23 ナイフ
クマゴロー、割りと器用ってお話
「はは……流石アマンダ……見た目通り、びくともしないわね」
フラムが、結構失礼な事を言いながらテーブルの椅子に腰をかける。
「いえいえ、お嬢様。驚きましたよ」
アマンダが、椅子を引いてキンタローを座らせた。
「まさか、お嬢様が男の子を連れ込むなんて」
アマンダの発言に、思わずフラムは飲んでいたお茶を吹く。
「ちょ、ちょっと!人聞きの悪い言い方やめてちょうだい。大体キンタローさん、私より年下よね?」
「あー、多分10歳かな?」
キンタローは、フォローするつもりだった。
「見た目同じ位だし、お似合いですよ」
フラムは、アマンダにバッサリと斬られてしまった。
◇◇◇
(しかし、器用だな………)
フラムも漸く立ち直り、キンタロー達は、お茶を飲んでいた。
「どう?いい香りするでしょ?今流行ってるのよ」
お茶から、微かに甘い香りがする。
流行の原因に思い当たる節があるキンタローの、頭の中に、二本の糸目が浮かぶ。
しかし、それもすぐに消える。
「器用だな」
「器用ね」
思わず、キンタローもフラムも口に出してしまう。
二人は、今片手にソーサーを持ち、もう片手でカップを持ち、お茶を飲んでいる熊に釘付けだった。
クマゴローは、そんな二人を見て、「ん?何?」と言わんばかりに、可愛く首を傾げた。
◇◇◇
皆が一息つく頃に、扉からハンスと、ハンスに肩を借りたアレンが入ってきた。
アレンは、医者に見てもらいに、ここへ来る途中で診療所に預けてきていた。
「アレン!大丈夫なの?」
フラムが立ち上がって駆け寄る。
台所で、用事をしていたアマンダも出てきた。
アレンは、身長や髪の色こそドワーフだが、細身のフラムより若干年上の20歳位に見える爽やかな青年である。
「お嬢様、ご心配おかけしました。まだ、痛みはありますが大丈夫です。それにキンタローさん、お嬢様が危ないところを助けて頂いた上、私に貴重な薬まで、ありがとうございます」
アレンは、とても丁寧な口調で礼を言い、頭を下げると、隣にいたアマンダまで、頭を下げる。
そんな二人は、まるで親子に見えた。
フラムは、椅子に戻るとニヤニヤしていた。
「ふふふ、今、あの二人を仲のいい親子だなぁ……って思ったでしょ?」
キンタローは、軽く頷く。
「残念でした。あの二人、夫婦よ。しかも、まだ新婚」
改めて、二人を見ると何かイチャイチャしてる。
ハンスは、家の中にも入れてもらえず、静かに泣いていた。
「アレンっ!今日はもういいわ。二階で寝てなさい。ほら!アマンダもっ!夕飯の用意お願いね!」
フラムの口調が若干荒くなっていた。
ハンスは、二人が離れるのを見て、フラムにサムズアップしていた。
◇◇◇
「ところで、キンタローさんは───」
「キンタローでいいよ。さん付けは、何か背中がむず痒い。オレもフラムって呼んでるし」
フラムの言葉を遮り、キンタローがそう言うと、フラムは一つ咳払いをした。
「ところで、キンタローは、ドワンゴ村に来て良かったのかしら?もしかして、獣人の村の方に行く途中じゃなかったの?」
キンタローは、当初の目的を思い出すとリュックから紹介状を取り出し、フラムに手渡した。
フラムが紹介状を受け取り読んでいくうちに、だんだんと肩を落としていく。
「はぁ……まさか、妖精の長老様からとは。どれだけ凄いのよ、ライザお祖父様は」
フラムは紹介状を読み終えると、ため息混じりに話し出した。
「キンタロー。まずね、ライザ=ラウザは私の曾祖父よ。とっくに亡くなってるわ」
長老がライザに出会ったのは、100年近く前だ。
亡くなっていて当然である。
(長老め!謀ったな!!)
キンタローはそう思ったが、本当はただ、長老が忘れていただけである。
「それとね……」
フラムは家の奥へ、引っ込むと一つの剣を持って来た。
「武器が欲しいって事だけど、キンタローは恩人だしタダでもいいのよ。だけどね、この剣を見て」
フラムは持ってきた剣をキンタローに手渡すと、剣を鞘から抜いた。
いわゆるショートソード、短剣と言われる刃渡り60cmほどの剣だった。
キンタローに目利きなど出来ない。
しかし、この短剣は少し重い気がした。
「試してみても?」
フラムが頷くと、キンタローはリュックから布を取り出し、刃に当て切ろうとするが、切れたのは端っこだけである。
「なまくらでしょ?私が作ったのよ。本当にライザの曾孫だなんて呆れるわ」
フラムは、今にも泣きそうな、しかし歯を食い縛り我慢しているのが見て取れる。
「今この村にあるのは、この程度のものよ。フレデリックさんとこも同じ。情けないわ、せめてパパがいたら………」
フラムは、ハンカチを取り出し目元を拭った。
「キンタロー。あなたのナイフを貸して。手入れ位なら出来るから」
キンタローは、ナイフを鞘から抜きフラムに差し出すが、フラムが固まったまま受け取らない。
「フラム?」
固まったフラムに声をかけると、ハッとして、キンタローからナイフを震える手で受け取った。
フラムは、そのナイフをまじまじと見たり、光に当てたりしている。
「アマンダ!!果物持ってきて!出来れば硬い奴!!」
突然の事に、慌てた様子でアマンダが緑色のテニスボール大の果物を持ってくる。
「き、切ってもいいかしら?」
キンタローが頷くと、フラムは果物を切ると特に力を込めることなく、あっさりと切れた。
フラムは肩を震わせまた固まったが、すぐに動き出す。
「あ、アマンダ!アレンを!アレンを呼んできて!!今すぐ!」
アマンダは、急いで二階へ駆け上がる。
「ハンス!ハンスも来てちょうだい!急いで!!」
フラムは隣接している店にいた、ハンスを大声で呼んだ。
キンタロー達は何か良くわからずに唖然としていた。
◇◇◇
テーブルに置かれた一本のナイフ。
それを取り囲む様に、フラム、アレン、ハンス。
しかし、三人とも目を丸くして、全く動かなかった。
アレンが意を決して、ナイフを手に取り、フラム同様、まじまじと眺めていた。
「あ、アレン!俺にも見せてくれ!」
ハンスが、アレンから慎重に受け取ると、「おおおおぉ」と唸った。
キンタロー達は全くついていけてない。
「キンタローさん!刃を外してみても良いですか?」
アレンの興奮した様子に、キンタローは何度も頷くと、慎重に慎重に装飾の付いた柄から刃を外す。
「「「おおおおぉ!!!!」」」
三人とも、益々興奮しだした。
キンタローは、もはや椅子に座ってボーッと明後日の方を向いているだけである。
ミカンは、怯えるようにキンタローの服の中に隠れる。
クマゴローもキンタローの肩ごしに、こっそり三人を見ていた。
「す、凄いわ!」
「間違いなく、本物です」
「お、オレ初めて見た!」
三人は、目をキラキラと輝かせていた。
もう、ナイフしか目に写っていない。
キンタローがいつの間にか、アマンダから借りた木のお玉を持って、三人の背後にいたとしても気づいていないくらいだ。
「きゃっ!」
「痛ッ!」
「イッテェェェェ!」
三人は、キンタローにお玉で叩かれ現実に戻ってくる。
三人が、後ろを振り返ると、そこにはお玉で肩を叩いてるキンタローが仁王立ちしていた。
「と!り!あ!え!ず!説明!!しろ!!!!」
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