17 二度目の旅立ち
※各話のタイトルの数字が1つずれておりましたので、修正しました。
長老(偽物)の事は長老(本物)もよくわからないってお話。
妖精族に庇護されてから、はや5年近く経とうとしていた。
森の中を鹿型の魔獣を追って走る、黒髪の少年。
魔獣が茂みを軽く飛び越えると、後を追っていた少年も、飛び越える。
キンタローは、10歳近くになり、すっかり少年と呼べる位にまでに成長していた。
背も大きくなり、マントを引きずる幅も減る。
特に《足腰強化》で強化されて来た脚は、茂みを軽い飛び越える跳躍力と鹿型の魔獣に追い付く位の走力を手に入れた。
この鹿型の魔獣、アンバランスバンビと言い、全体的に鹿なのだか、身体はムキムキで、何故か二本足で走る。
顔は小鹿の様に愛らしいが体つきとの差でアンバランスバンビと呼ばれていた。
アンバランスバンビは、決して人族から逃げる様な魔獣ではない。
最初、キンタローにそのムキムキの身体で襲いかかったのだが、強化された足腰で踏ん張り《衝撃耐性》のお陰で全くダメージが無い。
その時、キンタローにナイフで傷つけられ、逃げ出し今に至っていた。
アンバランスバンビは、すっかりキンタローに注視しており、脇から出てきたサイレントベアーに気づく事なく倒れた。
『美味しいとこ、持ってかれた』
『そう言うなよ。元々二人でって、話だったろ』
キンタローは、不貞腐れながら、アンバランスバンビを解体している。
このまま持って帰ってしまうと、妖精が驚いてしまう。
クマゴローも、成長し大人のサイレントベアーと変わらない大きさになっている。
解体していたキンタローのそばで『うわぁ、なの』と言いながらミカンが飛び回る。
ミカンも成長している。
背は伸びず、胸も大きくならず、性格も落ち着かず、迷子の頻度が少しだけ減った。
キンタロー達は、採取を終えて、妖精達の村に戻ってくる。
辺りには、東屋が4棟の他、家も数棟建っている。
家といっても、設計図を見て組み立てる簡易的な物だ。
「帰ってきたか、小僧」
長老長老詐欺の老婆の妖精が寄ってくる。
キンタローは、リュックから薬の材料だけ長老長老詐欺の老婆の妖精に渡す。
いつもなら、リュックの中にある果物や木の実も渡すのだが、今回は自分達の分だけしかない。
キンタロー達は今日妖精族の庇護を外れ、外の世界に出ることになっていた。
目的の大部分は、エルフの調査だ。
その為に、色んな村に行き情報を仕入れる必要があった。
キンタロー達は、挨拶するために長老に会いに行くと、お気に入りのカップで椅子に座り、ハーブティーを楽しんでいる最中だ。
長老の座っている椅子も、カップの置かれたテーブルも、キンタローがジャンに以前追加で頼んで作ったものである。
「おお、キンタロー達来たか。まぁ座るとよい」
長老が向かいの席を薦めたがキンタロー達は、そのまま地面に座りこんだ。
「つれないのぉ」
長老は、不貞腐れながら、カップの中のハーブティーを飲み干した。
「で、行き先は決めたのか?」
キンタローは、最初の目的地を悩んでいた。
選択肢は2つ。1つはこの森から出て、北にあるドワンゴ村というドワーフ族の住む村。
もう1つは、この森の西の最果てにある、ジャンが店を構える獣人族の住むキタ村。
「ドワンゴ村に行こうと思う。まず、武器が欲しい。このナイフも切れ味がいいが短いしな」
キンタローが、幼い頃父熊から渡された、恐らく実の母親と思われる魔人族のナイフである。
キンタローが武器を欲しがるのは、もしかしたら形見かもしれないナイフを使いたくなかったのもあった。
以前、ジャンに頼んではみたが武器は扱っていないし、勝手に商売するのも出来ないと断られた。
長老は、少し考えると何かを書き始め、それをキンタローに手渡す。
「昔、ドワンゴ村に行った時、世話をしてやったドワーフがいてな。名前をライザ=ラウザと言う。かなりの名工と言われておった。ソイツなら、いい武器を造ってくれるやもしれん。これは紹介状だ」
キンタローは受け取ると、紹介状をリュックにしまって、クマゴローに何かをそっと耳打ちする。
二人が急に立ち上がり、慌ててミカンもクマゴローの頭の上で立ち上がる。
『「今までお世話になりました!(の)」』
キンタロー達は、長老に向けて頭を下げた。
ミカンは、勿論頭の上から振り落とされていた。
妖精族全員が、大木の近くに集まり、キンタロー達を見送りに来ている。
長老長老詐欺の老婆も「餞別じゃ!」と回復薬と傷薬を分けてくれた。
「元気でな」
キンタローが長老長老詐欺の老婆にそう言うと「儂は、まだ二十歳じゃあ!」と叫びだす。
(ここに初めて来た時もそう言ってたな……)
あれから約5年──どうやら長老長老詐欺の老婆は、ただの年齢詐称の老婆だった。
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