14 名付けで、嫁が出来たみたいです
こんなに簡単にかわいい嫁が出来たら苦労はしない。ってお話。
キンタローは、今座りながら口元はニコニコと笑っている。
クマゴローも、今座りながら口元はニコニコと笑っている。
ミカンも、今キンタローの頭の上でニコニコと笑っている。
しかし、三人とも目が笑っていない。
三人とも、口角は上がっているものの、目を見開き、一人の女性を一点に見つめていた。
その視線の先は、もちろん長老である。
名付けの説明を聞きにきていた。
因みに、ミカンは当事者のなのに、ただキンタロー達を真似ていただけだ。
「こ、怖いのぉ」
長老は、大きな切り株に座りながらタラーッと汗を一つかく。
隣で、長老っぽい老婆が相も変わらず「失礼なやつじゃ!」と騒いでいる。
「それじゃ、名付けの正確な説明お願いします。あ、クマゴローにも分かりやすくするため、魔獣の言語でな」
キンタローは、長老に切り出す。
実は、クマゴローは最近少し機嫌が悪いのに、キンタローは気付いていた。
特にクマゴローが長老から、名付けの事を聞いた辺りから。
ただ、機嫌の悪い理由はキンタローも、そしてクマゴロー本人も良くわかっていない。
『名付けは《契り》、魔獣でいえば番みたいなもの』
以前、クマゴローは長老からそう聞いた。
(あれから、ちょっとイライラする。なんだ、これ………?)
それは、所謂《嫉妬》だった。
それは、弟に先を越されたことか、はたまた、可愛い弟が取られたミカンに対してか、それとも…………
クマゴローが、真の理由に気付くのは、まだまだ先の話である。
◇◇◇
『さて、妖精の名付けに関してだったな。それには、まず妖精のルーツから話せばならん』
長老が言うには、妖精は基本、世界に広がる魔力が自然に集まり、人型に型取りして生まれる。
ここにいる妖精は、全てそうであり、ミカンも例外ではないとのこと。
ただ、最近は魔力自体が、かなり薄く、最近生まれた妖精は、8年前に生まれたミカンで最後だと言う。
(まさかの、年上……)
キンタローは、自分の見た目から恐らく5、6歳だと予測していたので、これにはちょっと驚いた。
長老は、話を続ける。
自然に生まれる妖精に対して、故意に妖精が生まれる方法が名付けである。
名付けで《契り》を交わした人族は、周りに魔力を集まりやすい。
つまり、新しい妖精が生まれやすい状態を作る手段であると。
『最近は、特に魔力が薄い。《契り》を交わしたとしても、中々集まらぬ。出来ればミカンにはワタシと同じ位の大きさの魔力を集めてもらいたいがの。ワタシの跡を継ぐために。ただ、それにはかなり時間が必要だと思う』
キンタローは、ふと思う。
なぜ、長老自ら名付けて貰って後継ぎを生まなかったのかと。
長老に聞くと、以前名付けて貰った者がいたらしい。
ただ、三年ほどしか一緒におらず、そしていつの間にか居なくなったと話した。
それが100年ほど前の話。
名付けはによる《契り》は一度だけで、その後、他の人族に名付けては貰ったが無理だった。
『つまり、長老様は後継ぎ欲しさに特に詳しい説明をミカンにせず、名付けをさせたって事か』
キンタローは、長老に問いただす。
『いや、ミカンに説明はしておる。覚えてないだけであろう?』
キンタロー、クマゴロー、老婆は揃って『あー』と納得した。
◇◇◇
『まあ、特に何かしなくちゃいけないみたいじゃないし、このままでいいよ』
キンタローは、かなり軽く了承した。
『そう言ってくれると助かる。もし、ワタシが亡くなっても、ここの空間が閉じられ多くの妖精族が死ぬだけだしの』
急に話が重くなる。
キンタローは、急な爆弾に思わず顔をしかめるが、半ば諦めたのか『善処する』とだけいい、立ち去っていく。
クマゴローも、別にミカンがキンタローの嫁になるとか、そんな話では無いことに安堵し、キンタローの後を追い、横に並んだ。
◇◇◇
長老は、くくく……と笑いながら、立ち去るキンタローとクマゴローを見て懐かしさを感じた。
性別も、種族も違う。
しかし、二人の後ろ姿は、かつての自分と、自分に名付けてくれた幼い金髪の少女が重なる。
長老は、切り株の上に横になり、(今……どこにいるんだ………………サフィエル…………)そう呟くと、空を見上げた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
感想は特に褒める為のものじゃないよ。ちょっとでもこの作品が良くなる為のもの。だから、書いてみる?上から書けるよ
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