100 突入決行
突入当日。エルフの住処への出入口調査の報告が帰ってきた。
「今回も、発見出来ませんでした!」
キンタローに報告を終えた男は、部屋を出ていく。ここ数週間、発見の報告は聞く事はなかった。
「さて、行くか」
キンタローが椅子から立ち上がり、腰に剣を携え部屋を出る。キンタローの家の玄関には突入組と見送り組が、待ち構えていた。
「トーレス、五日だ。五日経って戻って来なければ、唯一残した赤い布の巻かれた木を切り倒せ」
「……わかりました。ついていけないのは不本意ですが、キンタローが戻って来れない時は、僕の責任を持って意向に添えるようにします」
トーレスはキンタローに頭を下げる。
「フラム、オレが居ない間はお前が、この家の長だ。アンリエッタと共に子供の事を任せた」
フラムとアンリエッタをしばらく抱き寄せる。そして、離れたキンタローに対して笑顔を向けるフラムとアンリエッタ。
クマゴローとハンスが、リュックを背負う。中には五日分の食糧が入っている。キンタローは、二足で立ちリュックを背負うクマゴローをじっと見ていると、
『あんまり、熊らしくないな』
『? オレは熊型の魔獣だが……?』
言いたい事が伝わっていない。サイレントベアーは、立ちはするが、普段は四足歩行だ。しかし、クマゴローは右手の怪我で、四足で歩きにくい為、こうして平然と二足で歩く所が熊らしくないと、言いたかったのだ。
「まぁいいか……よし! 出発だ」
キンタローの言葉にプギーが扉を開け、キンタロー達を見送った。
◇◇◇
最初に見つけた出入口に到着したキンタロー達。いよいよ、突入だと言うときにアリエルが、キンタローの服を引っ張った。
「話したい事がある」
「今か? 中に入ったあとじゃ駄目なのか?」
「みんなに聞かれても、いいなら」
真剣な目のアリエルを見て、みんなに聞かれて欲しくないと言うことは、自分の転生などに関する事なのだと気づく。
「いいよ、別に。それじゃ中に入るぞ」
緊張感の中、キンタローは赤い布に巻かれた木に手を触れた。
◇◇◇
キンタローを先頭に次々と、入っていく。
「な、なんだ? ここは?」
木を通り出た先には、白い金属の壁に囲まれた長い廊下に出る。
あまりにもイズーリアと違い、近未来的な壁に一同は困惑した。
幸いなのかエルフは一人もおらず、廊下の先にも姿は見えない。
廊下は明るく、光源を探すと天井自体が光っているようにも見える。壁に触れると、金属のように思えたが金属独特の冷たい感じはしない。
「なんだ、これは?」
キンタローが八雲だった時の記憶にもない、不思議な空間に困惑の色を隠せなかった。
アリエルも壁に触れるが、首を横に振り、わからないと示す。
「ワタシがわからないと言うことは、恐らく別世界の金属」
「別世界?」
アリエルは、キンタローが八雲だった頃に住んでいた世界を担当しており、別世界の事はわからないという。
しかし、何時までもここに留まる訳にはいかない。
「アリエル。話は、歩きながらでいいか?」
「わかった」
二人を先頭に廊下を歩き出した。
アリエルの話とは、この世界イズーリアに関する事だった。
この世界が、様々な異世界から溢れた魂の受け皿として作られたこと。
そして、キンタロー達が住む土地は、イズーリアと言う世界の一部で、小さな箱庭みたいな物。
当時“人間”という現在のエルフの様な種族がしており、人間以外の種族を蹂躙し始め、このイズーリア大陸は、他の種族の避難場所としての役目をしているという。
「“人間”……そんな種族がいたのか」
ゴルザの何気ない一言だったが、アリエルがキンタローが他の人に聞かれたくないだろうと思った原因だ。
「で、アリエル。人間は滅んだのか?」
質問をしたのは、キンタロー。アリエルは黙って頷いた。
「わかっているのは、増えすぎた人間を取り除いて、この世界を神々が放棄したという事だけ。管理者は、いるだろうけど恐らく関知しようとしていないはず」
「アリエル。それじゃオレは“人間”ではないのか?」
キンタローの言葉を聞き、ゴルザ達はざわつく。
「キンタローは……恐らく、“人間”。それはキンタローの子供を見ればわかる」
「シルビアもアルも、オレの特徴を色濃く受けついでるもんなぁ。……オレも排除するのか?」
アリエルは首を横に振る。
「神々は、ここを放棄したし管理者も動かない。何より、キンタローの帰りを皆が望んでいる」
キンタローが後ろを振り返ると、ゴルザもニナもハンスも強く頷いた。