51 あれ? なんでピカピカなの?
ムチの取り扱いが難しいっておはなし。
夜の営業時間も終えた《しまりす亭》。
その食堂には、ゴルザとアンリエッタそしてキンタロー達とハンスとプギーがいた。
しばらく固まったままだったゴルザだったが、立ち直った後、食堂を再開しだす。
アンリエッタが元に戻った事で、客達も明るくなり活気づいた。
キンタロー達は、プギーも呼び《しまりす亭》で晩ごはんを食べて、閉店すると片付けを手伝い、今は談笑している。
「え!? それじゃキンタローさん、このアンリエッタちゃんとも婚約って事ですか?」
ハンスに、この村であった事を話した。
てっきり、笑い飛ばしたり、からかったりするかと思われたが、ハンスは神妙な面持ちになる。
「キンタローさん。オレはお嬢が生まれた時からしっています。オレは結婚はしていないですが、お嬢を娘の様に、いえ、ラウザ工房の全員がそうです。だから、いくら何でも今回の事は酷すぎます。お嬢を捨てるなんて……」
スパン! 空気の乾いた音が食堂に響く。音の正体は、こっちに慌てて持って来ていたムチの音だった。
「ハンス、オレは一度もフラムを捨てるなんて言ってないぞ」
「……言ってなかったですか?」
「言ってない」
「ははは」と笑って誤魔化すハンスに、スパン! とムチが飛ぶ。
(便利だな、このムチ。いや、やっぱり止めよう)
さっきから、ムチが振るわれる度にプギーがハンスに向かって悔しそうな顔を見せている。
「フラムが第1婦人、アンが第2婦人。2人に差をつけるつもりは全くないよ。フラムとアンには仲良くしてもらいたいし」
「はわ! 頑張ります」
「そうですね。おそらくフラムお嬢、近々ここに来ますし」
ハンスの言葉に、キンタローは驚く。そういえばハンスは、この村に来る前にフラムに知らせを出している。フラムなら、すぐにでも駆けつけるに違いなかった。
「ハンス……どうしよう……何言えば、丸くすむかな?」
珍しく動揺しており、思わずハンスに助けを求めてしまう。
「ははは……キンタローさん、ご冗談を。そんなのわかっていたら、このハンス、とっくに結婚してますよ」
「あ、それもそうだな」
ハンスは泣いた。
◇◇◇
しまりす亭から家へと戻ると、キンタローは2階に作った自室の新しいベッドに横になる。
キンタローの家は、3階にプギーを皮切りに、これから雇う必要がある使用人の部屋が、2階はキンタローの自室を含むプライベートな部屋が、1階はリビングと広いからとの理由で、ちょっとした会議室が作られていた。
もちろん、キンタローの自室にはクマゴローもミカンもそしてニナまでいる。ハンスは3階の1つに、プギーは自室まで付いてきたが、追い出した。
『どうした? キンタロー?』
不安気な表情をひた隠しにはしていたが、クマゴローに見抜かれる。
『いや、また大事なものが増えたなって思ってな』
プギーはもちろんのこと、すぐに捕まるだろうと思っているプギーの母親。そして、新たに顔役となったこの村の人達。
キンタローは、元々17歳だからか、現在10歳にしては当たりはキツい。口調も荒い。
しかし、絶対に手放さないモノがある事をクマゴローは知っている。
クマゴローは、生来面倒見が良く兄貴肌だ。今日も絶対に手放さないモノの側で、寄り添いながら眠りについた。
絶対にキンタローを守ると心に誓って。
◇◇◇
「なぁ、プギー」
「なんでしょう、キンタロー様。ブヒ」
「何でオレは、こんなところで座っている?」
「それはここが、一番逃げずらい所だからです。ブヒ」
「確かにな。でも、ここは処分するように話していたのだが?」
「はい。伺っております。ブヒ」
「何故かわかっているよな?」
「はい。それはここが、父が使っていた拷問部屋と体の調教部屋だからです。ブヒ」
「じゃあさ! なんでこんなにピカピカなの!? 処分しろとは言ったが、誰が掃除しろって言ったの!?」
今キンタローは、地下室で椅子に座っている。
部屋の中には、拷問──というよりプギーの言う通りの道具が綺麗に磨かれている。
その入口前で椅子に座っているキンタロー、その横で立っているプギー、キンタローの前にぐるぐる巻きにされたプギーの母親が座っていた。
プギーの母親は、そんなやり取りを娘としているキンタローを睨み付ける。
スパン! 乾いた音が部屋に響く。
「キンタロー様を睨むな、この豚やろう! ブヒ」
プギーの手には、何故か没収したはずのムチがある。恐らくはこの部屋から持ちだしたのだろう。ここはそういう場所だった。
「プギー、ムチを渡せ。それから豚やろう言うな」
キンタローがムチを取り上げると、プギーは頬を染め満面の笑みを浮かべる。
「いや、あとで捨てるから。それとオレの言葉にもいちいち反応するな」
キンタローの言葉にガックリ肩を落とすと、母親を睨み付ける。
「だから、叩かないって」
キンタローは、改めてプギーの母親を見ると、流石に娘の言葉に傷ついた様子だ。
「さてと………………プギー」
「はい。なんでしょう? ブヒ」
「………………お前の母親の名前なんだっけ?」
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