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5  迷子の迷子の妖精ちゃん、あなたのおうちはすぐそこ


怖い怖い、迷子の話


 八雲は、現在3兄弟と共に果物と木の実を採りに来ていた。

 とはいえ、皆成長したとしてもまだまだ子供で、遊ぶ事が目的、採取は二の次だ。

 いつもの川で水浴びと水筒に水を補充し、川を遡ったところにある湖を目指していた。

 

 はぁ…… はぁ…… はぁ…… 

 八雲は森の茂みを掻き分けながら走る走る。


『見つけた!!!!』


 そう言いながら突然八雲の目の前の茂みから兄貴肌の兄弟が現れ、八雲を捕まえようと掴みかかる。


『なんの!!』


 八雲は走ってきた勢いを止めず、頭を低くし兄弟の腕を掻い潜る。

 そのまま足元の茂みに突っ込み、兄弟の股の間をくぐり抜けた。


『ッ!!』


 腕を少し切ってしまったが、それどころではない。


『もらったぁ~~~!!』


 もう1頭の兄弟が八雲目掛けて飛び込んできた。正確に。八雲の手をピンポイントで狙って。

 八雲は自分の手に対する執着に、背筋がゾワッとし、手をサッと後ろに隠した勢いで、体を捻って回避する。


『ぼくの勝ち~~~』


 ドスンッ!!!!


 最後まで木の上で隠れていた兄弟が、八雲の上に落ちてきた。

 最近ずっとやっている遊びだ。

 八雲を捕まえた兄弟がその日一緒に寝るという決まりである。

 今日捕まった兄弟は寝相が悪い為、背中の上でならと提案し、渋々了解してくれた。

 

 その日の夜、八雲は壁と逆立ち状態の兄弟に挟まれて朝を迎えることになるとは、まだ知らない。


『あっ、怪我してるじゃないか』


 八雲の腕には先ほど茂みで切った傷から血がツーッと流れていた。


『舐めれば治るよ』


 自分の顔を傷に近づけると、手で押さえられ止められる。


『ハァハァ…ワ、ワタシが舐めてあげる』


 目を大きく見開き、鼻息とヨダレが凄い顔を近づけられ、八雲はこの上ない恐怖を感じる。

 鼻息荒く傷に近づく顔と首を兄弟2頭が止めて、八雲から引き離していく。


『ど、どうして~~~?』

『『最近、何か怖いんだよ。お前は』』


 八雲は首を縦に振り激しく肯定した。



 八雲達は一通り果物や木の実を採り終えると、休憩していた。

 うつらうつらと微睡んでいると、前方の木々の間を何かが横切るのが見える。


(虫……? にしちゃデカイな……)


 八雲はそーっと近づき、また目の前を何かが横切る。

 茂みに隠れて良く見ると、パタパタと羽を動かす小さな女の子がいた。


 女の子はオレンジの長い髪を一つの三つ編みにし、オレンジ色のワンピースに、その背中にはパタパタと二枚の羽がついている。


(妖精だ!)


 ポンッと肩を叩かれるといつの間にか兄弟達も同じように妖精を見ていた。


『初めて見たな』


 3頭と1人は茂みに隠れて妖精を観察する事にした。


 妖精はパタパタと羽ばたきながら少し進むと、空中で立ち止まり辺りを見渡す。

 すると、再び木々の間をパタパタと進みだす。

 しばらくするとまた、八雲達の前方を横切る。

 同じ所をぐるぐると廻っているように思えた。


『『『『………………』』』』


 妖精は迷子みたいだった。


『あの~……』


 八雲は思いきって声を掛けると、突然魔獣の言葉で話かけられた妖精は、ビクッと小さな体を震わせ、恐る恐る振り返る。

 そこにはヒト族の少年がいたが、すぐに少年の後ろには3頭のサイレントベアーが座っているのに気付き、妖精は『終わったの~……』と呟き、意識を失ってしまう。

 

 八雲は、咄嗟に受け止め『デジャブだな……』と呟くと、自分が両親に出会った時を思い出していた。



 妖精が目を覚ますと、その眼前には大きな口を開け舌を出しているサイレントベアーの顔がある。

 ビックリして起き上がり、妖精らしからぬ地面をバタバタと逃げるように這いずりまわる。

 近くの八雲の陰に隠れて『美味しくないの~、美味しくないの~』と繰り返し懇願していた。


『『『いや、食うところ少ないし!!』』』

『いや、問題はそこじゃない!』


 八雲からツッコミを頂いた。



 八雲は、3頭は自分の兄弟だから食べたりしない事を説明する。

 『食べないの~?』と八雲の陰から顔を出して聞くと、3頭は仲良く首を縦に振った。


 妖精が迷子になってた事を思い出し、何処に行きたいのか聞いてみた。


 『湖に戻りたいの~。でも、この辺り同じ木ばっかりなの~。きっと迷いの森なの~。3日も迷子なの~』


 湖。

 この辺には、いつも八雲達が遊ぶ川を遡ったところにある湖しかない。

 この妖精がもっと遠くから来たとは到底思えない。

 八雲の歩幅でもゆっくり歩いて10分くらいの距離にある湖に、連れて行く事にした。


『あれ? 何でみんなそんな目で見るの~?』



 妖精を湖に連れて行く10分の間に、この妖精は八雲に喋る喋る。

 『妖精の長老様はとっても物知りなの~』とか『どうして魔獣の言葉を喋れるの~』とか『キミは魔獣なの~?エルフなの~?ドワーフなの~?魔人族なの~?獣人族なの~?』とか、挙げ句に『お腹空いたの~』と言い出す始末。

 八雲がリュックから木の実を取り出そうとすると、妖精はリュックの中を除き『ワタシは木苺が好きなの~』などと要求しだしたので、仕方なく木苺を渡した。



 しばらくすると木々の隙間から湖が見える。

 『湖なの~』と飛び出した妖精を八雲が両手でガッと掴む。

 『へやっ!』と変な声を出しそのまま八雲の頭の上に乗せられた。


(絶対この距離でも迷子になる!)


 八雲の行動に3兄弟もウンウンと頷いた。



『着いたの~ありがとうなの~』


 パタパタと八雲の周りを飛び回り八雲の頬に、チュッとキスをする。

 八雲の頬には木苺の汁がベットリ付いていた。


 すっかり夕方になり、妖精がまた迷子にならないかは心配だったが対岸の花畑を指差して、目印があるから大丈夫だと言う。

 しかし、帰ろうとする途中、八雲は急に立ち止まり妖精の方を振り返る。


『なあ、飛べるんだから木より高く飛べば、湖なんて、すぐに見つけられたんじゃないか?』

『『『あっ』』』


 3兄弟も立ち止まり妖精に目を向ける。

 

『連れてきてくれてありがとうなの~お礼はまた今度するの~』


 妖精は逃げるように、対岸に向かって飛んでいった。



 八雲が妖精と出会った数日後、洞穴の中で父熊の膝の上に八雲は座っている。

 3兄弟は父熊の膝を枕に寝転んでいた。

 母熊は、洞穴からひょっこり顔を出し、ここ2、3日降り続く雨にウンザリしている。

 八雲がちょっと手を伸ばすと届く3兄弟の頭。

 八雲は父熊を見上げるとニヘラと笑い、頭を父熊が優しく撫でてくれる。


 今八雲は幸せだった。


 八雲は幸せを噛みしめ、再び父熊に愛らしい笑顔を向けた。




─ゾクリ─




 八雲は背中に強烈な悪寒を感じる。

 今まで感じた事のない悪寒、いや、以前覚えがある。

 今ではない、そう前の人生で。

 前の人生の節目節目の出来事の直前。


 八雲は冷や汗を滴ながら固まっていた。




 ヒタヒタヒタと背後から迫るような何か……




 洞穴をジッと見つめる視線……




 雨の匂いと音にかき消され、八雲達は気付かない……

 

次回この小説の冒頭部分の佳境になります。


お楽しみに。



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