19 赤い髪
ヒロインってお話。
「「「───な!!!?」」」
馬車を追っていた3人のエルフは、突然馬車が端に寄ったかと思うと、その横をすり抜けて、こちらに向かってくる巨体に驚いた。
横並びで追っていた為、両端にいたエルフは咄嗟に街道脇の森へ避けれたが、真ん中のエルフは躊躇ってしまう。
『行けぇぇぇ!クマゴローぉぉ!!』
キンタローは叫ぶと、クマゴローは一切スピードを落とすことなく、真ん中のエルフを吹き飛ばす。
簡単に5メートル近く撥ね飛ばされ、そのまま地面を転がり気を失った。
キンタローは、クマゴローから飛び降り『殺すなよ!』と声をかけると、その声に一つ頷く。
キンタローが背負ったリュックの取っ手に、指を引っ掛けて、そのまま一回転すると、キンタローをリュックごと、そして懐にいたミカンごと、森へ避けたエルフに向かってぶん投げた。
「───なの~~~!!」
森へと消えていく叫びに、ミカンをすっかり忘れていたクマゴローは一言『すまん』と心の中で謝った。
森へ回避したエルフは、突然現れたサイレントベアーに対処すべく直ぐに態勢を立て直し、弓を構える。
しかし、そこに自分に向かって飛んでくる、リュックと少年と「なの~~」という変な声。
もしかしたらもう少し、森の奥へ進んでから態勢を整えれば、避けれたのかもしれない。
しかし、すぐに立て直したのが却って仇となった。
エルフは、なすすべもなくリュックにぶつかる。
ただのリュックではない。
中は小玉スイカ並みの大きさの《マーレ》が大半を占めている。
思わぬ衝撃に、エルフは軽い脳震盪を起こし倒れこみ、キンタローは、着地と同時にナイフを抜く。
すぐさま倒れたエルフに馬乗りになって、ナイフの切っ先を首に突き付けた。
「動くなよ。エルフには聞きたい事があるんだ」
「酷い目にあったの~~」
キンタローの懐から出てきたミカンの抜けた様な声により、キンタローの冷静な声が、却ってエルフにとっては、冷めた声に聞こえ、キンタローが只の少年じゃない様に思えた。
決着は着いたと、クマゴローの方にほんの少し意識をやる。
しかし、ここで予想外な事が起こる。
完全に諦めた様子だったエルフが、突然キンタローの下で暴れだし、ナイフを握った手首を掴まれる。
「しまった!!」
そう思った刹那、更に予想外の事が起こる。
エルフはナイフを奪うのではなく、キンタローの手首を自分の首に引き寄せ、自分の首をナイフで突き刺した。
「な、なにぃぃ!!!?」
キンタローは突然の事に動けずにいる。
そして、キンタローの下にいたエルフは、最後にビクンと跳ね、動かなくなった。
「大丈夫なの~? 大丈夫なの~?」
キンタローは、ミカンに揺すられハッと気が付く。
どうやら、暫く呆然としていたみたいだった。
キンタローがミカンを見ると、揺するミカンの手は、震えている。
ミカンに礼を言うと、その震える手を取りミカンを懐に入れてやった。
キンタローは、エルフからナイフを抜いて返り血を浴びると、リュックから水筒と布キレを取り出し、顔とナイフを拭いた。
エルフの遺体は枯れ葉などで隠したあと、水をがぶ飲みしてから、クマゴローの所に戻った。
◇◇◇
クマゴローの近くには二体のエルフの遺体があった。
しかし、その二体ともクマゴローの仕業ではなく、首にナイフを刺して死んでいる。
クマゴローの話では、回避出来たエルフは、逃げだしたが、背後からの体当たりで倒れこむ。
背中から押さえつけたが、すぐにナイフを懐から取りだした。
クマゴローは、ナイフを出した時、直ぐに払おうとするが、まるで当たり前のかの様に、訓練でもされてるが如く、スムーズに自分の首に刺した。
初めに吹き飛ばしたエルフは、目を覚ますと仲間の様子を見て直ぐに自殺したとの事だった。
『なぁ、キンタロー。エルフって何なんだよ?』
『そんなの、こっちが聞きたいよ………』
クマゴローもキンタローも、そしてミカンも、あまりにもエルフの不気味さに、背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。
◇◇◇
「これでよし、と」
ここは、キンタロー達が森を抜け、最初に出てきた丁字路。
先ほど、逃げていた馬車が丁字路の中心に停まっている。
ここからドワンゴ村までは、馬車ですぐだが、怪我人の応急処置をするためだった。
(結構酷い怪我……すぐに村に戻らないと……)
「ハンス! どう? エルフ達、追ってくる?」
ハンスと呼ばれた御者の男は、木の上で見張りをしていた。
「お嬢!! 大丈夫です! エルフは見えませ──あっ!! お嬢!! サイレントベアーです! サイレントベアーがこっちに来ます!」
ハンスはスルスルと木から降りてきながら、叫んだ。
◇◇◇
『キンタロー、あれ見ろ』
クマゴローが先に丁字路に止まっている馬車を見つける。
『あんなところで何してんだ?』
クマゴローの首をポンと叩くと、スピードを上げる。
(うわぁ……本当にお嬢の言ってた様にサイレントベアーに子どもが乗ってるよ……)
ハンスは、逃げるのに夢中で、さっきはキンタローが目に入っておらず、お嬢と呼ばれた女の子から、サイレントベアーの上に子どもがいたと言われても半信半疑だった。
キンタロー達が、馬車の近くに来ると、女の子は馬車から降りてキンタロー達の元へ近づき、頭を下げる。
「エルフに追われている所を助けて下さりありがとうございます。私はドワンゴ村でラウザ工房の親方をしております、フラム=ラウザと申します。以後お見知りおきを」
(……ラウザ?)
フラムは礼を言うと、顔を上げニコッと微笑んだ。
キンタローは、フラムのその可愛らしい笑顔と、燃える様な真っ赤な髪の美しさに、見惚れていた。
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