36 俺はシロサイだ!
今回は、ちょっと前に出たシロサイの店主視点です。
ちなみに、このシロサイの店主はモブです( ・д・)
ちょうど、キンタローを乗せた馬車が村を出た頃……
「坊主、遅いな……」
俺は、そんな事を考えながら、自分の店の商品台で、爆睡している妖精を見ていた。
え!? 俺が、誰だかわからない? 仕方ない自己紹介でもしようか。
ナギ村に店を構えて約10年、35歳独身、野菜を売ってるシロサイだ。
ん? 名前は何て言うのかって? ……まぁ、それはあとでな。
「キンタロー!なの」
「うわっ!」
俺は、突然起きあがった妖精に驚いてしまった。
妖精の嬢ちゃんが、辺りをキョロキョロしてる。
たぶん、坊主を探しているのかと思い声をかけた。
「やっと、起きたかい、妖精の嬢ちゃん」
「キンタロー……き……キン……タロー…………ふ……ふぇ」
お、おい泣きそうじゃねえか!? 店先で泣かれたら堪ったもんじゃない。
「ふぇぇぇぇん……キンタロー! どこー! ミカン、置いてかないでなのーうわぁぁぁあん!!」
「う、うわぁ。そ、そんな大声で泣かないでくれ!」
通りを歩く人達が、俺に対して冷めた目を向ける。
「わ、わかった。おじさんも、一緒に探してあげるからっ」
「グスッグスッ……ほ、ほんとなの?」
妖精の嬢ちゃんが、俺を涙目で更に上目遣いで見てくる。
くっ! か、かわいい。俺の中の新たな扉が開きそうになる。
ダメだ! これは開けてはいけない扉だ。
「ああ、今店を閉めるからちょっと待ってな」
「……あ、ありがとうございますなの。でもおじさん……誰なの?」
覚えてないんかーーい。
いや、さっきまで俺の店で寝てたよね。
仕方ないので、説明してやると「おおー、お世話になったの~」って、丁寧にお辞儀をするじゃないか。
か、かわいい! ってダメダメ! 開けてはいけない。
◇◇◇
「いないなぁ。変わった髪の色してたからすぐ見つかると思ったんだが」
「いないの~……やっぱりミカン捨てられたの~?」
また、泣きそうになってる。
しかし、こんなに探していないとなると、あの坊主本当に、嬢ちゃんを捨てたのか?
だとしたら、許せんな。
もし、あの坊主が見つからなければ、俺とずっと……いかん、いかんぞ。
「妖精の嬢ちゃん、大丈夫。必ず見つかるさ。何かないかな? 坊主の行きそうなところ」
「う~ん、なの~。あ、クマゴロー!」
「クマゴロー? まだ連れがいたのかい? それなら、その人のところかもな。場所わかるかい?」
「う~ん、う~ん、なの~。あ、出口なの!」
「どっちから来たのかわかるかい?」
「ドワーフなの!」
ドワーフってことは、東側から来たってことか。それなら西側だな。
「よし!行ってみるか」
このあと俺は、後悔するとはまだ知らなかった。
◇◇◇
「あ、クマゴローなの~」
西側の村の入口に来たけど、門番以外いないな。
あれ?あのタヌキの門番、こっち側だったっけ?
妖精の嬢ちゃんに付いて行くと、タヌキの門番に近づいていく。
そして、俺は終わったと思った。
「う、う、うわぁぁぁぁ! 殺される、殺される、殺されるぅ!」
俺は腰を抜かして、その場にへたりこんでしまう。
這いずりながら、タヌキの門番に助けを求めたんだけど、ダメだった。
「し、死んでる……」
あ、いや気を失ってるだけみたいだった。
『なにーー! キンタローがいなくなったぁ!?』
『そうなの、いないの~』
妖精の嬢ちゃんは、サイレントベアーと話をしている様に見えた。
と思ったら、凄い勢いで近づいてきたと思ったらあっさり肩を掴まれた。
「食べないで、食べないで、食べないで」
俺は必死に懇願する。もし、妖精の嬢ちゃんがサイレントベアーと話せるなら、お願いします、助けてください。
『おい、キンタローどこだ!』
『そのおじさんは、一緒に探してくれただけなの~』
俺の肩から手を離すと、もの凄い勢いで村の中へ走っていった。
「……はっ! あれは、不味いんじゃ?」
案の定、村の中から悲鳴があちこちからあがってやがる。
「お、おじさん、クマゴロー止めてなの~」
「はあぁぁ!? ムリムリムリ。嬢ちゃん、あのサイレントベアーと話せるんだろ? 嬢ちゃんじゃないとダメじゃないのか?」
「ミカンじゃ、上手く説明出来ないの~、手伝って欲しいの~、お願いなの~」
妖精の嬢ちゃんが、俺に涙目で懇願している。
くそ、しっかりしろシロサイ! ここで立たなきゃ男が廃る!!
俺は抜けた腰を、無理やり喝を入れて村に向かって行く、へっぴり腰で。
サイレントベアーの周りには衛兵がいる。
しかし、俺の側には、妖精の嬢ちゃんがいる。
その事が、俺に力を与えてくれた。
あと、少しでたどり着く。
「すまん、衛兵、どいてく────」
ガアアアアァァァァァァァァッッッ!!!!!!
やっぱり怖ぇぇぇぇぇ!!
俺には無理だった。
嬢ちゃん、ごめんよ。
だけど、その時、声が聞こえたんだ。
「すいません! 衛兵どいてください!!」
「あ、ジャンなの~~」
妖精の嬢ちゃんが、俺から離れていく。
でも、これで良かったのかも知れない。
所詮、俺はモブだからな。
俺はシロサイ。サイの獣人、名前をシロサイという。
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