31 フラム=ラウザの想い
ハンスを蹴ると、ストレスが3減ります。
ミカンが木苺を取られたと、ギャンギャン騒いでいる。
そんな中裏庭にいた全員が──正確にはハンス本体を除く、全員が入ってきた。
キンタローが窓の外を覗くと、パンツ一枚のハンスが木に吊るされているのが見える。
アマンダの手には、ハンスの脱け殻があった。
「アマンダ~、キンタローに木苺全部取られたの~」
「な!?ちょっと待て。全部じゃない一つだ!」
アマンダは木苺でベトベトなミカンを拭いてやる。ハンスの脱け殻で。
「キンタロー、ありがとう!」
フラムがキンタローに突然抱きついてきた。
キンタローが慌ててる様子を見て、全員ニヤニヤしていた。
ハンスは、今いない。
とりあえず、キンタローはリベルを後で蹴り飛ばすことにした。
「フラム落ち着け。それに鼻水つけるな」
「───!」
フラムは、キンタローから離れると顔が真っ赤になる。
もちろん、鼻水は出ていない。
あくまで、フラムがキンタローを離れる為の方便だ。
「顔、洗ってくるわ」
フラムは急いで二階に駆け上がる。
フラムが居なくなったのを見計らい、キンタローはリベルに蹴りを入れた。
「な、なんでぇ!!?」
◇◇◇
「ありがとうございます。危うく娘を失うところでした」
キンタローの蹴りから復活したリベルとミネアが、深々と頭を下げる。
「いいよ、いいよ、そんなの別に。それより、アレン」
丁度、出かけるところだったアレンは足を止めた。
「どうかしましたか?キンタローさん」
「いや、武器造りってどのくらいかかる?」
「そうですね……3日……いや、細かい調整を含めると5日でしょうか?」
キンタローは、確認の意味も含めてリベルを見ると、リベルも頷いた。
「じゃあ、出発は6日後にするかな?」
「えっ!!?」
丁度二階から降りてきたフラムが驚く。
「き、キンタロー……出ていくの?」
フラムの顔が、また泣きそうになる。
「まぁ、急ぐ訳ではないけど、色々回りたいしね」
「そ……そうなんだ……」
元々、武器の入手とエルフの情報収集の為に旅立ったキンタロー達。
武器の入手の目処は立った。
フラムがエルフに襲われた事を考えると、あまりのんびりとは出来ない。
キンタローは、ちょっと長居し過ぎたとさえ思っている。
しかし、フラムは違った。
ずっと、居るものだと思っていた。
武器を求めていたのは知っている。
エルフに家族を奪われた事も聞いている。
だけど、ここにずっといて欲しい。
そして、いつか───
フラムは、キンタローの手を取ると自分の胸元にあて、顔を近づける。
それは、お互いの息がかかる距離。
「キンタロー……私、私は……あなたの事が……」
周りにいた全員が息を飲む。
バタン!
「あ~、やっと縄が外れた~」
ハンスがパンツ一枚で入ってくると、フラムとキンタローは、手を離し離れた。
((((ハンスのアホ!!!!))))
アマンダが、木苺でベトベトになったハンスの脱け殻を投げつけた。
◇◇◇
「ふ~~、完成だ」
リベルがそう言うと、周りにいた全員が沸き上がる。
あれからちょうど5日後、とうとう一本の剣が完成した。
リベルとミネアは、通いで工房に来ていた。
キンタローが部屋を使っていたのもあったが、引っ越しの準備がある。
剣の製作は、リベルとミネア、そしてフラムが行った。
アレンがライザのナイフから得た情報を元に、玉鋼を作っては割りを繰り返す。
いくつかに選別し、まとめて溶かす。
ミネアとフラムが金槌で叩き、折り曲げて、また溶かしては叩くを繰り返す。
キレイな長方形の板になったものを、形を整えると火に入れて、また叩く。
そうして出来上がりをリベルが確認すると首を振り、また一から作りだす。
そして今、完成した。
フラムが、リベルの言葉を聞くとその場に座りこむ。
元々武器作りが不得手なフラム。
だが、フラムは自分も手伝いたいとリベルにお願いする。
それは、全てこの剣の持ち主になるであろう人の為──
キンタローとフラムは、ここ数日ギクシャクしていた。
お互い会話はするものの、目を合わせない。
しかしフラムは意を決して出来上がった剣を手に取った。
◇◇◇
キンタローは、ここ数日フラムとギクシャクしているのを気にしていた。
あの日、ハンスが入って来た時、イラッとして蹴ろうかと思ったが、同時にホッとする自分もいて止めた───やっぱり義務だと思い直し、蹴っておいた。
フラムがリベルとミネアと剣を作り続けるのを、見ていたキンタローは、フラムの楽しそうな表情に気付く。
(やっぱり家族は、こうでないとな───いや、そうか……)
最初は武器を手に入れる為、バラバラになった家族を戻す為だったのかもしれない。
いつしか、それこそ最初からかもしれない、キンタローは別の理由に気付いた。
────フラムの笑顔が見たいのだと。
◇◇◇
フラムは、剣を手にキンタローに近づき、そして大きな深呼吸を一度すると、全ての想いを込めて伝える。
「キンタロー、結婚してください!!!!」
「「「「は、は、はいぃぃぃぃぃぃ!!?」」」」
キンタローを除く全員が叫んだ。
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