97 暫しの休日①
キンタローの家のリビングに主だった面子が、集められ説明を始める。
「今現在、復興が始まりつつある中、これ以上エルフ共に好き勝手させない為にも、最優先でやらなければならない事がある」
キンタローは演説をしているかの様に、皆から注視される中、話を続けた。
「オレは、先日協力関係にあるサイレントベアー達を救うべく、森の中でエルフと戦っていた。その最中偶然だったが、ノイルの尻尾に吹っ飛ばされた事により、エルフが木の中から出てくるところを見た」
まず視線が集まったのはノイル。しかし、すぐにキンタローの発言から信じられないと、ざわめき出す。
「これは何ら不思議ではなく、妖精族の住処に入る為には、同じように木の中を通っていく。この事は隣のミカンが証拠だ」
「本当なの~、嘘じゃないの~、信じてほしいの~」
喋れば喋るほど嘘っぽく聞こえるミカンを捕まえ、懐に入れて黙らせる。
「しかし、妖精族の住処のと違うのは入口と出口があるという事だ。入口からは入れなかったのを確認している」
「なるほど。これで魔人族の領域にいきなり現れたのも、急に居なくなるのも説明がつきますね」
トーレスは顎に手を当て得心し、更にトーレスの話を聞いて魔人族達も頷く。
そんな魔人族達を見て、周りの俄には信じられなかった者達も、徐々に理解を示し出す。
「ならば、先ほどの最優先は、こちらに出てくる方を壊すのですね」
「あー、あえて一つ残そう、トーレス」
それを聞き目を開いてキンタローを見ると、ニヤリと笑っている。
「こちらから、攻めるつもりですか……」
更にキンタローの口角は、つり上がった。
「みんな聞いてくれ。まずは調査にオレとトーレスとクロウの三人で向かう。その後手掛かりが見つかれば、最優先事項になる。心しておいてくれ」
その場にいた全員が頷くと、次に復興についての話題に切り替えた。
「それで復興の手順だが……」
次々と手際よく復興の担当を決めていくのだった。
◇◇◇
『こっちだ、坊主。仲間の話だとこの辺りで見失ったらしい』
キンタローとトーレスとクロウは、早速調査へと乗りだしサイレントベアーの案内で、エルフを見失った森の中へとやって来ていた。
「よし、まずは片っ端から木に触れていこう。向こうへの入口なら吸い込まれそうになるはずだ」
トーレスとクロウに説明すると、試しに木に触って見せてやると、キンタローの手が木の中にすーっと入っていく。
「へ!? う、うわぁあ!!」
キンタローの叫びに慌てて、トーレスとクロウとサイレントベアーが、キンタローを引っ張り出す。
突然の事にキンタローは、胸を押さえながら明らかに焦っていた。
「い、いきなり当たりかよ!? ビビるわ!」
どうやら、当たりをいきなり引いたキンタロー。早速、何か手掛かりはないかと全員で見て回る。
キンタローの考えだと、出入口はこの世界にアチコチあるはずだと踏んでいる。それは、いきなり魔人族領域に現れた事で確信に近いものを持っていた。
ならエルフは、どうやって出入口を把握していたか。とても世界中にある木の場所を覚えているとは、思えない。
「キンタローさん、あれ、何っすか?」
クロウが指差す方向。それはキンタローが吸い込まれそうになった木のかなり上。キンタローは、目を向けるが、特に何もない。
「何もないけど?」
「えー! あるっすよ、赤い何かが。恐らく布っす」
再度見るが何もない。痺れを切らしたクロウがキンタローの側にやって来て、教えようとする。が、クロウは一度、何かあるという場所に視線をやると、首を捻りながら何も言わずに先ほどの場所へと戻った。
「やっぱりっす。キンタローさん、こっち。こっちから見てっす」
手招きして呼ぶので、クロウの元へ行き指差す方向を見ると、確かに赤い布が見える。少し横に移動すると、見えなくなった。
「なるほど、ある角度から見ればわかる様にしているのか」
しかし、これだとエルフ自身も見つけにくいはずだ。他にないかと辺りを再び探索する。さっきと違い今度は木の上部も。
「キンタローさん、ありました」
今度はトーレスが発見する。それは木の上部の枝に青い布が巻かれていたのだが、青々とした葉に隠れて見にくいがほんの少し見にくくしている程度だ。
「ここが出口か……」
不自然に巻かれた青い布。向こう側への入口には赤い布。十分に考えれると、トーレスを見ると頷くので同意見だと鑑みる。
しかし、何故青い布は赤い布と違い見えるのか。むしろ木の上を探したらアッサリと見つけるだろう。
おもむろに青い布のすぐ下にキンタローは立つと、赤い布のあった方向に視線をやるとニヤリと笑う。
キンタローの様子を見ていたトーレスも同じように青い布の真下へ来て、振り返り真っ直ぐ視線をやると、その先にハッキリと赤い布が見えた。