38 ドナドナド~ナ~ド~ナ~
キンタロー「オレの歌を聞けええぇぇぇ!!」ってお話。
すっかり日も暮れたが、ジャン達は急いで馬車を走らせる。
クマゴローも速いが、ジャンの馬車は二頭立てで、かなり速い。
それでもクマゴローは、付いていく。
全ては、キンタローの為に……
(キンタロー、オレが行くまで無事でいろよ)
◇◇◇
一方、キンタローの乗せた馬車も速い。
休む気配などなく、ずっと走らせている。
「ドナドナド~ナ~ド~ナ~、キンタロ乗せて~」
「おい」
「ドナドナド~ナ~ド~ナ~、荷馬車が揺れる~」
「おい! 歌うな! ブヒ」
「二番。あーおいそらー、そーよーぐかぜー」
「さらっと二番に入るな! ブヒ」
随分と余裕綽々のキンタロー。
理由は2つある。
1つは、クマゴローの存在。
どんな目に合おうと、クマゴローがいつかは、見つけてくれる。
だったら、自分は耐えてればいい。
耐えて生きてさえいれば、必ず見つけてくれる。
もう1つは、現在の馬車の状況。
特に急ぐ理由も無いのに、休まず馬車を走らせている。
それは、焦りからか何かから逃げているのか。
キンタローには、知るすべはないが、焦りは油断を生み、逃げるのは怖がってる証拠である。
しかし、1つ懸念もある。
それは、今隣にいる少女。
時折、すれ違う馬車や、通行人に手を振る。
これから何をされるなど、わかっていないようだった。
「おい、豚男爵、休憩しないのか?」
「ぶ、豚男爵!? どういう意味だ。ブヒ」
「見たまんま」
この世界に、王国は無い。つまりは、貴族もない。
ピッグは、男爵の意味はわからないが、悪口なのはわかった。
「ふん、今のうち吠えてればいい。休憩しないのは、このまま行けば、早朝には着くだろう。そうすれば、“決闘裁判”させてやる。ブヒ」
「“決闘裁判”?」
「ちょっと、パパ。勝手に決めないでよ。ブヒ」
プギーが、ピッグにつっかかる。
しかし、ピッグは、ニヤリと笑った。
「なに、“決闘裁判”で決着つけば、アイツも何も言えまい。それに、お前から逃げられないように足の1本や2本もいでやろうとおもってな。ブヒ」
「そうね、ありがとうパパ。ブヒ」
(なるほどね、そういう事か)
キンタローは、ピッグの考えを見抜いた。
(要は、誰か知らないが、後からソイツが文句言っても、正式に裁判で決着した事だから、とでも言うつもりだな。おそらく、決闘裁判もオレが不利なんだろうな)
「あーるーはれたーひーるーさがりー」
「おい!」
「「いーちーばーへつづくみちー」」
「ハモるな!」
さっき、歌っていたの覚えたのだろう、隣にいる少女も一緒に歌いだす。
「「ドナドナド~ナ~ド~ナ~、キンタロ乗せて~」」
「「ドナドナド~ナ~ド~ナ~、荷馬車が揺れる~」」
◇◇◇
「そうか、ニナって言うのか」
魔人族の少女はコクリと頷く。
「オレはキンタロー。よろしくな」
「キン……よろしく」
「いや、キンタロー。さっき、歌った時ちゃんと言ったよね?」
「知らない……キン……よろしく」
ピッグをからかうのに、飽きたキンタローは、少女と話をしていた。
ニナは、まだ幼く5、6歳に見える。
おそらく、まだ何もわかってないのかと思ったが、キンタローの腕に抱きつく。
「キン……さっき……ありがと」
「さっき?」
「ムチ……ニナ……守ってくれた」
ニナは、腕に抱きつくのを強め上目遣いで礼を言う。
(可愛いいな~。妹がいたら、こんな感じか)
そう考えた矢先、キンタローは馬車の後方に目を向ける。
いつか見た般若が後方から、追いかけてくるのが見える────気がした。
◇◇◇
キンタローを乗せた馬車は走り続け、既に薄明を迎える。
ニナは、すっかり懐いておりベッタリとキンタローに引っ付いて眠っていた。
キンタローも少し睡眠を取ったが、目を覚ますと少しずつ、気持ちを高め覚悟を決める、迎える決闘のために。
「ようやく、見えてきたな。ブヒ」
ピッグの言葉にキンタローが馬車の進む先に視線をやると、キタ村の入り口が見えた。
すっかり空が白くなった頃、馬車はキタ村の入り口に付く。
キタ村の入り口の門は、ちょっとした木の砦と言っても過言ではない。
他の村とは、明らかに頑丈そうだった。
ピッグが門番二人に何かを渡している。
「何渡したんだ?」
「ふん。あくまで保険さ。ブヒ」
「保険?」
ピッグは、その答えを言わず、門が開くと馬車が入っていく。
キタ村は、今まで見た村で一番の大きさを誇っていた。
門から伸びる中央の道は、馬車が5台は通れる広さがある。
中央の道の途中には、噴水があり広場になっている。
しかし、キンタローが一番気になったのは、一番奥にある建物。
その建物は、他の建物に比べてかなり大きく、入り口の扉は、まるで門の様な大きさで、固く閉ざされている。
「あれが、気になるか? あれが決闘裁判が行われる闘技場だ。ブヒ」
「何? もしかして、怖くなった? さっきまでの威勢はどうしたの? 許して欲しければ、パパに頼んであげてもいいけど?」
「…………お腹空いた」
「ニナ……も」
プギーは、もはや何を言っても、暖簾に腕押しなので黙りこんでしまった。
ピッグが馬車から、闘技場の係と思われる獣人に声をかけると、闘技場の門が開かれる。
馬車ごと闘技場に入ると、正方形の闘技場で、木の柵があるだけの立ち見の一階と、座って見られる二階になっていた。
ピッグは馬車を降り、係の人と話を始めるが、すぐに戻ってくる。
「あと、1時間後に始まる。久しぶりの決闘裁判だけあって、人がかなり集まるだろうな。ブヒ」
「どうでもいいけど、もしオレが勝ったらこの子も解放するのか?」
「はっはっは、お前が勝つなどない。まぁ、ワシが、ほーんのちょっぴり気まぐれで、勝ちを譲ってやったとしてもソイツは別だ。ブヒ」
「チッ! この変態豚伯爵が!」
変態が付いたことで、キッチリ男爵から昇格させてあげる、優しい? キンタローだった。
そして──およそ1時間が経ち、決闘裁判が始まろうとしていた。
いつも、ありがとうございます。
ブクマも70になり感謝感激です。
PVも8000ユニークも2000を超え、ありがとうございます。
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