50 キンタローとハンス~愛の放置プレイ~
BLでも、SMでも無いよっておはなし。
「あれ? そう言えばプギーの母親を見かけないけど、おっちゃん」
「オレは……無視……です……か?」
ハンスに足首を掴まれたままのキンタローが、家の中を見回しプギーの母親が居ない事をゴルザに尋ねると、ゴルザは頭を横に振った。
「逃げた。今、衛兵に探さしてる」
「逃げたぁ!? 娘を置いて!?」
「キンタロー様。あの人を探す必要ありません。ブヒ」
「もう……無視は……やめて……」
ゴルザと、ハンスに太股にしがみつかれているキンタローの話を聞いてなのか、奥からプギーが戻ってくる。
プギーの言葉を聞いた既に半べそのハンスを引きずりながらキンタローは、プギーに詰め寄った。
「いいか、プギー。ピッグをお前から奪ったオレが言うのもおかしいが、家族って言うのは、いつかは失うし、新たに自分が家族を作る事も出来る。だがな、一度手放してしまうと、再び取り戻すのは困難なんだ。だからそう言う言い方はダメだよ」
「……すいませんでした。ブヒ」
「そろそろ……構って……ぐすっ」
ハンスに腰に抱きつかれているキンタローは、真剣な表情でプギーを説得し、プギーも受け入れたようで大人しく頭を下げた。
「本当に! もう! いい加減、構って下さい!! キンタローさん!!」
ハンスがキンタローから離れ、立ち上がり怒りだす。
「……おっちゃん、プギーの母親の事はオレが説得するから」
「2人は、お前のモノだ。お前がいいなら、オレからは何も言わんよ」
「おっちゃん! 言い方!! 人聞き悪い!」
「ぐす……ぐす……まだ続けるのですね? オレ、本当に泣きますよ……ぐす」
ハンスは、玄関の片隅で縮こまり、とうとう泣き出した。
◇◇◇
「で、ハンスは何でここにいる?」
「いいんですよ……どうせ……オレなんて……」
キンタローは、飽きてきたのでハンスに質問をしたが、すっかりいじけて話そうとしない。
どうしたものかと考えていると、突然ハンスが声にならない悲鳴をあげる。
「な、何するんですかぁ!?」
「いいから、話なさい。キンタロー様に失礼でしょ。ブヒ」
いつの間にか、手にムチを持ったプギーがハンスの側にいる。
そして再び、スパン! と乾いた音と共にハンスが悲鳴をあげた。
「おっちゃん、何故持ってる?」
初めて会った時からムチを持ってはいたが、その時は御者をしていたからだと思っていた。不思議に思い、ゴルザに聞いてみた。
「いや、俺も最初取り上げようと思ったんだがな。プギーが『これは、ご主人様に叩かれる為のものです!!』って力説するからいいかと思って」
「良くないよ!? 取り上げようよ! そこは!!」
またムチを振るおうとしたプギーを止める。
「プギー、ムチをよこせ」
キンタローの命令に嫌がるかと思いきや、嬉々としてプギーはムチを渡す。
「準備してきます。ブヒ」
そう言って、キンタローの横を通り過ぎようとするのを、咄嗟に服を掴み止める。
「準備ってなんだ!? 準備って!?」
「服が破れるといけないので、脱いできます。ブヒ」
「待て待て待て。別にプギーを叩く為に渡せって言ったわけじゃないから」
一瞬残念な顔を浮かべたプギーは、ハンスをキッと睨み付ける。
「いや、ハンスも叩かないからな」
◇◇◇
ハンスも何とか立ち直り、キンタローにここに来た事情を話始めた。
「それで、ナギ村に元々用事があって訪ねたんですよ。そしたら、ニワトリの商人の捕物がありまして、何があったのか聞いて回ったら、黒髪の少年が奴隷としてキタ村に連れて行かれたって聞いたんです」
「オンドリの事だな」
「はい。目撃者も数人はいたみたいで、連れて行かれた少年が『やっぱり、オンドリで合ってるじゃねえかあぁぁぁぁぁ!!!!』って言ってたらしく、これは、キンタローさんだ! って気づいたんです」
「黒髪で気づけ」
その後ハンスは、フラムに知らせを送ったあとにキタ村へキンタローを探しに来てくれたみたいだった。
「さっきやっと、この村に着いたら、門は壊れてるわ、決闘裁判でピッグさんが負けてるわ、挙げ句にピッグさんの財産全て奪ったて聞いたんです」
「人聞き悪いな、奪ってないわ!」
「だけど、ピッグさんの家がわからないので宿を取るついでに《しまりす亭》に行ったら、この場所はわかったんですが、まぁ暗いの何の。客も、いつもの受付の子もまるでお通夜かと思いましたよ」
「「あっ!!」」
ハンスの話を聞いて、しまりす亭の事を失念していたキンタローとゴルザは慌てて走りだし、クマゴロー達やハンスもついて行った。
キンタロー達が、しまりす亭に戻ると周りの建物は外が暗くなって来た為、明かりが煌々と付いてあるのに、しまりす亭の建物は、真っ暗だった。
「アンリエッタ、今帰ったぞ!」
ゴルザが、勢いよく扉を開け中に入ると宿の受付で、しくしくと泣いているアンリエッタ。そのアンリエッタに影響してか、無言で真っ暗な中にいる食堂の客達。
開いた扉の音に、顔を向けたアンリエッタは、目を輝かせ笑顔に変わる。
「遅くなって、すまん! アンリエッタ!」
「キンタロー、どうしたの? 会いに来てくれたの?」
アンリエッタは、抱きつこうとしたゴルザの脇をすり抜け、キンタローに抱きつく。
その場で、固まって全く動かないゴルザにキンタローは、黙って手を合わせた。
ご愁傷様──
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