしていたが勇気を振り絞り話を切り出した。
「はわ! フラムさんは、その────」
◇◇◇
食堂は、キンタロー達の手伝いもあって、だいぶ片付いて、全員座って話が終わるのを待っていた。
フラムとアンリエッタの話は聞こえないが、いつの間にか戻って来ていたハンスを含め、全員が静かに見守っている。2人が部屋に入って1時間ほど経とうとしていた。
あまりの静けさに耐えられず、ミカンが口を開きそうになると、キンタローが口を塞ぐ。
同じく、ハンスが口を開きそうになると、アレンとゴルザが締め落とした。
ガチャ
静か過ぎて、3階の扉の開く音が聞こえた。
気を失っているハンス以外全員が、階段を見守る。
ゴクリ
緊張のあまりキンタローが唾を飲み込む音まで聞こえる。
「あはははは」
「はわ! 笑わないで」
2人の声が聞こえ、キンタローとハンス以外の全員がホッと胸をなで下ろす。
キンタローだけは、勝手な話だが、2人を失うことを一番恐れていた。
談笑しながら、食堂へ入ってきたフラムはキンタローを見つけると、話を止めて、腕組みをしながら近づく。
キンタローも立ち上がり、お互い顔を見合わせる。
フラムは、1つ大きく息を吐いて話始める。
「ふーっ……アンちゃんを、迎え入れるのを受け入れるわ。残念だけど……いえ、残念とは違うわね。今回はアンちゃんに負けたわ」
フラムの話を聞いたゴルザとアレンは喜んだ。
「でも! 今回は特別よ! アンちゃんだから受け入れたの。他じゃそうはいかないんだから!」
「負けたって……何の話をしたんだよ?」
「ふふ……それは2人の秘密よ。ね、アンちゃん」
「はわ! そうです。秘密です。ね、フラム姉さん」
「ね、姉さん!?」
キンタローは、想像以上に仲良くなっている2人に一体何があったのか気になってしかたなかった。
フラムがキンタローの左腕に抱きつくと、アンリエッタも右腕に抱きつく。
「本当に今回だけだからね?」
そう言ってフラムは、ニコッと微笑んだ背後には、あの般若がいる。
「はわ! フラム姉さん泣かしたら、アンも怒りますから」
そう言ってアンリエッタも、ニコッと微笑んだ背後には、新しい般若がいた。
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