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4  真っ裸卒業宣言


真っ裸卒業で、変態から脱出だ


『いや~、本当にすまないね』


 母熊が申し訳なさそうに謝っている。


 八雲は先程2度目の死の恐怖を味わったばかりだった。

 しかも、どちらも母熊からである。

 

 最近の八雲は3兄弟の背中によじ登り、その上で寝るようにしていた。


 八雲が微睡(まどろ)みながら寝つく寸前、離れた場所で寝ていたはずの母熊が寝返りを打った。というより凄い勢いで転がり込んで来た。


 八雲は咄嗟(とっさ)に避けたが、転がり落ちた場所が悪かった。3兄弟の真ん中の隙間に落ちてしまい、母熊の腕が八雲の首を圧迫する様に落ちて来た。

 八雲はたまらず叫び、声に気付いた母熊が起きたことで一命をとりとめた。


 喋れる事を秘密にしていたが思わぬ事でバレてしまい、八雲は改めて姿勢を正す。

 両親に向きあい二、三度喉の調子を確認した。


『父さん、母さん、兄弟。えっ……と……』


 八雲は照れながら頬をかいていたが、はっきりと伝えた。 



『家族になってくれてありがとう!』



 サプライズは出来なかったが、ずっとずっとお礼を言いたくて仕方なかった。


 両親は暫くキョトンとした顔をしていたが、母熊が八雲を手招きして膝の上へ座らせる。

 サイレントベアーもそうだが、そもそも魔獣には相手に対する感謝の概念が無い。

 もちろん、感謝される事も無い。

 両親は最初ありがとうってなんだろう? と疑問に思った。


『家族なのにおかしな事を言うわね、この子は』


 母熊が優しく頭を撫でながらそう言うと、隣に座っていた父熊も優しく撫でながら頷く。


 両親は感謝に関してはわからない。

 しかし、否定しなければならない事もあった。

 それは『家族になってくれて』と言った言葉。

 家族に対して普通『家族になってくれて』などとは言わない。

 だから『おかしな事』であると。

 例え血が繋がっていなくても、種族が違ったとしていても。

 私たちは初めから家族なんだからと。

 壁を勝手に感じていた自分が急に恥ずかしくなる。

 顔をボフッと母熊の体に埋めると『ごめんなさい……ありがとう…』と涙を溢しながら、か細い声で言う。

 ただ泣きながらも母熊の体で隠している八雲の口元は、嬉しさのあまりにやけていた。




◇◇◇

 両親や兄弟の愛情に包まれ、5年程経ったある日。

 八雲は突然『服が欲しい!』と真っ裸(まっぱ)卒業宣言を両親に訴える。


『服って何だろう…?』


 両親は困り果てていた。 


 ほんの数時間前、洞穴の中で、成長しても未だに八雲の手をしゃぶる兄弟と格闘していた。


『は~~な~~せ~~~~!!』

ひ~や~だ~~(イ~ヤ~だ~~)


 八雲は兄弟の顔に右足を置き、腕を引っ張る。


『僕も混ぜて~~』

 

 先ほどまで眠そうにしていた兄弟が、目を輝かせて八雲に飛び込んでくる。


『ちょ、待、て、重い重い重い重い~~~』


 八雲が咄嗟に左足で、飛び込んできた兄弟を支える。

 それを見ていた兄貴肌の兄弟は2頭を、引き離しにかかるが中々離れない。

 ドタドタと騒ぐ3頭と1人を、初めは微笑ましく見ていた父熊だったが、突然、洞穴外に3頭と1人の首根っこを掴み放り投げる。


『ホコリが凄いわ! 外でヤレ!!』


 兄貴肌の兄弟の背中に乗り、そのまま3頭と八雲は川へ向かう。

 八雲はスクワットと《足腰強化》のスキルのおかげで、成長し、兄弟の速度でも振り落とされる事はもう無い。



 川で遊んでいると、ふと水面に映る自分の足を見て逞しくなったと感じていた。

 さっきまで波打っていた水面が落ち着くと、八雲の全身が映る。

 突然、川の中で膝から崩れ落ちる八雲。


 それを見た3兄弟は、弟の八雲に何かあったのか?と駆け寄ると、八雲はポツリと呟いた。


『丸出しじゃねーか』




◇◇◇

 将来このまま大きくなると、変態まっしぐらな八雲は真っ裸(まっぱ)卒業宣言をする事になる。


 八雲は両親に服の説明をするが『ああ、ヒトの皮か』と納得し、父熊が『今度エルフでも見たら、剥ぐか』などと怖い事を言い出す。

 死んだヒトの服を剥ぐのは何かイヤだし、死んだヒトの皮を剥ぐのはもっとイヤなので、丁重にお断りする。


 『あっ』と突然父熊が何かを思い出し、洞穴の奥へと行ったと思えば、何かを持ってきた。

 父熊が持って来たのは、リュックだった。

 勿論、父熊の私物のはずはない。


『これはね、お前を抱いて亡くなっていた魔人族の女の物だと思うよ。お前に役に立つかなと思い持って帰ってきたのさ』


 父熊はリュックを八雲に渡す。

 少し思い悩んだが、自分は魔人族なのかと思いきって両親に聞いてみる。


『魔人族の奴らは皆、頭に角があるヒト族のはずだよ。だからお前は違うんじゃないかな』


 八雲は《人間》として転生したのは覚えている。

 本当は自分が魔人族ではない事をわかっていることだが、その魔人族の女性が自分の母親なのかを遠回しに聞いてみたいだけだ。

 勿論自分の母親は目の前の母熊だけであるが、もし、産んでくれた人なら『ありがとう』と感謝する八雲だった。



 八雲がリュックを開け中を取り出すと、まず出てきたのはナイフの納まった革のベルト。

 八雲がナイフを抜くと歯こぼれなど無くキレイなままで、その持ち手には装飾が施されている。


 次に出てきたのは革の袋で、中には水らしき物が入っており、水筒だとわかる。速攻中身は捨てた。


 最後に出したのは、フード付のロングマントだった。


『服っぽいのは、これだけみたいだな』


 八雲はサッとマントを羽織って首もとの紐を結んだ。

 裾は長いが成長すれば大丈夫だろうと、二三歩歩くと、直ぐに裾が広がる。

 結局丸出しだった。


 八雲は、電柱の陰から現れる裸にロングコートのベタなアレ(痴漢)を思い描き、膝から崩れ落ちた。




◇◇◇

 なんとか気持ちを立て直した八雲は、リュックと水筒とナイフ付の革のベルトを並べると、家族に何なのかを説明する。


 八雲にとって、有難い物だった。

 果物や木の実などを運ぶのにリュックは便利だ。

 既に父の乳から離れた八雲は、生肉なども家族と同じように食べている。

 しかし、いかんせん固く、中々噛みきれず、何より血生臭さが苦手だが、この問題は水筒とナイフで解決できる。


 八雲はリュックや水筒は今の自分には大きいので、使用する際には兄弟に手伝って貰う事にした。


 ナイフ付のベルトだけは腰に直接巻く。

 しかし、またガクッと八雲が床に倒れこんだ為、家族が慌てて近づくと、八雲はしくしくと泣きながら変な事を呟いていたのを聞いた。


『マントの中は丸出しとナイフ』


『玄関開けたら二分で逮捕』


 家族には良くわからなかった。




◇◇◇

 そして1週間ほどたった頃、八雲はベルトを()()()()()()()巻けば裾がはだけない事に気付き、ガックリと項垂(うなだ)れた。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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