102 アリエルは、とても満足そうだ。
「キンタロー。あれがアルメイダ」
「なにっ!?」
アリエルに教えられても思い出さないキンタロー。
「酷いですねぇ。転生させてあげたと言うのに」
頬に手を当て、軽く微笑むアルメイダに対して、苛立ちを覚える。人を馬鹿にし、見下すような目をしている為。
キンタローは腰の剣を抜き、見えない壁に向かって斬り下ろす。しかし、恐ろしく手応えがない。もちろん斬れてはいなかった。
「あはは、無駄ですよ。謂わばそれは文字通り“次元の壁”。あなた方は私がここにいる映像を見ているようなもの。なのに……何故アリエルさんは、そちらにいるのです?」
「教えてあげな~い」
無表情のまま、舌を出しからかう。余裕を見せていたアルメイダのコメカミがピクリと動くのをキンタローは見逃さなかった。
「まあ、良いでしょう。アリエルさんがそちらに居ることなど些細なこと。それより、八雲さんにお礼を言わなければ」
「おい! その名前で呼ぶな。今のオレはキンタローだ」
アルメイダは名前の事には触れず、立ち上がり真っ白いワンピースのスカートをつまみ上げ頭を下げる。
「八雲さん、あなたのお蔭で“不運”というスキルが完成しました。ありがとう」
頭を上げると再び微笑むが、やはりその目は人を見下している。手出しは出来ない。故に口で負かそうとするが、どうしてもペースが掴めないでいた。
「なんだよ、その“不運”ってスキルは? そんなの貰った覚えねぇぞ」
「ふふ……それはそうですよ。なにせ、あなたが生まれた時に私が勝手に与えたのですから」
キンタローの不運は、八雲の時から。つまり、アルメイダが言っているのは八雲として生まれた時だ。
生まれた時から、ずっとアルメイダの手のひらで転がされてきた。そう思うと、キンタローは怒りに肩を震わせる。
「ふざけるなよ、てめぇ……」
キンタローは剣を何度も見えない壁に対して振り抜くが全く手応えがなく、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「落ち着いて……キン」
ニナに服の裾を引っ張られたキンタローは、強く拳を握りしめて我慢をする。アルメイダにペースを握られない様に、慎重に質問を続けた。
「エルフも……お前の仕業なのか?」
「エルフ? ああ、あの人形達ですね。ええ、そうですよ。私が教えたプログラミングで作った、ほら、そこにあるソレの劣化コピーですけどね」
アルメイダが指差す先には、壁に下半身がめり込みコードに繋がれた少女が。
「アルメイダ。あれは、もしかして管理者?」
「ええ。自分は管理者だから手出し出来ないなんて言うものですから、直接関与してないから大丈夫ですよーとか、イズーリアの秩序を守る為ですよーって、言ったらアッサリ信じましたよ。
ま、全部嘘なんですけどね。プログラミングも秩序ではなく、排除ですし」
今日一番の笑顔を見せるアルメイダ。
「さて、そろそろ“不運”スキルを回収させてもらおかしら?」
アルメイダは再び椅子に座り、目の前の機械を操作すると、キンタロー達の背後の壁の一部が開き、中からゾロゾロとエルフが現れた。
ゴルザもニナもアリエルも警戒し身構える。アルメイダだけは、ほくそ笑むのを見たキンタローは、お返しにと言わんばかりに、ニヤリと笑う。
『クマゴロー』
『おう』
キンタローは持っていた剣を更に強く握ると、クマゴローと共にゆっくり歩きだす。
向かったのはエルフ達の所ではなく、コードに繋がれた少女の所。
一度、アルメイダの方を向き、ヘラっと軽く馬鹿にした笑みを浮かべる。
「なっ!?」
驚いたのは、アルメイダ。キンタローは剣を振りかぶると、力一杯少女の前にある機械へと叩きこんだ。
『クマゴロー!』
『おう!!』
何度も機械へと剣を叩きつけるキンタロー。クマゴローは、少女のコードに噛みつき力一杯引き抜いた。
「な、何をするんですか!? わかっているのですか!? それを壊すと言うことはイズーリアが神々が二度と管理出来なくなるのですよ!」
クマゴローが壁から少女を抜き取ると、キンタローは剣を振るうのすら、めんどくさくなり足で蹴ったり、エルフに向かってぶん投げだす。
「あ? 何だよ、神々の管理なんてもう無いんだろ? だったら要らねぇじゃないか、こんなもん。ニナ」
「うん」
ニナの角が光り、足元に魔法陣が描かれる。ニナは頭を天井にぶつけない様に慎重に歩き、一番大きい機械を手で強引に引き抜くと、エルフの方に向かって軽く放り投げた。
「キンタロー」
アリエルが、親指で背後にいるアルメイダを差すと、そこには呆然としているアルメイダが。アリエルが見たかった顔が、そこにあった。
特に動く気配のないエルフを壊滅させると、キンタローはアルメイダの背後を見た。
アルメイダの背後の壁が開き、中から槍を携え突進してくる少女。
「アルメイダぁぁぁぁっ!!!!」