42 ニナはクマが好きになりました。
ミカンを蜜柑のように投げるってお話。
決闘裁判が終わり、観衆は帰って行く。
「はぁ……まさかこんな結末になるとはのぉ……前代未聞じゃ」
アレキサンダー村長が、ガックリと肩をおとす。
「しかし、これで良かったのかも知れません。少なくとも、キンタローさんは今の奴隷の現状を変えてくれたのかも」
「ジャン殿、お主はずっと奴隷に反対しとったしのぉ」
「全てとは、言ってませんよ。少なくとも犯罪を犯した者への罰や、あまり感心はしませんが借金に対する身売りなどはともかく、今回のような無理矢理奴隷にというのは頂けません」
ジャンは、飄々としながらもアレキサンダーに奴隷の今後について話し合っていた。
そこに、ゴルザがプギーとプギーの母親をしばらく拘束という形で衛兵に引き渡し、アレキサンダー達のところへやってくる。
「ふ~、久々に疲れましたな、村長。とりあえず、坊主や魔人族の嬢ちゃんの首輪を外さなけらばならんですからな。今、衛兵をナギ村にやってオンドリー商会を連れて来させてますが、ま、明後日以降になるでしょうが」
「私の友人の為にすいません。あんな、三文芝居までしてくださって」
「流石に金貨200、いや50でも驚いたが、それもあの嬢ちゃんを手放さなければならない状況を作る為だろ? しっかし、あの坊主ナニモンなんだ。サイレントベアーも懐いているみたいだし」
ゴルザが頭を掻きながら、キンタロー達を見ると裁判中の緊張感が嘘のように和んでいる。ジャンは、そんなゴルザとお疲れ気味のアレキサンダーに、キンタローに関して知っている事を話した。
「なんと、妖精族の庇護をか!? だとすると儂らは、危うく妖精族と敵対する事になってたのか!?」
「敵対、と迄は申しませんが少なくとも今後私達に関わろうとは、しないでしょたいね」
「しかも、ラウザ工房の親方と婚約だと!? 下手すればドワーフとも事を構える羽目になってたぞ! はっ!もしかして剣のつ──いたぁーっ」
ゴルザは突然、ミカンを投げつけられる。
「聞こえてるぞ」
「はっはっは! 耳いいな坊主!」
「おっちゃんの声がでかいんだよ!!」
ゴルザが豪快に笑っていだす、その横でジャンがミカンに話しかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「ぐすっ……最近、扱いがひどいの~」
ミカンは、よろよろと起き上がり、それでもキンタローの方へ飛んでいった。
◇◇◇
「くま…………」
「ああ、クマゴローって言うんだ」
「くま……かわいい……好き」
ニナは、すっかりクマゴローに懐いている。今はクマゴローの頭に顔を乗せ、肩車をしてもらっていた。
「あ~! そこはミカンの場所なの~」
「違う……ニナの……」
ゴルザに投げつけられたミカンが戻って来て、早々ニナに絡みだす。自分の頭の上で、ギャーギャー騒ぐミカンを掴まえると、キンタローの頭の上に乗せた。
『そこが、あるだろうが。特等席だろ?』
ミカンは、ニヘラと頬が緩み頭にしがみつく。その顔が
を見たニナが、クマゴローから這い降りると、キンタローの服を引っ張る。
「キン……ニナも……」
「いや、流石に頭の上は無理だから」
ニナが、キンタローを見上げお願いするも無理だと言われ頬をプクッと膨らますと、クマゴローがニナを抱え、肩車してやった。
『ここで、我慢しろ』
「むぅ……わかった……がまん」
まだ、むくれてはいたが、再びニナは頭の上に顔を乗せた。
(あれ? 今、ニナのやつ、クマゴローと会話出来てなかったか?)
そんな考えが、頭に過るがすぐに忘れてしまう。
ぐうう~~っ
この場にいた全員のお腹が鳴った事で。
◇◇◇
「おーい、坊主!」
「何、おっちゃん?」
「おっ……俺はゴルザだ」
「知ってるけど?」
キンタローを呼び寄せたゴルザは、その不遜な態度に苦笑いするが、すぐに元の表情に戻り背中をバンバン叩いて笑う。
「はっはっは、まぁいい。それより、泊まる所あるのか?」
「は? 奴隷として連れて来られてあるわけ無いだろ?」
「なら、俺の家に来ないか? 俺の家は宿屋なんだ。腹も減ってるだろ? 隣に食堂も併設してるから、そこで食べればいい」
ありがたい話だが、キンタローは疑いにかかる。
「本音は?」
「今、坊主のそして嬢ちゃんの首輪を外す為に、オンドリーを呼びに行かせているが、それはまだ後だ。それにな、オーガ家の財産整理もあるから、それまで嬢ちゃんは村預かりという形を取ることになる」
「なるほど、見張りってわけね……って、オレ、金がない!」
キンタローは、自分の荷物の中にお金が無い事に今気づいた。
「もしかしたら、オンドリーか、オレを拐ったやつが持っていったのかも?」
「わかった、その辺も調べといてやる。金は、ずっとっていう訳にはいかないが、財産整理が終わる位まで宿泊も食事もタダでいい」
「「『お世話になりまーす』」」
キンタローとクマゴローとミカンが直立し、頭を丁寧にさげた。
◇◇◇
「聞いたよ。ジャンにも世話をかけたみたいだな。ありがとう」
「いえいえ、此方も儲けさせてもらいますから問題ないですよ」
「へ? 儲け? 何で?」
「闘技場の入口と村の入口の門の修理を、私の商会が引き受けたのですよ。それをキンタローさんに請求させて──はて? 何かを忘れているような? まぁ些細な事でしょう」
何かを思いだそうとしているジャン他所に、キンタローは、首だけをクマゴローに向ける。
『クマゴロー。門って、何のことかなぁー? 聞いてないけどー』
『あ、いや、その……』
「ああ、キンタローさん。大丈夫ですよ。全ては財産整理が終わってからの話です」
キンタローは、顔に青筋を立ててクマゴローに質問するが、それにジャンが気付き仲裁に入った。
「あ、思い出しました」
ジャンは、そう言いながら手を一つ叩いた。
「ジャン様~~! オラを早く迎えに来てくださ~い!」
衛兵に囲まれた中心でリリが叫んだ。
いつも読んで下さりありがとうございます。
第4章の本編はこれで終わりになります。
次、オマケを入れて第5章 栗鼠と赤い髪と黒き竜 に突入です。
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