104 手応えの無い結末
「私と決着……ですか? ふふ、まぁ良いでしょう」
アルメイダは立ち上がるが身構えもせず、棒立ちになっている。
「その前にアルメイダ。お前の目的はなんなんだよ」
「目的? そんなの決まっているじゃないですか。このイズーリアって世界はゲームなんですよ、私が作ったね」
高らかな笑い声と共に満面の笑みを見せるアルメイダ。
「ゲーム? ふざけるなよ、そんな理由でオレをここに転生させたのかよ!!」
キンタローは、見えない壁に拳と共に悔しさをぶつける。
「違いますね、八雲さん。あなたの転生なんて“不運”というスキルを完成させるだけのものです。私の計画はもっと前からなんですよ」
ニタリと嫌な笑みを見せるアルメイダをキンタローは、睨み返す。だが、落ち着けとばかりにアリエルがキンタローの背中に触れた。
「最初からってことでいい? アルメイダ」
「どういう事だよ、アリエル」
口を挟みこんできたアリエルに対してサフィエルが反応する。
「サフィエルも見た“イズーリア計画”。あの計画の原因、大量の魂の流入、あれもアルメイダが元凶ってこと」
「ええ、そうですよ。ほら、ゲームの駒は、たくさんあった方がいいじゃないですか?」
サフィエルだけでなく、この場にいた全員が不愉快な顔をする。
「ふふ、いい顔ですね。ちなみにイズーリアにいた人間族の暴走も私が作ったプログラミングが原因ですよ。そして、人間族を滅ぼす為に作ったシステム。それがあなたですよ、サフィエルさん」
「なっ!?」
アルメイダの言葉にサフィエルは、脱力感から構えていた槍の切っ先が下がる。いい気味と笑顔を見せるアルメイダは、話を続けた。
「ところが本来人間を滅ぼせば廃棄するはずだったのに、何故かサフィエルさんは残ったみたいですね。
まぁ、サフィエルさんは所詮はシステム。随分と弄って遊ばせてもらいましたけど。上手く“神格化”のスキルまで完成しましたし」
「もういい。“不運”といい“神格化”といい、大体そんなスキル作ってどうするんだよ! おい、サフィエル!! しっかりしやがれ、過去なんてどうでもいいんだよ! 大事なのはこれからだろ!」
キンタローは、これ以上アルメイダに振り回されるのに腹が立ちサフィエルに発破をかける。
「だから言ったでしょう。このイズーリアはゲームなのですよ。ほら、八雲さんがいた世界にあるようなゲーム、あれです」
「うるせぇよ、こっちはお前のせいで施設育ちだからな、ゲームなんてした事ないんだよ」
検討違いな怒りのキンタロー。
「どうして“不運”なんてスキルが必要なんだよ、アルメイダ……。八雲……キンタローにそんなスキル渡す必要ないだろ」
サフィエルは顔を伏せながらも消え入りそうな声で話す。
「何言ってるのですか? ゲームですよ、ゲーム。デメリットのないゲームなんて面白くも何も無いじゃないですか!」
アルメイダは至極当然の様に語る。サフィエルは槍を持っている手を更に強く握った。
「もういい、アルメイダ。この事は主神様も知っている。終わりだ、アルメイダ」
槍を再び構えて戦闘体勢に移ると、突進していく。正面から突っ込んでくるサフィエルに対して、アルメイダは躱そうとしない。
「そうなんですよねー。主神様にバレたくなかったのですが」
そう言うとギリギリ迄引き付けてから、あっさりと脇を通り躱して見せる。そこに死角から母親の拳が飛んでくるが、腕を掴むとそのまま一回転して、再び突進してくるサフィエルに向かって投げつけた。
「ふふふ、無様ですね。記憶も無くなり力も失い、哀れ過ぎますよ」
笑いながら相対していくアルメイダに、父親と兄弟が同時に殴りかかるが、父親の蹴りを受け止め掴むと兄弟へと先ほどと同じく投げつけた。
アルメイダの体さばきは見事としか言えず、襲いかかる母親達の攻撃を笑いながら躱す。
油断。アルメイダには無いはずだ。しかし決着は側までやって来る。
母親達のしつこい攻撃に、ジャンプ一番、飛び上がるとそこに丁度、長老が羽を駆使して飛びかかるものの二度とくらうかと避けて見せた。と、その背後からサフィエルが槍をアルメイダに向けて突進してくる。
槍がアルメイダの腹を捉え、そのまま地面に落ちていく。
「残念です、ここまでですか」
落ちながらもそんな事を呟く。しかし、神罰の槍に刺されたアルメイダは、体が粒子となり上に召されていく。
「キンタローさん」
キンタローを八雲と呼ばず、キンタローと呼ばれアルメイダを見る。
「ふふ……せいぜい二十歳までは生きてくださいね」
そう言い残しアルメイダの体は、露となり消えた。
「終わった……のか?」
手応えが無さすぎる。
予想以上にアッサリと終わり、戸惑いを見せるサフィエル。キンタローも同じように納得がいかず、消化不良だった。
「う、う……ん。こ、ここは?」
キンタローの後ろで寝転がされていた少女が目を覚ます。少女は目が見えないらしく、四つん這いで辺りを探っていく。
「大丈夫か、あんた?」
「は、はい。あの……あなたは?」
キンタローが差し出した手を受け取りながら、少女は立ち上がる。
「オレはキンタロー。あんたは?」
「私は管理者番号017です。名前はありません」
キンタローと話している最中、アリエルも側にやってくる。
「私は元女神のアリエル。あなたは何をしていたの?」
「え? そう言えばアルメイダにイズーリアの秩序を守る為に必要だって、言われて……」
「アルメイダはもういない。あなたはアルメイダに騙されていた」
騙されていた、そう言われて落ち込む017。事情も聞き愕然とする。
「私のせいで迷惑を……」
「悪いのはアルメイダ。あなたじゃない」
そんな時だった。地面が大きく揺れ始めたのは。
次で最終話となります。
その次はエピローグになり完結となります。