33 キタを目指して西へ
※前回の32話で金貨と銀貨のくだりを加筆しました。
第4章スタートです。
この章から、様々な獣人が出ます。
「ふんっ!」
キンタローの目の前にある枝が落ちる。
『おぉ~』
「おぉ~なの~」
「凄い切れ味だな」
キンタロー達は、ドワンゴ村を出て3日ほど経った早朝。
西の果てにあるキタ村を目指しながら、度々森に入り剣の腕を磨いている。
そして、今も剣の切れ味を試している最中である。
キンタローに、剣の腕はほとんど無い。
前生で、中学の授業で剣道をした程度だ。
それが、わかっているからこそ質の高い武器が必要不可欠だった。
キンタローの持っている剣は、もちろんリベルとミネア、そしてフラムが想いを全て込めた剣。
その剣は、刃渡りが50cmほどの直刀で、斬る事を重視されて作られている。
刃は、片方にしか無く、剣というより刀に近かった。
「さ、そろそろ出発するか」
キンタローは、ミカンを懐に入れ街道に戻っていく。
キタ村に向かうには、フラム達と出会った丁字路を西に街道を進めば着く。
キタ村に向かう途中には、ナギという名前の宿場町のような役割を持つ村がある。
キンタロー達は、今日中にもナギ村には着きたかった。
早く着きたい理由、それは暖かい食事。
特に肌寒い訳ではない。
しかし、一度暖かい食事をしてしまうと、どうしても暖かい方が良くなってくる。
ドワンゴ村を出てからは、そんな話ばっかりだ。
「スープ、焼き肉、焼きたてパン」
『焼いた肉、焼いた肉、焼いた肉』
「木苺、木苺、木苺、なの~」
「木苺は、暖かくねぇよ!」
◇◇◇
昼を少しまわった頃、ナギ村が見えてくる。
「キンタロー、見えたの~」
「よし、行け。クマゴロー」
『まかせろ』
(あれ?何か忘れてる気が……)
クマゴローが村に向かって、走り出す。
「止まれ! 止まれ!」
ドワンゴ村と違い、しっかりとした木で出来た門の前に着くと門番2人に止められる。
「な、な、なんで、サイレントベアーなんかに乗ってる?」
「あ、これか!」
クマゴローが、魔獣であることをすっかり忘れていた。
キンタローは、一旦クマゴローから降り、門番の1人に近寄っていく。
門番はよく見ると──どこからどう見てもキリンの獣人だった。
首が異様に長く、まさしく門番が天職とも言える。
「門番さん。あのサイレントベアーは、僕の友達なんです。友達と離ればなれは嫌なんです。う……うぅ……お願いします! 村に入れてください!」
「ダメだ」
「チッ!首を長くして覚えてろ!」
子供全開涙目上目遣いでアピールしたが、すぐ断られると、舌打ちして元に戻る。
(あの子供、惜しかったな……女の子だったらアイツも通したのに。まぁ、俺が通さないけど)
ロリコンの門番に、哀れな視線を向けるタヌキ顔の門番だった。
「あー、キミキミ」
タヌキ顔の門番に呼び止められ、子供モードで振り向くキンタロー。
「あー、それはもういいから。それより、魔獣は入れられないけど、キミだけなら大丈夫だよ。それ以外なら村を迂回してもらうしかないけど」
タヌキの門番にそう言われて、キンタローは悩んだ。
(うーん、このまま迂回してもいいけど、村も見たいなぁ)
『キンタロー、中に入ったらいいぞ。オレは迂回する。その代わり、肉を……出来れば焼いてあるやつを』
『わかったよ』
クマゴローも、すっかり肉は焼く派だ。
「タヌキのおじさん」
「た、タヌキのおじさん?俺は、まだ、にじゅ──」
「あー、それはもういいから。それより、クマゴローを出口まで案内お願いね。提案したのおじさんだろ」
「え!?」
思わぬ、キンタローの言葉に後悔する門番だった。
クマゴローに後押しされ、キンタローは、ミカンと二人で中に入る。
その後、クマゴローはキンタローから離れた事を後悔する事になる。
◇◇◇
キンタローとミカンは、ナギ村を見学していた。
門を抜け、真ん中に大通りがある。その道を挟む様に色々な店が立ち並んでいる。
宿場町としての役割もしているためなのか、人通りもかなり多い。
「おぉ~、人多いの~」
「獣人がほとんどだけど、ドワーフもチラホラいるな」
キンタローは、赤色の髪を見つけては目で追いかける。
「む~~、キンタロー、フラムのこと考えてるの~」
「いたっ! 頬を引っ張るな。考えてない、考えてない」
ミカンは、むくれながらキンタローの頬をつねる。
「ほんとなの~? ミカンといるときはミカンの事をか──」
「ん?」
ミカンは、途中まで言いかけてどっかに飛んでいく。
「お、おい。勝手に行くと迷子に、迷子に……」
ミカンの飛んでいった店先には、真っ赤な木苺がザルみたいな入れ物に山盛りで置かれている。
「喝!」
「いたいの!」
ミカンは、木苺を見てヨダレを垂らしながらキンタローからチョップを食らう。
「お、おい。商品にヨダレ飛ばさないでくれよ」
お店の店主に注意されてしまい、二人で謝る。
「すいません、サイのおじさん」
「む。違うぞ、坊主! 俺はシロサイだ!」
「わっかるかぁぁ!」
逆にキレられる、シロサイの店主。
「お、おお。そうか、なんかすまん」
いつの間にか立場があべこべになっていた。
さすがに、ちょっとやり過ぎたかと思い、キンタローは銀貨1枚分の木苺を買ってあげる事にする。
サイの店主は、ザルごと渡しくる上に、銅貨を95枚お釣りを返した。
キンタローは、まだこの世界のお金の価値がわかっていないので、店主に聞いてみる。
「はぁ?お金がよくわからないって?うーん、坊主、少数種族みたいだしお金無かったのか?」
「そうなんだ。だから、銀貨の価値もあんまりわからないんだよ。教えてくれないか」
キンタローは、話を合わせる。
「まぁ、買い物してくれたし、それくらいなら。まず一番小さいのが銅貨だ。銅貨が100枚で銀貨1枚と同じだ。銀貨が100枚だと──」
「金貨1枚か」
「え?いや、違う違う。小金貨1枚だよ。小金貨10枚で金貨1枚だ」
キンタローは、ふと思う。そういえば、リベルから餞別で金貨を1枚貰ってる。
「おじさん、これ小金貨?」
店主は目を丸くして驚くと慌てて、キンタローの手を隠す。
「ば、バカ! こんな往来で出すなよ。それは、金貨だよ」
店主の話を聞いて、キンタローは慌ててしまい小声で呟く。
「……ラウザ工房、恐るべし」
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