52 鳥の丸焼き頼んだら、出てきたのは豚の丸焼き
丸焼きってお話
キンタローは、プギーの母親の名前を知らなかった。
「キンタロー様。この人の名前は『チキンバード=オーガ』です。ブヒ」
キンタローは、耳を疑い聞き直してみる。
「……何だって?」
「『チキンバード』です。あ、でも父はもう居ないので母方の姓なら『チキンバード=マールヤキ』です。ブヒ」
頭が痛くなってきたキンタロー。そして、キレた。
「あぁ~! もう、何なの獣人ってぇ!? なんで、鳥ぃ? 豚じゃないのぉ!?」
「キンタロー様。彼女は豚の獣人です。ブヒ」
「そんなの知ってるよ! というか見たら一目瞭然だからね!? 大体丸焼きって、鳥の丸焼き頼んだら、豚の丸焼きが出てきましたぁ! ってなるからね! ハッ! ピッグが婿入りしてたら、豚の丸焼きだよ。ってどうでもいいわあぁ!!」
スパン! キンタローは、椅子から立ち上がりムチを地面に叩きつけ、チキンバードを指差し叫んだ。
「いいか!? もう逃げるなよ! 娘の為に側に居てやれ! プギーは、まだ12だぞ! それと、プギー! どうして、地面を睨み付けてる!? 何に嫉妬してる! おかしいだろ!!」
そういうと、キンタローはそそくさと地下室から出ていった。
チキンバードはプギーに縄を外してもらうと泣きながら謝った。
しかし、プギーに言われた言葉にショックを受ける。
「プギーではありません。女中長と呼びなさい。豚やろう。ブヒ」
娘を想って泣いているのか、娘の変わりように泣いているのか、チキンバードの心中は複雑だった。
◇◇◇
地下室から出てきたキンタローは、今起きて来たハンスとバッタリと会い、しまりす亭へと朝ごはんに誘った。
クマゴロー達も、キンタローと共にしまりす亭に向かい中に入ると、いつもの“アンちゃん親衛隊”がおらず静かだった。
「アン、いつもの5人はどうした?」
「はわ! さっき全員集まったら『きんくま対策を練るぞー』って帰ったよ」
(きんくま? きん……くま……? キンタローとクマゴローか!? なるほどな……でも、おっちゃん忘れてないか? あの5人)
キンタローは、内心呆れながらも「くくく……」と笑っていた。
「はわ! あのキンタロー。お父さんが居れば、アンいつでも出掛けていいって」
「そうなのか? せっかくだし今から行くか?」
「はわ!」
アンは「着替えて来る」と言って、嬉しそうに3階へと上がっていった。
◇◇◇
「キンタロー、お待たせ」
アンリエッタは、白いワンピースに淡いピンクのカーディガンを着ていた。
「お店じゃ白い服って着れないから……どうかな?」
「よく、似合ってるよ」
アンリエッタは、頬を染めて大きな尻尾を胸元で抱きしめ顔を隠した。
「それじゃ行こうか?」
キンタローが、手を差し出すとアンリエッタは恥ずかしがりながらも、手を繋ぐ。
ミカンはキンタローの懐に入り、クマゴローはニナを乗せた。
「あれ? ハンスは来ないのか?」
「行くわけないじゃないですか。嫌がらせですか?」
「そうだけど」
「キンタローさん、あんた鬼だ」
ハンスは、お酒を注文すると、泣きながら一気に飲み干した。
◇◇◇
アンリエッタと村の中を散策していると、以前外出も大変だと言うのが良くわかった。
村の人が、老若男女問わずひっきりなしに声をかけてくる。しかも、アンリエッタの名前が出る度に人が増えていく。ただ、今回はキンタローと一緒だからか、後ろにクマゴローがいるからかわからないが、声こそかけるが寄っては来ない。
「はわわ! すごいです。歩けます!」
アンリエッタの話だと、周りに人が集まって歩けないとの事だった。
「でも……はわ! ごめんなさい……」
アンリエッタが謝る理由は、キンタローへのやっかみが所々で聞こえるからだ。
「アンが気にする必要はないよ」
そう耳元で囁いてやると、アンリエッタは真っ赤になり、村の特に若い男連中も、怒りでなのか真っ赤になる。しかし、1人の老婆が誰も近づかないキンタロー達に近寄ってくる。
「アンちゃん、いい人見つけたんだねぇ。おめでとう」
そう言って、キンタロー達の元を去っていく。
老婆の言葉を聞いて村人の中には祝福の声が聞こえだす。
「アンちゃん、良かったね」
キツネ顔の獣人の女性が声をかける。
「アンリエッタ、幸せにな!」
鳥の獣人のアンリエッタと同じ年くらいの男の子が声をかける。
「坊主、アンちゃんを泣かすんじゃないぞ!」
男の子の隣にいる、頭のハゲた鳥の獣人の男性が声をかける。
「誰が坊主だ!! 坊主はお前の方だろうが!!」
キンタローの言葉で、村中が静まりかえった。
気まずい空気になり、当初の目的通りニナの服選びに服屋へと入っていく。
ニナとアンリエッタが、取っ替え引っ替え服を選んでいる。キンタローは、ファッションには無頓着だが、ゴルザやピッグの服があるくらいだからと、クマゴローの服を探していた。
「キンタロー、これどうかな?」
ニナは試着を終えて、キンタローに見せにくる。
それは、赤い服というより、真っ赤なワンピースのドレス。
「うん、ニナだと1日で破るな」
「はわ! キンタロー、そうじゃなくて」
「うん、ニナだと1日でクマゴローの毛だらけたな」
「だから、そうじゃなくて……」
アンリエッタは、ガックリ肩を落としたがキンタローには何の事かさっぱりわからなかった。
──ゾクリ──
キンタローの背中に寒気が走る。
「こ、これは……」
キンタローは、嫌な予感がして背後を素早く振り向く。
そこには、店の前で腕を組み仁王立ちする赤い髪の少女と、その足元にはボロボロのハンスがいた。
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