39 決闘裁判 第1回 口頭弁論
豚の獣人の奥さんもやっぱり豚の獣人、ってお話。
1時間が経ち、闘技場内は獣人で埋め尽くされていた。
既に大歓声に包まれており、中にはチラホラ女性の獣人もいる。そして、その大半の目がキンタローに注がれている。
「まだ、あんな小さいのに……」「あの子の髪、少数種族か! 久しぶりだな! 獣人以外の決闘裁判は」「あの魔人族の子、可愛い。はぁはぁ嫁にしてぇ」
観衆は、様々な事を言いながら今か今かと待ち焦がれている。その中には、変態も混ざってたのをキンタローは気付き、今言った観衆を探して睨んでおいた。
キンタローは、今は牢から出され、手枷足枷をはずされ入り口から一番奥に衛兵2人といる。ニナもそばに居るが安全を考慮して牢の中で大人しくさせていた。
ピッグは、入り口付近にいて、キンタローとは100m近い距離がある。プギーは、一階の木の柵の内側に恐らく母親らしい女性と更に周りには取り巻きのゴロツキだろう、10人以上と立っていた。
闘技場の真ん中に、2人の獣人がやって来て、キンタローとピッグを手招きして、中央へ呼び寄せる。
そこにいた、獣人2人は杖をついた老人と、かなり大柄な190cmはある男性だった。
「この裁判の裁判官は、儂、キタ村の村長アレキサンダーが務める」
村長は、顔は人族と同じだが頭はハゲており、伸びた白い眉で目が隠れていて、背丈は腰が曲がりキンタローと同じくらいになっている。
(村長、何の獣人だ? といか、名前と姿が合ってないな)
キンタローは、口に出そうになるが抑える。
「俺が、審判兼立ち会い人のゴルザだ。……ピッグ、また勝手な事をしたな」
「ふん。ブヒ」
(いや、この場合ブヒはおかしいだろ!)
キンタローは、また口に出そうになるが我慢する。
ゴルザと言う男は、背丈だけでなく、かたいもいい。ピッグも体格がいいし筋肉質だが、それよりも一回りはおおきい。しかし、キンタローは体つきより顔が気になって仕方がない。
(顔は人族と同じだが、耳からすると恐らく牛の獣人だとは思うのだけど)
キンタローはゴルザの目が丸い黒目しかなくクリッとして可愛らしい。だけどオッサンである。違和感しか感じられなかった。
「さて、始めるか。ん? どうした、坊主? 俺の顔に何か付いているか?」
「(可愛らしい目がね!)ところで素手でやるの?」
「いや、武器も有りだ。ピッグは、あそこにある金槌を使うのだろう」
ゴルザが指差す方向には、大きな金槌がプギーの前に立て掛けられている。
キンタローは質問を続ける。
「じゃあ、オレの剣も使っていいのか?」
ゴルザは、首を横に振る。
「奴隷の所有物は、主人のものになる。ピッグが認めれば別──」
「認めない。ブヒ」
食い気味に答えるピッグに対して、キンタローはここだ! とニヤリと笑う。
「ちょっと待った。それ、おかしくないか? この決闘裁判の結果で、変態ぶ……ピッグが勝てば、オレを奴隷と認めさせる、オレが勝てば、奴隷は無しって事だろ? だったら、今は宙ぶらりんの状態のはず。となると、オレの剣を持つアイツらは、泥棒だ。捕まえないのか? 現行犯だぞ? それとも何か、裁判を遊びとでも思ってるほど獣人は、腐ってるのか? ん? 何か言えよ?」
「な!お前、何を言って──」
「少し、黙れ! ピッグ!!」
今度はゴルザが食い気味にピッグの発言を止める。
「なるほど。坊主の言うことは、真っ当だ。衛兵! あの娘のそばにあるのが坊主の荷物だろ? 取ってこい。抵抗したら、捕まえろ! そして、その時点でピッグも共犯になる。この決闘裁判は、無しだ」
(おっちゃん、ナイス!! 予想以上に物わかりが良かって助かる)
ゴルザは、ピッグに見えない様にキンタローにニヤリと笑った。
「ぬぬぬ……プギー、渡してやれ。ブヒ」
「でも、パパ!」
「あなた!」
「ワシが、こんな小僧に負けるわけないだろ! 問題ない。ブヒ」
プギーは、衛兵にキンタローのナイフ、マント、そして、剣を渡すと、衛兵はキンタローではなく、ゴルザに渡した。
(あれー?)
「心配するな、ちゃんと返す。ただし! この剣が坊主のだと言う証拠があればだ!」
(うそーん)
しかし、ゴルザの言い分も最もで、ここで証明出来なければ、ピッグは間違えたとか、なんとか言って誤魔化すだろう。案の定、ピッグはニヤリと笑う。
証明は出来る。
そう、証明は出来るのだがキンタローは、ハッキリと言いにくい。
後ろめたさとかではなく、恥ずかしさで。
「どうした? 証拠は?」
「あーゴニョゴニョゴニョ」
「ハッキリと喋れ!」
ゴルザの一喝で、観衆のざわめきが止まり、静寂が訪れる。キンタローにとっては、余計なお世話である。
「う~~~~柄に……柄に……”大好き”って装飾があるぅぅぅぅ!!!!」
キンタローの顔は真っ赤になっている。
そして、闘技場は今日一番の笑い声と歓声に包まれた。
「くく……た、確かにあるな。だ──」
「わー! 読むな!! 早く返せ!」
キンタローはゴルザから荷物を受け取り、剣を抜くと他の荷物はニナに渡した。
「他には、何もないな。それじゃあ、始めるぞ。準備はいいか?」
「ふん。吹き飛ばしてやる。ブヒ」
「いつでも」
ピッグは金槌を構えると、キンタローも正眼の構えを取る。
「決闘裁判、開始!!」
「ぐわぁああああああっ!!!!」
勝負はすぐに決着が着いた──
◇◇◇
ちょうどその頃──
「見えました! キタ村です!」
ジャンの馬車とクマゴローは、あれから昼夜問わず走り続けていた。
『はぁはぁはぁ……』
さすがにクマゴローもバテてきたのか息が荒い。
「大丈夫ですか? クマゴローさん?」
しかし、クマゴローはそれに答える余裕がない。
ジャンの呼び掛けが聞こえなかった訳でもない。
ただただ、キンタローを心配し、一分一秒が惜しかった。
「門が閉まってるの~、どうするの~」
門番もクマゴローを見つけると、慌てて門は閉めたが、隣に見覚えのある馬車に戸惑っており、閂を入れるのを忘れた。
『邪魔をするなあぁぁぁーー!!』
クマゴローは、そのまま体当たりし、門を突き破った。
さすがに、ジャンの馬車は通れないので馬車から飛び降りる。
「リリ、あとはお願いします!」
「ジャン様! この状況、オラにどうしろと?」
「さぁ、行きましょう! 私に心当たりがあります」
クマゴローとジャン、そしてミカンは走り出す。
リリは、門番に囲まれジャンに助けを求めるが無視されてしまった。
「きゃああ!」
「うわぁ!サイレントベアー!?」
村中に逃げ惑う人々が悲鳴をあげるが、全て無視してジャンの後を追う。
そして、クマゴロー達が闘技場近くに来た時、中から一際大きな歓声が響きわたった。
いつも読んでくれてありがとうございます。




