18 エルフ再び
エルフがヒャッハーしてるってお話
「そうですか。キンタローさん、もう出立しましたか」
ジャンが妖精の森に訪れたのは、キンタローが出立して2日が経った時だった。
「ドワンゴ村に行くと言っていたのじゃ、キタにはその後行くとの伝言じゃ」
ジャンと長老の会話に、年齢詐称の老婆が割り込んで伝える。
「ドワンゴ村には、武器を? キンタローさん、欲しがってましたからね」
「うむ、なのでワタシの知り合いのライザ=ラウザという名工を紹介してやったわ」
長老が、知っとるか? 名工だぞ? と言わんばかりに、どや顔していた。
「あのライザ=ラウザ……ですか?」
ジャンも知っている位に有名人だった───が
「あの言いにくいのですが…………ライザ=ラウザならとっくに亡くなってますが……」
「な!!?」
亡くなっていても仕方がなかった。
既に、長老が出会ってから100年近い年月が経っている。
長老はその事をすっかり失念していた。
◇◇◇
キンタローが、妖精の森を経って3日目の朝、ミカンは森より高く飛び上がっていた。
『ミカーン、何かー見えるかー』
キンタローがそう言うと、ミカンはスルスルとキンタローの頭の上に降りて来る。
『道があったの~。多分お昼頃には着くの~』
キンタロー達は、朝ごはんを食べて出立する事に決める。
キンタローは、リュックから木苺を取り出し、ミカンにあげると『わーいなの』と、すぐ食べだしたのだが木苺の汁が、キンタローの頭の上にこぼれ落ちる。
頭の上から、はたき落とされた。
キンタローは自分たち用に黄色い小玉スイカ位の果物を取り出し、皮を剥き始めた。
『また、《マーレ》なの~? その内お腹壊すの~』
キンタローには《胃腸強化》があるので、全く問題無い。
お腹を壊す毒があるが人族に限ってなので、クマゴローにも問題無い。
むしろ、甘酸っぱさが病みつきでキンタローの好物である。
リュックの中には、《マーレ》が荷物の大半を占めていた。
◇◇◇
キンタロー達は、朝ごはんを食べ終え出発した。
早く村へ行きたかった。
何せ、キンタローの主食は、生肉と果物と木の実である。
『炭水化物~♪ 炭水化物~♪』
『炭水化物なの~♪ 炭水化物なの~♪』
キンタローが歌い出すと、ミカンも意味も分からず真似て歌い出した。
『キンタロー、何だ? そのタンスインカブスって?』
キンタローは、それを聞いてプッと吹き出す。
クマゴローは、何で笑うのか分からず首を傾げた。
◇◇◇
三人は、昼前には森を抜け、街道の丁字路に出る事が出来た。
北に伸びる道を行けばドワーフ族最大の村ドワンゴに、西の遥か先にはジャンの商会がある村キタへ、東へ進むと大きな河へ突き当たり、その河の向こうに魔人族が住む領域がある。
長老やジャンから話をそう聞いていたキンタローは、ミカンに飛んでもらい確認する。
『村が見えるの~~』
ミカンはそう言うと、直ぐに降りてくる。
その時────ガバッとキンタローを乗せたままクマゴローが立ち上がり、鼻をヒクヒクと動かす。
『エルフがいる! 三人だ!』
クマゴローが西へ向かう街道を指差すと、キンタロー達に緊張が走る。
『こっちに向かって来ている! いや、その手前にも人族の匂いがする!』
『もしかして、エルフに追われているのか!?』
キンタローとクマゴローが顔を合わせると、お互い頷き『『助けよう!』』と声を合わせた。
◇◇◇
東へ向かう狭い街道を、1台の馬車が猛スピードで走っていた。
「お嬢! ダメだ! このままじゃ追い付かれる!!」
「頑張って! ドワンゴ村まで、もう少しよ。エルフも村までは入って来ないわ!!」
一頭引きの馬車には、御者とお嬢と呼ばれた女の子と怪我をした若者が乗っている。
女の子は、怪我をした若者を介抱しながら御者を懸命に励ます。
しかし、こちらは一頭引きの上、三人と大量の荷物を載せている。エルフに追い付かれるのも時間の問題だった。
(どうして、エルフが盗賊紛いな事を?)
「お嬢!! お嬢!! 前! 前を見てください!!」
御者がそう叫ぶと、後ろのエルフばかり見てた女の子は、前を向き顔をしかめる。
「ええ!? さ、サイレントベアー!?」
ちょっと助けを期待した女の子は、予想外の遭遇に驚愕する。
女の子と御者は絶望した。
後ろからエルフ、前からサイレントベアー。
しかも、このままじゃぶつかる。
終わった──と思ったが、女の子はサイレントベアーに誰か乗ってるのに気づいた。
その時、スッとサイレントベアーが端に寄る。
「今よ! サイレントベアーの横をすり抜けて!!」
女の子の声に、御者は思いきり手綱で馬車の向きを変える。
馬車とサイレントベアーが行き違う時、女の子はサイレントベアーに乗っていた黒髪の少年の声を確かに聞いた。
───あとは任せろ───と。
女の子は、バッと振り返ってみるとサイレントベアーに体当たりされ、吹き飛んで行くエルフが見えた。
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