29 巨人とひょろ親父
ある日、森の中で巨人と出会ったってお話
翌日、キンタローは、クマゴローとミカンを連れてフラムの父親の元に向かう事にする。
フラム達と鉢合わせしないように、工房に入ったのを見計らって、朝早くに出掛けた。
◇◇◇
村の西にある森を進むと、すぐに一軒の家を見つけた。
「ここか……って、扉デカすぎないか?というか、あれか!ドワーフってのは、背が低い反動で扉をデカくする、癖でもあるのか?」
そんな筈があるわけなかった。
村のほとんどが、普通の扉である。
『キンタロー、さっさと行くぞ!朝ご飯、まだなんだから!』
サイレントベアーは、通常食べたい時に食べる。
すっかりと、人族の暮らしに慣れたクマゴロー。
家の前に立ち、軽くノックをするが返事がなかった。
(留守か?)
そう思った矢先、不意に扉が開いてキンタローはぶつかり、思わず尻餅をついた。
「だ……大丈夫……?ぼく……?」
若い女性の声に答えようとキンタローは軽く頭を振り、前を見た。
足があった。
キンタローは、顔を上を向ける。
豊かな胸があった。
キンタローは、ほぼ真上を見上げた。
やっと、顔が見えた。
「ええぇぇぇ、で、デカっ!」
キンタローは、思わず声に出してしまった。
もちろん、胸の事を言ったのではなく、背丈の事だ
その女性は、凄く不安げな表情をしている。
「あ、すいません。オレ……自分は、キンタローと言います。こっちは兄弟のクマゴローで、襲ったりはしません。で、この、服の中でヨダレ垂らして寝てるのは、ミカンです」
スッと立ち上がり、丁寧に挨拶をする。
体格的に逆らったらいけない大人を見分ける出来る子供、キンタロー。
「あ、あの………こちらこそ、すいません。村で噂になっているので……知ってます…フラムちゃん……の……所に……いるんです……よね」
その女性は体の大きさに反比例し、気が小さいのか随分と小声だった。
赤いショートボブにから、ドワーフであることは分かり、見た目は20歳そこそこの若い女性だった。
(フラムの件もあるしな……)
フラムが自分より年上であることから、ドワーフの見た目は、あてにならないと思っていた。
「ミネア、誰が来たんだい?」
ミネアと呼ばれた女性の腰あたりから、ひょっこり長細く、頬が痩せこけた男が顔を出す。
「あ……あなた、その……フラムちゃん……とこに、今いる……」
フラムの名前を出すと、男は明らかに表情が明るくなった。
(やっぱり、この人がリベルか……しかし、顔も、体も、ひょろひょろだな。フラム、お前似なくて良かったなー)
「そうですか!君が!さ、どうぞ、どうぞ。ミネア、中へ入れてあげなさい」
ミネアはそう言われ、一歩下がるが直後にいたリベルにお尻がぶつかると、1m程ぶっ飛んでいった。
『「軽っ!!」』
キンタローとクマゴローは、軽くぶつかったと見えたが、いとも簡単に宙を舞うリベルに、思わず叫んでしまった。
「ふえっ!な、なんなの?」
ミカンも驚いて目を覚ます。
「あ、あなた……ごめんなさい」
ミネアが慌てて、リベルに駆け寄る。
キンタローとクマゴローは見逃さなかった。宙を舞う時のリベルのあの表情を。
『なぁ、キンタロー。なんで、あの親父、あんなに嬉しそうなんだ?』
キンタローは、クマゴローにポンと手をあて『世の中には、そういう人もいるってことさ』と囁く。
(そうか、今度キンタローにやってみるかな?喜んでくれるか?)
後日、クマゴローは実行して、キンタローに怒られる事になった。
◇◇◇
「そ、それでフラム、フラムは元気ですか?」
リベルは、椅子から立ち上がりテーブル越しに、キンタローに顔を近づける。
「近いわ!!」
思わず、平手でリベルの顔を押すと、いとも簡単に椅子までぶっ飛んだ。
「あははは、スゴいの~、飛んだの~、ミカンより軽いの~」
ミネアが、リベルを心配するがミカンの笑い声に連れてて少し笑った。
「それは無い」
キンタローは、ミカンの頭を掴みクマゴローに投げつける。
「ひゃ~~~なの~~」
ミカンは、空中を横転しながらクマゴローを飛び越え飛んでいく。
ボチャン!
見事に、水の入った桶に突っ込んだ。
ミネアの顔が笑顔のまま、引きつった。
「それで、キンタローくんは、どうして此処に来たのかな?」
リベルが、優しく話かける。
「さん付けで」
「え?」
「だから、さん付けで」
「え、えーと、それじゃキンタローさんは、どうして此処に来たのですか?」
逆らっても問題ない大人を見分ける恐ろしい子供、キンタロー。
「もちろん、フラムの事だけど、その前にミネアさんの事教えて貰えるかな?リベル」
「え?呼び捨て?」
「教えて貰えるかな?リベル」
「え?ミネアは、さん付けで私は……」
「教えろ、リベル」
逆らっても問題無い大人には容赦ない子供、キンタロー。
◇◇◇
リベルの話では、このミネアという女性は、やはり再婚相手だった。
ミネアは、先祖返りを起こしたドワーフで、巨人族と呼ばれた少数種族の血が入っていたらしく、10歳を境にぐんぐんと、背が伸びていく。
元々、ミネアとリベルは年の離れた幼馴染みであり、ミネアとフラムの母親も仲が良かった。
ミネアの背が大きくなるにつれ、ミネアの家族を含めた周りが彼女を疎んじ始めた。しかし、唯一リベルとフラムの母親は見捨てず仲良くしていた。
リベルとフラムの母親が結婚後も、フラムが生まれた後も、三人は仲が良かった。
フラムもミネアに懐いていたが、フラムの母親が流行り病で亡くなった事がきっかけで、険悪になってしまう。
「それで、アレンに聞いたけど組合の後、出て行ったのか?」
リベルとミネアは同時に頷く。
「バカかっ!?あんたらはっ!!特に、そこのひょろ親父!!」
キンタローは、何もわかっていない二人に腹が立ち怒鳴り付けた。
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もうすぐ、第3章も終わりです。
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