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不運な少年は転生したら異世界初の人間でした  作者: 怪ジーン
第8章 エルフと死竜と魔王
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94 それぞれの戦い アンリエッタ編

「ぉぎゃあ、おぎゃぁ」


 アンリエッタの腕の中で、泣き続けるシルビア。アンリエッタはシルビアを抱え、一人、村の建物の間を走っていた。


 フラム達とは、避難場所の丘へ向かう途中で、乱戦に巻き込まれ、離ればなれに。合流したいが避難場所へ続く道は、乱戦状態で通り抜けられない。やむなく、遠回りになるが、裏道を抜けて行くしかなかった。


「はわっ! よしよし、シルビアちゃん泣かないで」


 途中シルビアをあやしながらなので、中々先へ進めずにいた。


 裏道を抜けて少し広い道が見え、建物の陰から様子を伺う。誰もいない。戦争中なのに、人影がない。静寂の中、アンリエッタの飲み込む唾の音だけがやけに大きく聞こえる。


「行くよ、シルビアちゃん」


 意を決して道へと飛び出したアンリエッタ。その時、遠くから轟音が聞こえ、立ち止まり音のした方へ振り向く。


「はわっ? あれは、ノイルさん?」


 遠くで黒い巨体の影が動くのが建物の隙間から見える。方角からして正門の方だろう。アンリエッタは一息ついたのはノイルが来るということは、キンタローも一緒だと示唆していたから。


 アンリエッタは忘れていた、本来なら広い道で立ち止まる事は、危険だということを。だから、気づかない。背後から狙いを定める弓の存在を。


「おぎゃぁ! ぉぎゃあ!!」


 突然手足をバタつかせ、暴れるシルビア。アンリエッタは思わず、落としそうになり前のめりの態勢になる。


「はわっ!」


 その時、ヒュッと風切り音が聞こえた瞬間、右肩に激痛が走り倒れこむ。左手一本でシルビアを支えようと踏ん張るが、落とさずには済んだものの、シルビアから手を離してしまう。


 背後から足音が迫る中、アンリエッタは自分が矢を受けた事と、今の現状が非常に不味いと察してシルビアを守ろうと手を必死に伸ばす。シルビアの産着を掴んだ、と思った瞬間、シルビアは何者かに持ち上げられる。恐る恐る、上に目をやると、そこにはシルビアをぶら下げているエルフが。アンリエッタの顔は、蒼白となった。


「シルビアちゃんに何をする!」


 アンリエッタが見ていたエルフは、突然横からの影に吹き飛ばされる。完全な不意討ちをくらい、シルビアがエルフの手から落ちる。アンリエッタは右肩の痛みを無視して、両手でキャッチした。


「シルビアちゃんに指一本触れさせん! 我ら、アンちゃん親衛隊改め、シルビアちゃん親衛隊参上!!」


 アンリエッタの前に五人の人影が現れる。それは、元アンリエッタ親衛隊の猿顔の獣人グツワと犬顔の獣人メリ夫婦を始めとする馬顔の獣人、鹿顔の獣人、羊顔のお爺さんだ。


 まさかの登場にアンリエッタの頭の中は混乱している。


「はわっ! 皆さん……また、勝手にそんなの作って。キンタローに言っておきますね」

「「「「ええっ!」」」」


 助けたはずなのに、ピンチになる五人組。しかし、すぐに気を取り直して気迫溢れる面構えでエルフに対峙する。もちろんブラフ。シルビアちゃん親衛隊はただの村人だ。


 しかし、エルフは気迫に負けて逃げだそうと後退りをすると、何かにぶつかった。


 エルフの背後にはとてつもない怒気を孕んだアマンダが立っていた。


「シルビアお嬢様とアンお嬢様に何をするんですか!!」


 エルフの襟首を掴むと、背負い投げの要領で三階建ての建物と同じくらいの高さまで放り投げると、エルフは泡を吹いて動かなくなった。


「アンちゃん!」


 フラムがアンリエッタの側まで駆けつける。


「はわ。フラム姉さん……ごめんなさい、わたしシルビアちゃんを危険な目に……」

「何を言ってるのよ! こちらこそありがとう、シルビアを守ってくれて……」


 アンリエッタもフラムも涙を浮かべる。しかし、そんな暇は無い。


「アンちゃん親衛隊の皆さんも、ありがとう。あなた達も一緒に来て」


 グツワが人差し指を立てチッチッチッと鳴らす。


「我らアンちゃん親衛隊改め、シルビアちゃん親衛隊!!」

「……そう。とりあえず一緒に来て。あと、この事はキンタローに伝えておくわ」


 各々独特なポージングをするが、フラムの答えに背中には冷や汗を大量にかいていた。


「アンちゃんの治療は、安全を確保してから行うわ! ハンス、アンちゃんを背負って」

「任せてください、お嬢!」


 ハンスがアンリエッタを背負い、全員走り出そうとした瞬間。


「はわわっ! フラム姉さん、あれを」


 この場にいた全員がアンリエッタの指差す方角に目をやると、天に昇る光の渦が遥か向こうに見えたのだった。


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