101 邂逅
キンタロー達は、白い壁の廊下を警戒しつつ歩みを進める。しかし、進めど直線の廊下には何もない。
「エルフ、いないの~」
ミカンの言う通り、人影もない。
しかし、それも時期に終わった。廊下の進んだ先には、下へと降りる階段があったのだが、その異常さに驚く。
「なんだ、これは!?」
その異常さは、まずは階段の長さだろう。階段の続く先が全く見えない。二つ目は階段自体が一枚の紙を階段状に折っているかのようである。最後にその階段のある場所である。廊下の先には、階段しかない。そう、壁も天井も床さえない。真っ暗な空間に階段だけが白く輝いているのだ。
「これ……落ちたら助からないな、キンタロー」
ゴルザが生唾を飲み込む音が聞こえてくる。キンタローが先ずは階段に足を踏み入れてみた。
「ん!?」
崩れないか足元を確かめながら、顔を廊下から出すと視界の端に、ここと同じような階段が目に入った。
恐らくここと同じ作りだろうと、何げなく向こう側の廊下の中を覗き込もうと前のめりになると違和感が。もう一つの階段の方にだけ、壁?があるのだ。
「なんだ、これ?」
見えないが壁らしきものに触れる。しかし、違和感が拭えない。ガラスだったらガラスという物質に触れた感覚がある。しかし、これにはそれがない。触ったというより、それ以上進むなと言う感覚だけが残る。
進みたくても、その先は奈落なのだが。
続いて降りてくるアリエル達も触れてみると、やはり同じだという。ただ、アリエルだけは何か知っていそうな顔をしていた。
「アリエル?」
キンタローは声をかけるが、ただ何かを考えて上の空のアリエル。
「取り敢えず進むか」
キンタローは先へと進もうとするが、一番難儀したのはクマゴローだった。
怪我のせいで立って歩くしかないのだが、熊の体型上、どうしても前に重心があり、下り坂など苦手で特に階段を降りにくい。
『クマゴロー、後ろ向きになって這うように降りればいい。すぐ下にオレがいてやるから』
クマゴローはキンタローの指示通り、後ろ向きに足から降りていく。
『ひいぃっ、怖ぇえ!』
足元が見にくい上、ちょっと横を見たら、奈落。珍しくビビるクマゴローに、キンタローは笑いを堪えていた。
◇◇◇
『ほら、あと三段だ。クマゴロー』
一歩一歩階段を降りていく、クマゴロー。ようやく一番下に着いた。
『くそぉ、誰だ? こんなの作ったのは。絶対ぶっ飛ばしてやる』
階段を降りきり、一息ついたクマゴローは、誰ともわからない相手に息巻いている。
一番下に着いた所は、まるで洞窟で、岩壁や床も岩で出来ていた。見えない壁の向こうも同じ所なのだが、やはり見えない壁があり、向こう側へは行けそうにない。
岩の道を進むと、行き止まりにぶち当たる。階段上と違い、あまりにも原始的な作りだが、どことなく自然に出来た物ではなさそうで、全員で壁をあちこち探っていく。
「キン……ここ」
ニナが指差した壁の一部が不自然に四角に凹んでいる。
「ニナ、ここは最初から凹んでいたのか?」
「触ったら、凹んだ」
キンタローの質問に首を横に振りながら、ニナはそう答えた、その時。重く何かが動く音が響きわたる。罠か!? 全員がそう思ったが、目の前の行き止まりの壁の一部が沈んでいく。どうやら扉になっていたらしい。
キンタローを先頭に警戒しながら扉をくぐると、そこはとてもとても広大な部屋で、天井も高い。何より目に飛び込んできたのは、異様な光景。
何やら様々な色のコードが繋がれた半身壁に埋まった少女。そしてその前に置かれた今も稼働していると思われる機械。
「エルフ!!」
キンタローがそう思うのも仕方ない。少女の耳は尖っておりエルフそのものに見えた。
「それは、エルフではありませんよ。八雲さん」
部屋の入口に立ち尽くしていたキンタロー達に、問いかける声。それは、見えない壁の向こうにもある機械の前に置かれた椅子から。
回転式の椅子が、くるりとこちらを向くと金髪のストレートの綺麗な女性が座っていた。
アリエルの目付きが、とても鋭くなり緊張した空気を張り詰める。
「ふふふ……お久しぶりですね、八雲さん」
不敵な笑みを浮かべながら、キンタローを八雲と呼ぶ女性それは……
「ええ……と、どちらさん?」
「ええっ!? 覚えてないのですか?」
キンタローは、見知らぬ女性に昔の名前で呼ばれて、不機嫌な表情を見せていた。