最終話 不運な“スキルを持った”少年は、転生したら“現在”異世界“最”初の人間“でした”。
床の揺れが次第に大きくなっていく。
「あの、私を繋いでいた機械に連れていってください。揺れを止めます」
管理番号017は、キンタローに詰め寄る。
「あー、無理だ。壊しちゃった」
壊れた機械の残骸をチラッと見ると、申し訳なさそうに017に伝える。
「壊したって……なんて事をするんですか! このままだと、ここの場所崩れますよ!?」
「……流石にそれは不味いな。よし、脱出するか!」
全員に向かってそう言うと、キンタローは見えない壁の側に戻る。
サフィエル達のいる場所は、特に揺れている様子は無い。
両親と兄弟は心配そうにキンタローの側にやってくる。
「父さん、母さん、兄弟。オレは行くよ。大勢の家族が待っているんだ。会えて嬉しかったよ」
もっと一緒にいたい衝動に刈られるが、キンタローはサイレントベアーの息子。守る家族がいる以上、優先すべきは家族なのだ。
「私達も会えて嬉しかったさね。クマゴロー、キンタロー」
二人の名前を呼び涙を流す。キンタローの目も潤むが袖で拭き取りクマゴローの背中を叩き合図すると、振り返った。
「父さん、母さん、兄弟。オレの子ども達を見せてあげたかったよ」
それだけ言うと、二度と振り返る事はなくキンタローとクマゴローはみんなの元に駆け寄る。
「サフィエル。元気でね」
アリエルもそれだけを言い残し、同じようにサフィエルの元を離れていく。
両親達の側にサフィエルと長老が来ると、全員でキンタロー達を見送る。
「出口わかるか、レイナ」
「えっ? レイナって私ですか?」
「ああ、017の語呂合わせでレイナだ。嫌なら“コードに縛られる少女”と呼ぶが?」
「是非、レイナで」
ただの嫌がらせにしか聞こえず、しぶしぶ了承するレイナ。
「で、出口は?」
「機械、壊しちゃったんですよね。えーっと……」
必死に脱出を考えるレイナ。しかし、床の揺れが思考を妨げる。
「崩れるのがわかっているなら、緊急用の非常出口とか無いのか?」
「あっ! あります」
キンタローに促される形で、思い出したレイナ。キンタローは、クマゴローにレイナを背負わせると、レイナが指示したエルフ達が現れた出口に向かう。
一度出口前で立ち止まるが、再び歩み進む。
「いっちゃったさね」
「ああ。オレ達も帰るか」
キンタロー達を見送ると、サフィエルは神罰の槍を肩に担ぎ出口へと向かい、母親達も後に続いた。
◇◇◇
「次はどっちだ?」
「左です」
目は見えなくとも通路を把握しているのかレイナの指示で、脱出に向かうが、床の揺れはどんどん激しくなる。
「次は十字路だ、どっちに行く?」
「十字路! 左です。そして、突き当たりを右に曲がれば一直線です!」
もうすぐ着くと聞き、全員の足取りが軽くなる。左に曲がった後、突き当たりを右に進んでいく。そして、行き止まりになっていた。
「おい、行き止まりだぞ。いや、そうか!」
キンタローは行き止まりの壁に手で触れると、手が吸い込まれる。キンタローを先頭に壁の中へと歩みを進めた。
「おいおい。本当かよ!?」
最初に出たキンタローは、壁の先が意外な場所である事に驚く。キンタローの後から出てくる者達も冷や汗をかく。
そこは、キタ村の奥にある丘の木の根元。ノイルが来た時も、エルフが来た時も、避難場所と指名してきた丘であった。
エルフ達は知らなかったのかもしれないが、もし知っていたと思うと、多くの被害が出ただろうと、たやすく推測出来た。
「……家に帰るか」
キンタローは帰宅の途に着いた。
家へと帰ると、正門からキンタローの帰りの連絡を待っていたフラム達を驚かすのだった。
──そして、更に三年の月日が経過する。
キンタローが村長に就いて十年。そして二十歳となったキンタロー。
お祝いだと、村を上げて、村の中央で盛大に宴会が始まる。宴会は昼から始まると、予定していた時間を大幅に越えて、深夜まで続いた。
「おめでとうございます。キンタローさん」
「レイナ? 何だよ、今頃。体調は大丈夫なのか?」
「はい。休んだお陰で今は。遅くなってでも挨拶しなければと来たのです」
017ことレイナは、今ではすっかりキンタローファミリーだ。目は見えずとも、流石にこのイズーリアを管理してきただけあり、その知識によってキタ村は発展を遂げた。
「ん? レイナ、グラスが空じゃないか。注いでやるよ」
キンタローは、酒の入った容器を持つとヨロヨロと千鳥足気味でレイナに近づく。
キンタローが容器に入った酒を注ごうと傾けた時、グラスを落としてしまい割れる。
周囲を含めキンタローも落ちたグラスに注目が集まる。
『キンタローぉぉ!!』
いち早く気づいたのは、キンタローが座っていた側にいたクマゴロー。
クマゴローの叫びにより、周囲がキンタローに集まったその時!!
キンタローの心臓にレイナが持っていたナイフが突き刺さった。