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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第4章 ぶたとブタと少女
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40 決闘裁判 第1回 実力行使

第2回は多分ないよ、ってお話


 勝負は、本当にあっという間だった。


 正眼に構えるキンタローに対して、走り出すピッグ。その大きな金槌をキンタローに向かって振り下ろした。


 しかし、キンタローはそれを後方に大きくジャンプしてかわすと、ピッグも一歩踏み出し金槌を力任せに振り回す。

 いつもクマゴローを相手にしているキンタローにとって、横から迫ってくる金槌は余りにも遅かった。


 サイレントベアーの攻撃はもっと速い。もちろん、ケガをしない様に爪を気にして攻撃するが、それでも速い。そんなのを、幼い時から経験している。


 キンタローは、金槌の下を掻い潜ると剣を持ってる両手に力を入れ、横一線、ピッグの太股を斬る──


「ぐわぁああああああっ!!!!」


 ピッグの太股から、血が飛び出る──それも、半端ない量の。

 キンタローの斬撃は、ピッグの太股を半分以上、つまりは骨まで切断していた。


(ええぇぇぇぇ!? リベルにフラムのヤツ、なんてもん作ったんだぁ!!)


 これは、流石に予想しておらず唖然としたが、すぐに表情を戻す。

 ピッグを見て、更にプギーを一瞥(いちべつ)すると、痛みで転がるピッグの首元に立った。


 ゴルザは見た。

 キンタローの黒目が深く深く沈んでいくのを。


「待っ──」


 斬!


 ゴルザの制止は間に合わず、剣を振り下ろしすと、ピッグの首から、激しく血が吹き出る。キンタローはその場から動かず大量の返り血を浴びた。


「「き、きゃあああああー!」」


 プギー、そしてピッグの妻が叫びだし、観衆の女性の悲鳴だけがあちらこちらから聞こえる。まさかの展開に他の観衆は静かになっていた。



「判決! 勝者キンタロー!」


 村長のアレキサンダーが判決を下し、決闘裁判の終わりを告げると、大きな歓声が巻き起こる。


 勝ち名乗りを受けてもニコリともしないキンタローは、やるせない気持ちになっていた。


 例え、どんな悪党でも家族はいる。ピッグには、妻がプギーがいる。家族を失う悲しみは、キンタロー自身よくわかっている。

 しかし、自業自得とはいえ、結果、プギーから父親を奪う事になった。



 キンタローの目に光が戻ってくる。それは、新たなる決意の光。

 クマゴローと2人で生きていく、しかし、邪魔をするならどんな悪党でも、エルフでも、《不運》でも取り除く──例え恨まれたとしても。



「早く! 早くあの子供を殺して!! 夫の仇を討つのよ!」


 歓声に負けない位の怒声で、取り巻きのゴロツキに命令しながら、木の柵から出てくるピッグの妻。

 ゴロツキ達も、各々武器を持って柵から闘技場に入りキンタローに向けて構えた。


「任してくださぁい。後で報酬期待してますぜ!」

「何をしてる! ピッグは決闘を受けた側だ。受けた側の仕返しは認められてないぞ。衛────」


 ゴルザが制止しても、ゴロツキは止まらずキンタローに襲いかかろうとした────その時。


 ドーーーーーーーーン!!!!


 物凄い音が闘技場の門からする。

 観衆も静かになり、ゴルザも村長もピッグの妻もプギーもゴロツキ達も、門に目を向けた。


 ただ、キンタローだけは何の音かは、予想がついている。


 ドーーーーーーーーン!!!!


 2回目の轟音で、門が破壊され、その元凶が姿を現し、全員驚愕する──キンタロー以外は。


「きゃーーーっ!!」


 観衆の1人の悲鳴を皮切りに、二階の観衆は、より奥へより高い所を目指し、一階の観衆は、より奥へ奥へと移動する。唯一の出口に立つサイレントベアーから逃げる為に。



 門を破壊したのは、もちろんクマゴローである。

 牙を剥き出しにして殺気を放ちながら、闘技場に入ってきたクマゴローは、すぐにキンタローを見つけた。


 ブチッ


 切れた。

 全身が血まみれのキンタローを見て、完全に切れるクマゴロー。

 先ほど迄とは比べられない位に目は血走り、全身を震わせ、筋肉が盛り上がり、いつも以上に一回り大きく見える。

 

 ──────────!!!!


 最早、咆哮とは思えない程の雷声(らいせい)をあげ、キンタローすら耳を塞ぐ。

 クマゴローの目に映ったのは、キンタローに向かって武器を向けているゴロツキ達。

 瞬く間に、駆け寄りその豪腕を振るうと紙くずの様に飛んでいく。


(ダメだ!!)

(いかん!!)

 

 キンタロー、そしてゴルザが走り出す。

 ゴロツキ達を、あらかた吹き飛ばしたクマゴローは、柵から出ていたピッグの妻とプギーに目をやる。

 ピッグの妻にクマゴローが豪腕を振るうのとほぼ同時にキンタローは、ピッグの妻を突き飛ばし、ゴルザはプギーに覆い被さり、難を逃れる。

 キンタローは、クマゴローの視線に入るように移動した。


『落ち着け、クマゴロー。これ全部返り血だから。オレ、無傷無傷。むしろ、今クマゴローに傷つけられた位だから』


 キンタローは、ヘラヘラと笑いながら声をかける。その背中には微かに傷がついていた。


 キンタローの声を聞き、だんだんと普段の表情を取り戻し、そして、みるみる青ざめる。


『だ、だ、大丈夫なのか? ほんとに?』


 キンタローが一つ頷くと、クマゴローは抱き締めて泣く。両親が亡くなった時でさえ、声をあげずにいたクマゴローが、大声で泣いている。

 そして、キンタローも泣いていた────




『だ、だ、だ、いだだだだだ! つめー! つめ、ツメ、爪ー!! 爪刺さってるー、つめーーー!!』


 ────痛くて。


 

いつも読んでくれてありがとうございます。

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